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2.1 BtoB企業の会社HP構築 : 業務とシステムの関連性

BtoB企業、特に技術系のBtoB企業の会社HPを、ユーザとの接点となるとともにマーケティングツールとすることを目的とした会社HPのリニューアル案件について考えてみます。
このような会社HPの構築案件の場合、顧客企業の製品がどのような製品なのか、どのような場でどのように使用されるどの程度の金額の製品なのか、販売ルートはどのような形態か、購入の意思決定はどのようになされるか、製品を購入する顧客がかかえている課題はどのようなものなのか、などを把握できないと、会社HP (Webサイト) のコンテンツとしてどのような内容を用意するとよいか、Webサイト上でどのような見せ方をするとよいか (デザイン、サイトの構造をはじめとする情報設計・ナビゲーション設計など) なども考えることができません。

業種による会社HPの違い

 そのためか、Web制作会社の人間はBtoBの会社HPを扱うのを好まない人間も多いように思えますし、BtoBの会社HPのリニューアル案件の場合にはWebサイトに掲載するコンテンツは顧客に聞いてそれ以上の提案・検討はあまり行わず、サイト設計も一般的なものを設計して終わりという対応をしていることも多いような気がしますが、BtoB企業、特に専門技術分野に強い企業こそ、その分野特有のターゲットユーザ像があり、適したユーザとのコミュニケーション内容があり、ユーザ体験の設計やMAツールのアクティビティやスコアリングの設計をしがいのある分野かと思います。

a. 必要とされる業務理解

このような会社HP構築では、まず把握すべき業務とは「マーケティング」となります。一般的なWebを使ったデジタルマーケティングに関する知識や、その企業の製品特徴や使われ方、あるいはその業界での販売経路に関する知識などは事前に把握しておくとよいですが、

顧客ヒアリングによって、その企業のマーケティング・営業活動が現在どのように行われているか、現在かかえている課題が何か、会社HPをリニューアルしてどのような効果を得たいと考えているかなどを把握していくことができれば、システム理解と組み合わせて、顧客の要望・制約を踏まえた最適な会社HPの構築が可能となります。
 また、このようなマーケティング業務に関して理解すべき内容としては大きくふたつあります。顧客企業の製品を購入するお客様の購買行動と、顧客企業のマーケティング・営業業務の流れです

製品を購入するお客様の購買行動
製品を購入するお客様がどのような製品を探していて、どのような機能を求めており、価格/性能/拡張性などどのような点を重要視しているか、そして検討段階ではどのような情報を求め、発注先を決める段階ではどのような情報を求めるのかなど、会社HPでのユーザ行動に直接的な影響を与える顧客の関心事項・必要とする情報などが、まずは理解できるとよい対象です。会社HPのコンテンツや情報設計のもととなる情報となります。
 また、製品が直販で販売されることが多いのか、代理店経由での販売が多いのか、あるいは発注先を決めるキーマン自ら会社HPにアクセスしてきて情報を収集するのか、キーマンは情報収集する担当者の一段階/二段階上の上司なのか、などによっても会社HPにアクセスしてきた人間が必要となる情報が異なってきます。一般的にキーマンから遠い人間ほどスペックなどの具体的な細かい情報を広く求め、他社比較などの比較情報なども求める傾向があるかと思います。

顧客企業のマーケティング・営業業務の流れ
一方で、顧客企業、特に営業組織がどのような見込み客を求めているか、まだすぐ発注する状態にはなっていない段階の見込み客から広く見込み客リストをほしいのか、あるいはかなり発注確度が高くなった絞り込まれた見込み客のリストがほしいのか、によって会社HPのコンテンツもMA (Marketing Automation) としてのマーケティング機能にも求められる内容が異なってきます。見込み客としてある属性の人(エンドユーザ企業の人あるいはマネージメントレベルの人など)に限定して営業スタッフによるアプローチをかけたいのであれば、会社HPで取得するユーザ情報としてそのような属性項目を含めておく必要があります。

HubSpot (https:// www.hubspot.jp)

b. 必要とされるシステム知識

 会社HPをマーケティングツールとするためには、会社HPに掲載する情報・コンテンツも重要ですが、会社HPに訪問してくれた見込み顧客のナーチャリングも重要となりますので、いわゆるMA (Marketing Automation) のツールを利用することが想定されます。HubSpotやMarketoのようなMAツールのCMS機能を利用して会社HPの情報掲載を実現し、MAツールのフォーム機能で見込み顧客が資料のダウンロードなどをするときにメールアドレスなどの簡単な情報を入力してもらいユーザ情報を取得するとともに、会社HPを訪問したユーザのアクティビティをスコアリングして、一定の基準を満たしたユーザ情報は見込み顧客リストとして営業部隊に連携することが実現できます。

CMSとプラグイン・MAを利用した会社HP


 しかし、会社HPが大規模なサイトとなり多数の部門でそれぞれ更新作業を分担したい場合や、一部登録ユーザのみに提供する会員機能を提供するあるいはコンテンツは一元管理してそのコンテンツ管理のシステムからWebサイトも構築するなど高度な機能を会社HPに求める場合には、会社HPの構築は大規模サイト構築に適したCMSツールで構築した上で、マーケティング機能はほかのツールで実現したり、一部はシステム開発して実現するような実現方法も考えられます。
 まとめると、このような案件の場合には、MAツールでどのようなことができるか、ツールの設定だけでできる範囲とともに、ツールで用意されているAPIなどのI/Fがどのようになっていて、外部にアプリケーションを開発することによりどこまでできるかの理解があることがまずは重要となります。また、大規模なサイト案件などの対応の場合となると、大規模なサイトにも適用できるCMSツールについての理解なども求められてくることが考えられます。

c. 本タイプ案件における業務とシステムの両面からのWeb構築

 このような案件では、基本的にはMAツールの代表的なものを選択しておけば、会社HPとしてのコンテンツ掲載の実現と見込み顧客のナーチャリング、一定水準以上の見込みとなったユーザリストの営業部隊への提供というマーケティングが柔軟に実現できそうです。

 ただ、顧客企業が大企業で、さまざまな部署が会社HPのコンテンツ更新を対応することにより多くの情報・コンテンツを会社HPに掲載して見込み顧客に訴求することを目指しており、一部のユーザには登録してもらうことにより差別化した情報も提供するようなサイトを作りたいという要望がある一方で、見込み顧客のスコアリングや各種タイミングでのメール送信などのマーケティングアクティビティは重要ではない場合には、安易にMAツールでサイト構築をすると、MAツールの外側に構築しないといけないシステム開発部分が大きくなってしまい、サイトの機能変更に柔軟性が欠けてしまう可能性もあるので注意が必要です。また、代表的なMAツールは有償のツールである一方、NORENなどの大規模サイトにも対応できるオープンソースのCMSソフトがありますので、予算制約の観点からもNORENなどのCMSをベースに構築するほうがトータルでいいものが予算内で構築できる場合もあるかと思います。


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