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7.4 一般ユーザ向けWebサイトにとっての次の進化: マッチングの機能の進化

 これからもサイトをより簡単に構築/運用することのできるツールやサービスがいろいろ登場してゆくと思いますし、それはそれぞれある用途を想定したある業務モデルを背景にしたものとなると思います。

 一般ユーザ向けのWebサイトの用途として大きなもののひとつがニーズとシーズのマッチングにあるところから考えると、一般ユーザ向けのWebサイト構築方法の進化のひとつのポイントは、さまざまなニーズとシーズをマッチングさせる仕組みとしてどのようなものがあるかというところにあるといえるかと思います。本ドキュメントの最後の節では、どのような仕組みが必要か/どのような仕組みを作るとよいかを検討したいと思います。
 

a. 現状のクラウドソーシングの限界と業界知識/専門分野知識の体系化

 Webで製品・サービスを提供している企業がその製品やサービスの内容や特徴、他社との差別性をWebサイト上に掲載してお問い合わせをWebフォームで受け付ける形態はWebの初期からありましたし、求人企業と求職者をマッチングする求人サイトもWebの初期から多数存在していましたが、2010年代に新しい形態のWebサイト/Webサイトとして登場してきたのがクラウドソーシングです。

クラウドソーシングは仕事のマッチングをWeb上で行い契約・支払いまで行ってしまうもので、それまでのWebサイトでまずは情報提供して興味をもってもらい最終的には契約前に対面で合って詰める形態とは異なり契約・支払いまでWeb上で完結させてしまうものです。求人サイトなども契約/就職前には面談などを行うものであったのが、単発のバイトをWeb上だけで探すことのできるタイミーのような求人サイトも出てきたのと類似の進化ではありますが、クラウドソーシングにはまだ大きな限界があります。
 
 クラウドソーシングはさまざまな仕事を依頼できるというサービスのたてつけになっていますが、仕事には具体的な依頼内容がわかりにくいものも多くあります。

コンビニでのバイトであればまわりに経験したことがある人もいたりしますし、そもそも業務がマニュアル化/定型化されているので店舗ごとに基本的に同じものとなっているので、仕事のマッチングとしてもどのコンビニのどの店舗で週何日以上働くかということを提示すれば、働く側が事前情報をもっていてどのような業務か想定できるところがあります。

しかし、システム開発のような業務の場合には、要件定義から行う必要があるのか、すでにシステム設計書ができあがっていてプログラム実装だけを行えばよいのか、ほかのベンダと結合して動作させる必要がありベンダ間の調整も依頼元に専門知識がないのでベンダ間で行う必要がある場合もあります。

また、システム開発の依頼元がシステムに関しての知識やシステム開発の経験がない場合だと、依頼内容や依頼範囲について依頼元がきちんと説明できない場合も珍しくありません。

それでも、案件規模がある程度以上大きい場合には、このような仕事の依頼内容の把握/ヒアリングに手間をかけることもペイさせることができますが、現状のクラウドソーシングには3万円とか5万円とかの少額の案件も多く、そのような場合には仕事を請ける側が受注してから仕事内容を手間ひまかけてヒアリングして明確にすることはペイしなかったりもしますし、そもそも対応できる範囲を超えている業務を要求されていることが受注後に判明することもあり、いったん受注しても結局は契約無効となることもよくあります。たとえば、下図のような技術的課題の解決を依頼したいというようなことは技術業務を行っていればよくありますが、現在のクラウドソーシングサイトではマッチングが難しい例です。

 クラウドワークスやランサーズのような大手クラウドソーシング企業も、Web上のクラウドソーシングサイトの運営だけでなく、既存の求人企業と同様の人的な人材紹介サービスも展開するようになっていますが、現状のクラウドソーシングに代表されるWebでのニーズとシーズのマッチングには上図のような場合以外にもなかなかうまくいかない場合が多数あります。
 
 このようなWebでのニーズとシーズのマッチングの限界は、依頼元と依頼先が依頼内容について、Web上で容易に明確に規定する仕組みがまだ存在していないことが根本的な原因です。

依頼元がその依頼内容について十分に把握していて、Web上で依頼先が理解できるようにきちんと資料にして提示することができればよいのですが、多くの場合には依頼元が十分に依頼内容を詳細に規定できません。把握はできている場合でも、Web上で知らない第三者にわかるような内容提示をするのは手間をかけて資料を作成する必要があることが多く、そこまでの手間をかけることができない場合が多いかと思います。

