見出し画像

7.3 一般ユーザ向けWebと業務向けWebにおけるツール/SaaSの違い

 Webの登場からしばらくの間は、Webとは「不特定多数への情報発信、コミュニケーションのツール」である側面が強かったと思いますが、2010年代に入って急速に増えてきた各種のSaaSには経理/営業/販売店管理/プロジェクト管理など会社内での特定の業務を行うためのものも増えてきています。また一般ユーザ向けのWebではあるもののWebの初期から独自の一カテゴリを構成してきて、各種ツールも存在するのがECといえるかと思います。
 
特定業務のためのSaaS/ツールのカテゴリとしては、下記のようなものがあります。

SaaSやWebツールがいろいろある業務カテゴリ

これらのサービスは、それぞれ用途が明確に規定されていて、その用途に合った画面・UI・機能が用意されているので、初期設定もそれほど難しくなく、htmlやシステム開発の知識なく導入できるものが多いため、急速に広まってきているのだと思います。
 
一方で、一般ユーザ向けのWebのためのツール/サービス/SaaSというと、まずは各種CMSがでてきて、htmlがわからなくてもWebページが作成できる手段ができましたが、当初はWebページが作成できるようにするまでの設定作業にはやはりhtmlがわかる人間やシステム部門の人間がかかわる必要があり、かなり専門性が必要とされていました。
ただ、最近は各CMS用 (特にWordPress用)のよく使われるレイアウト・デザインセットをテンプレートとして多数提供されるようになり、会員サイト機能を実現できるプラグインなども提供しているところもあったりするので、かなりのところまでできあいのテンプレートやプラグインを組み合わせて設定するだけでもできるようになってきました。
また、それらのテンプレートやプラグインをもともとサービス内に用意しているSaaSのサービスでWebサイトが簡単に作成できるようなサービスも増えてきているので、「情報を伝える」という目的(=業務)の一般ユーザ向けのWebサイトとしては、特定業務向けのSaaSにかなり近づいてきて簡単に作れるようになってきたかと思います。
 
 ただし、対外的な一般ユーザ向けのWebサイトによくみられる目的としては、単に情報を伝えるだけでなく、よりマーケティング目的を担わされているものも増えてきています。その中のひとつがWebサイトでニーズとシーズのマッチングを行うというものがあります。企業の会社HPであれば、その会社が提供する製品やサービスを紹介して、Webサイト上で販売するわけではないにしても、来店促進させたいなどの目的をもっていたりします。また、クラウドソーシングサイトは仕事を依頼したい企業と働き手をダイレクトにマッチングするサービスですし、多数ある求人サイトなどもマッチングしているかと思います。
 
 Web/インターネットは、コミュニケーションコストを劇的に下げて、距離の制約もなくしたところが大きいわけですが、それによりWebで実現したくなる大きな用途のひとつは「ニーズとシーズのマッチング」です。もちろん、ニーズとシーズをマッチングさせるためには、ニーズの説明もしないといけませんし、当然シーズとしての製品やサービスの内容から特徴・他社との差別性などの各種「情報を伝える」ことはまずは必要となります。
 
 一般消費者向けの商品で、消費者がそのカテゴリの商品のことを使ったことがあったり、使ったことがなくてもどのようなものでどのように使うものか知っているような商品の場合や、B to B 向けの製品でも購入側の担当者がその分野の経験があり詳しい人間であれば、ニーズ側/購入側で選択基準をもっているのでWebでのマッチングも難しくありません。しかしニーズ側/購入側が当該商品あるいは商品分野に詳しくなく、選択基準をもっていないことが多いという分野もよくあります。
 このような当該商品分野に詳しくない人がニーズをもっている人の場合、その人がWebで製品/サービスを探しているときに、A社のWebサイト、B社のWebサイトとみていたときに、A社のWebサイトではA社の説明の仕方で記載されていて、B社のWebサイトではまた異なるB社の説明の仕方で記載されているという状況となると、その分野に詳しくない人間ですので比較判断するのが難しくなります。
 
 このように一般ユーザ向けのWebサイトにおける大きな用途のひとつである「ニーズとシーズのマッチング」にはまだ改善の余地があります。また前述の特定用途向けのより作りこまれた各種SaaSと比較すると、ニーズとシーズのマッチングという業務に対するモデルがまだ十分にできていないという言い方もできると思います。
 もちろんニーズをもっている側の担当者がその分野に詳しくなく選択基準をちゃんともっていない場合でも、その分野の説明やその分野での選択基準の説明などもわかりやすく作りこんだWebサイトを作ることは不可能ではありませんし、なかにはそのようなよくできたWebサイトもありますが、一般的にはそこまでのWebサイトの内容を作りこむのは難易度が高いので、一般ユーザ向けのWebにおいては経理などの特定用途向けの各種SaaSと比較すると業務モデルがまだ十分に作りこまれていない段階といえます。
  

Webディレクタとして次のステップをさがしている方たちへ

これからのWeb構築・Webディレクションとして、業務にまで踏み込んでディレクション/プロデュースすること、それが近年のバズワードであるDXにもつながること、そしてWebの進化とともにWeb構築の各種ツール/サービスやSaaSが広がってきていることにしたがって、業務とシステムの両面からWeb構築・運用していく人間が求められていくこと、そのためにどのような知識や能力を身に着けていくとよいかについて解説している「マガジン」です。