 対面であっても、初対面の人に対して仕事の内容を説明するのは簡単ではない場合も多いですが、対面の場合にはわからない場合にはそのタイミングで質問もできますし、説明している側も依頼先の人の反応をみて、よくわらない反応をしていれば、説明を変えることもできます。Web上でニーズとシーズのマッチングを行う場合には、やはり対面と比較すれば依頼先の人が理解できるようなわかりやすい説明を十分に用意する必要性が強いかと思います。

必ずしも依頼業務の内容について詳細まで把握できていない依頼元が、Webサイト上で依頼内容を明確に規定できるようにするためには、依頼業務についてのフレームワーク/モデルが用意されている必要があるかと思います。

当該業務分野についてのフレームワーク / モデルが用意されていて、依頼元の人はフレームワーク / モデルをまずは選択したら、選択した分野のフレームワーク / モデルでの詳細内容を規定するパラメータとして指定すべき項目がフレームワーク / モデル側から提示されるのに従って指定すればよいというレベルの簡単さになっていることが必要だと思います。ここでいうフレームワーク / モデルというものがどのようなものかもうすこし説明していきたいと思います。

 
b. マッチングのために必要となる業務知識 / 専門分野知識のフレームワーク

 このようなニーズとシーズをWeb上でマッチングさせるために必要となるフレームワーク / モデルとは、分野/カテゴリごとにおおむね規定されている/決まっている仕事の構造を規定したものです。分野/カテゴリごとの仕事の構造とは、基本的にこの作業からこの作業までは必要で、その内容もおおむねはこのような内容だが、案件によって変わるところがこのあたりであるという分野ごとにおおむね決まってくる業務内容です。

 機械学習に関する業務を依頼したいというクラウドソーシングを例にとってモデル/フレームワークがどのようなものか説明します。機械学習に関する業務依頼といっても、下記のようないろいろな依頼内容が考えられます。
 
1.     ツール使い方の個別指導
2.     実入力データとエラー内容から解決策を提示する課題
3.     データ前処理とデータ作成方法の課題
4.     学習結果の解釈と判断の課題
 
1から4それぞれについて、必要とさせる専門性が異なりますので、請けられる会社/請けられる人が変わってきます。1. のような業務であれば、そのツールの使い方について習熟していれば対応できます。1.はツールの使い方の指南業務です。

2. はツールの基本的な使い方はわかっている人に対して、具体的な入力データを共有してもらって、エラーとなった理由を解説してどのように処理すべきであるかを説明するタスクなので、一種のサポート業務/問い合わせ対応業務です。

機械学習というと、学習させるためのデータを集めて学習結果からうまく推論機能するようなものを作り上げることが目的となることが多いわけですが、うまく学習させるためには学習用のデータをどのように十分集めて、場合によっては学習される前に前処理をデータにほどこす必要があります。3. のような課題に対応してあげるのは1. とは全く異なる種類のタスクで学習対象のシステムや業務に対する理解/ヒアリングなども必要となるコンサルティング的な要素も含まれる業務です。

4. は機械学習というデータ処理分野についての専門性と経験を求められる業務です。学習対象のシステムについての詳しい理解までは求められない場合もありますが、具体的な学習結果を共有してもらって、十分に学習されているか、もうすこし学習データを増やしてみて学習させたほうがよいかの見解を提示するタスクなので、3. とは別の種類のコンサルティング業務となります。
 
 機械学習関連の依頼業務といっても、上記の1から4までのタスクでは、対応できる会社や人は異なってきますので、クラウドソーシングなどでマッチングする際に、どの種類のタスクであるのかが明確にわかる形で提示されている必要があり、明確にわかる形で簡単に提示できるような仕組みがWebサイト側にあるとよいとも言えます。

 この例の場合、上記の1から4までのどの種類のタスクであるのかを明確に簡単に示せる仕組みというと、下記のように、仕事を依頼する側 (ニーズ側)が依頼する仕事を登録する際に、順番に質問に答えていくとWebサイト側で分類してカテゴリ分けした結果がサイト上の仕事の内容の説明に記載されるというのがもっともシンプルな形です。

分野ごとのマッチングのモデルをもつ

 このように順番に質問に答えていくとカテゴリ分けされるためには、「機械学習」という分野には、仕事のマッチングを行うために必要となる仕事としてどのような仕事のカテゴリ/分類があるのかを規定する必要があります。このカテゴリの分類規定はその分野の仕事としてはどのようなことを行う必要があり、専門性としてどのように分類されるかがわかっていないとできません。クラウドソーシングにおけるマッチングのためのフレームワーク / モデルとしては、どのような専門性のタスクを含むものかをカテゴリ分けして、そのカテゴリ分けされたタスクの組み合わせで規定したものがあるとよく、それがあれば、仕事を請ける側 (シーズ側) が自分のところで対応できる業務かどうか判断を誤ることがありません。

 このようなマッチングのためのフレームワーク / モデルは、分野ごとに異なります。機械学習とサーバ保守ではもちろん異なり、それぞれの分野のフレームワーク / モデルはそれぞれの分野についてよくわかっている人間でないと作ることが難しいものです。

 
c. 業界知識/専門分野知識のフレームワークが実現可能とすること

 上記のようなマッチングのためのフレームワークが各分野についてできれば、ニーズをもっている側とシーズをもっている側とのマッチングがよく効率的に行えるようになるはずです。このようなフレームワークを技術業務の各技術分野ごとに作り上げて、それをベースにしたクラウドソーシングのサービスを展開すれば、10万円程度の少額の単発での仕事の依頼でも、仕事内容についての認識が発注側と受注側で異なっていてもめるということがずっと少なくなるはずです。

特定の技術分野に高い専門性と実績を持っていても、あまり知られておらず、なかなかその専門性を活かせる高い単価のしごとが得られない個人や中小企業が多数存在します。その一方で、普段からサポート・コンサル先を抱えていない多くの企業で、技術的な課題が発生した際には、簡単には相談先をみつけることができなかったり、個別の課題の解決策のみは依頼しにくかったりします。それらニーズ側とシーズ側を迅速にマッチングするオープンなプラットフォームの構築が可能となります。

このようなプラットフォームを作ることができれば、たとえば技術分野の中でもまずはオープンなシステム分野にフォーカスしてサービス開始したとしても、AWS、Vmware, Hadoop, BigQuery、次々と新しい技術が登場するオープンなシステム分野での保守サポートやAWSの保守運用などの業務だけでも年間数千億円規模ありますので、

オープンなシステム分野

毎月10万、 20万払ってサポートを受けるのは難しい、しかしたまにはサポートを受けたくなるような困った状況にはぶつかるような潜在顧客企業に絞ったとしても、年間数千億円ある既存市場の周辺の数百億円規模の潜在ニーズを顕在化させ、その中の100億円規模を仲介するような新規ビジネスを作ることは十分可能です。このような潜在顧客は既存ベンダでは営業効率が悪くあまり対応しようとしない顧客群ですが、Webでマッチングする「場」を作りあげることにより技術をもっている企業とマッチングすることができるようになれば、困っている人たちも助かりますし、技術をもっている人たちにも仕事が増えて社会的にも意義があることだと思います。

オープンなシステム構築・運用分野でのターゲットユーザ像

 ひとつの技術分野だけでもこれだけの可能性があり、もちろん技術分野は多数ありますので、技術系の業務だけに限定しても、技術分野を横展開していけば、世の中に大きなインパクトをあたえる、大きな事業となる分野といえます。

 
d. 業界知識や専門分野知識の体系化・フレームワーク構築の実現プロセス

 このような大きな可能性をもった、分野ごとのマッチングのためのフレームワーク / モデルを作るというプロセスですが、分野ごとにその分野に関する詳しい知見をもとに作成する必要があります。またどの分野についてもだんだんと必要とされる業務内容は変化していくので随時フレームワーク / モデルは更新していかないといけないという難しさがあります。

 このようなフレームワーク / モデルの構築/更新、業界知識や専門分野知識の体系化ともいえるかと思いますが、については、ひとつの企業が作成するというよりはWikipediaのように、オープンで誰でもがかかわることができるプロセスが適しているのではないかと思います。作られたフレームワーク / モデルは、誰でもが利用できるという形態となっていて、さまざまなクラウドソーシングサイトやWebサイトがそれらのフレームワーク / モデルを利用してそれぞれのサービスを展開するという姿です。

 このようなWikipediaのような百科事典的な知識の集積をみなが参加して行うようになるためには、最初に率先して知識の体系化・蓄積作業をはじめるとともに、それらの知識・フレームワーク/モデルを用いたクラウドソーシングのサービスなども展開する人間・集団が必要です。具体的にある分野についてフレームワーク/モデルとなる知識の体系化をしたものを作って提示するとともに、そのようなフレームワーク/モデルがどのように利用できて効果があるのかを具体例として提示することが重要です。わたしはもちろんその活動を行っていきたいと考えていますが、ご興味のある方はいっしょにできればうれしいのでご連絡ください。

 
e. 業界/専門分野知識をベースとしたクラウドソーシングが実現する世界
 
以上のような業界知識や専門分野の知識を体系化してフレームワーク/モデルを分野ごとに作っていき、そのフレームワーク / モデルをベースとしたクラウドソーシングのサービスを作れば、いまよりもずっと多くの単発の依頼業務や少額の依頼業務についても、ニーズとシーズのマッチングがWeb上で実現されるようになり、そのインパクトは大きなものがあります。

 まずはフレームワーク化/モデル化が比較的容易な技術業務に限定しても、各技術分野について順次技術分野を展開していければ、技術分野全体としては大きな規模をもっており、技術的な課題にぶつかり業務上の支障をかかえるということはさまざまな場所で頻繁におきていることです。技術業務の一部となる、研究開発業務だけで国内で年間17兆円ほどあり、その5%でも年間一兆円規模となります。

 さまざまな社会課題から各企業内での業務まで、進化し続けるIT技術を活用してこれまでできなかった形態に変化させていく仕組みづくりやDXはこれからますます行われるようになると思いますが、課題を解決して業務の仕組みを変更しようとする人たちがIT・技術について知見がないことはよくある話です。一方で、企業規模は小さくてもある特定の分野については高い専門性と実績のある中小企業は多数あります。現在はこのようなITや技術に詳しくない単発での依頼をその分野に強みをもっている中小企業とマッチングさせる仕組みがありません。業界知識を体系化したフレームワーク/モデルをベースとしたマッチングが各分野でできるようになれば、このようなマッチングもこれまでよりもずっと効率よく行われるようになるでしょう。
 
デザイン、技術などの特定の専門分野のエキスパートになるというよりは、誰かが必要としていてそれを作ることによってクライアントやユーザが喜ぶものを仲間と作っていくことが好きで、新しいものがこれからも次々と生み出されていきそうなWeb/ネットの世界が好きな方たちへ。

まずはWebやUI設計・システム開発の知識はさらに蓄積していくことはやめず、新しいものの吸収を続けるにしても、Webによって改変しようとする対象の業務側にも興味を広げてもらい、より高い付加価値を生める存在を目指してほしいと思います。

また、より高い付加価値を生めるようにと考えると自然と一個人でできる範囲の限界を意識するようになり、組織としてより高い付加価値を生むものを作る必要性にも直面していくと思います。そして、組織としてより高い付加価値を生む活動をしていけば、Webがより付加価値を生む仕組みとなるための新しいサービス・ツールや仕組みについてもいろいろ考えるようになるはずです。その中のひとつがニーズとシーズのマッチングをより効果的にできるようにするための業界知識や専門分野知識の体系化とそれをベースとしたクラウドソーシングなどのWebサイトあるいはサービス/ツールだと思っています。

困っているクライアントを助けて喜んでもらえる仕事ももちろん充実感を感じられてたのしい仕事です。業務まで踏み込んだWeb構築にも取り組んでもらうとともに、ニーズとシーズのマッチングの新しい仕組みのようなWebという世界を一段レベルアップするような活動にも興味を感じていっしょにやりというという方はぜひいっしょにやっていきましょう。


Webディレクタとして次のステップをさがしている方たちへ

これからのWeb構築・Webディレクションとして、業務にまで踏み込んでディレクション/プロデュースすること、それが近年のバズワードであるDXにもつながること、そしてWebの進化とともにWeb構築の各種ツール/サービスやSaaSが広がってきていることにしたがって、業務とシステムの両面からWeb構築・運用していく人間が求められていくこと、そのためにどのような知識や能力を身に着けていくとよいかについて解説している「マガジン」です。