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"難治性喘息”について呼吸器内科専門医が思うこと

こんにちは、上西内科副院長の中畑征史です。
今回は難治性喘息に対するアプローチである、生物学的製剤の紹介と使い分けについての投稿になります。
吸入ステロイドが気管支喘息の治療のメインであることは、吸入ステロイドの発売以降変わらないことではありますが、吸入ステロイドの発売以前は喘息死もかなり多く、また救急外来の受診が非常に多い時代でありました。
その後喘息死は年々減少していますが、まだまだ難治性で救急外来受診や入院を必要とする方、そこまでではなくても日常生活に制限を起こす方は多くいらっしゃいます。

難治性喘息は、「喘息予防・管理ガイドライン2018」(日本アレルギー学会、2018年)において「コントロールに高容量吸入ステロイド薬および長時間作用性β2刺激薬、加えてロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン除放製剤、長時間作用性抗コリン薬、経口ステロイド薬、IgEやIL-Sを標的とした生物学的製剤の投与を要する喘息、またはこれらの治療でもコントロール不能な喘息」と定義されています。
個人的な感覚としては、経口ステロイド薬の連用や生物学的製剤が必要な方を難治性と考えております。経口ステロイド薬は連用による副作用が強いため、できればその時点で生物学的製剤が使用可能ではないかを検討しています。

まず、生物学的製剤とは何かについてお話します。
生物学的製剤は、一般的な薬剤のように化学的に合成した薬ではなく、生体が作る抗体(タンパク質の一種)を人工的につくり、それを治療薬として使用した新しいタイプの薬です。
がんの領域や関節リウマチの治療にも使われています。喘息の領域では、アレルギーに関わるIgEを抑える抗体や、サイトカインと呼ばれる免疫に関わる体内のタンパク質に対する抗体が使用されます。
現在日本で気管支喘息に使用できるものは以下の4つになります。

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実際それぞれに特徴はありますが、直接比較した論文はほぼ無い状況です。

こちらは生物学的製剤に関するまとめになります。
上記使い分けの筆者なりのフローも示されています。
まとめの内容を僕なりに要約します。

まず、気管支喘息とはどのような病態なのかということが生物学的製剤の使い分けに重要です。
気道過敏性による可逆的な気流の制限であり、その過敏性の原因が気道炎症によるものという考えです。わかりやすく言い換えると、なんからの原因(この分類が重要)で気道に炎症(火事みたいなもの)が起こって、気管支が狭くなったり痰が増えて息が通りにくくなるということです。
生物学的製剤に関しては、この何らかの原因という部分を細分化して、患者さんそれぞれにあった治療をしていくというのがコンセプトです。

現時点では喘息の炎症の表現型として、T-hepler cell type2(Th2)が高いか低いか、が大きな分類になります。
Th2リンパ球が多い喘息の特徴としては、好酸球性気道炎症とされています。また、Th2リンパ球が低いものは好中球性炎症がメインになります。(最近厳密にいうとTh2だけでは無いと言われてtype2炎症などと言われておりますが、細かくなりすぎるので今回は割愛します。)
今回の生物学的製剤は主にTh2が高い喘息の治療薬になります。Th2-highの中でも非侵襲的に(内視鏡などは使用せずに)検査できる病気の勢いや病態を示すバイオマーカーが多数あります。
代表的なものとしては、血液中の好酸球、喀痰中の好酸球割合、血清IgE、そして呼気中の一酸化窒素(FENO)などがあります。
これらを使い分けての生物学的製剤の使い分けを上記論文の筆者は提唱しています。前提としてどの製剤も血中の好酸球数は300-400個/μLです。

重度のアレルギー歴がある場合にはゾレア(オマリズマブ)を推奨しています。重度のアレルギーというのは言い換えるとアトピー体質ということです。
スギなどの花粉、ダニ、ハウスダストなど吸入に対して抗原を持っている方で大抵は血清の総IgEも高い状況になります。
実際ゾレアはIgEをブロックする薬剤ですので、病態とも合致します。

IL5に作用して好酸球を減少させる作用のある、ヌーカラ(メポリズマブ)とファセンラ(ベンラリズマブ)に関しては、1日にプレドニゾロン内服が必要ではあるが10mg以下で良い場合はヌーカラを、プレドニゾロンの1日必要量が10mg以上で喀痰好酸球が減らない場合はファセンラを推奨しています。
これに関してはファセンラが血液の好酸球をゼロにするほど強いため、好酸球のコントロールが難しい場合にはファセンラが良いという考えだと思います。ただし好酸球を0にするのが本当に問題ないのかはなんとも言えないので、そこまでひどくない場合にはヌーカラで、という認識です。
好酸球は寄生虫の免疫を司っており、日本は寄生虫が少ないのであまり気になりませんが、海外ではその辺りも含めて慎重になっていると思われます。

IL4/13とサイトカインを複数抑えるデュピクセント(デュピルマブ)に関しては、喀痰の好酸球は低く抑えられているものの、FENOは高度なパターンでの使用を推奨しています。
個人的にはIgEに関わる部分もブロックするので、バイオマーカーが色々高くてブロックする箇所を絞れない場合などが推奨と考えます。
まだデュピクセントは新しい薬剤ですので今後多剤からの切り替えや、良い適応が絞られてくると考えています。

生物学的製剤は、条件に合う場合には非常に効果が高いのは間違いないですが、かなり製剤の薬価が高いのも事実です。全員に使用できるものではないのは間違いないです。
しかし、入院やステロイドの内服を繰り返している場合には、それによる社会的損失なども加味して、相談して治療していくことになると思います。また、高価な薬剤の影響もあり処方できる医師が制限されてもいます。

具体的には以下になります。
成人気管支喘息における生物学的製剤の適正使用ステートメント
〔令和2年(2020年)5月11日〕より
生物学的製剤が適応となる患者の選択及び投与継続の判断は、適切に行われることが求められる。また、本剤の投与により重篤な副作用を発現した際には適切に対応することが必要なため、以下の①~③のすべてを満たす施設において使用するべきである。
① 施設について
□ 気管支喘息の病態、経過と予後、診断、治療(参考:喘息予防・管理ガイドライン)を熟知し、本剤についての十分な知識を有し、気管支喘息の診断及び治療に精通する医師(以下のいずれかに該当する医師)が当該診療科のこれらの製剤に関する治療の責任者として配置されていること。
□ 呼吸器専門医あるいはアレルギー専門医、または3年以上の気管支喘息に関する内科診療の臨床研修を終了していること。
□ 本剤の製造販売後の安全性と有効性を評価するための製造販売後調査等が課せられていることから、当該調査を適切に実施できる施設であること。

② 院内の医薬品情報管理の体制について
□ 製薬企業等からの有効性・安全性等の薬学的情報の管理や、有害事象が発生した場合に適切な対応と報告業務等を速やかに行うこと等の医薬品情報管理、活用の体制が整っていること

③ 合併症及び副作用への対応について
□ 合併する他のアレルギー性疾患を有する患者にこれらの製剤を投与する場合に、当該アレルギー性疾患を担当する医師と連携し、その疾患管理に関して指導および支援を受ける体制が整っていること。
□ アナフィラキシー等の使用上の注意に記載された副作用に対して、当該施設また は近隣医療機関の専門性を有する医師と連携し、副作用の診断や対応に関して指導及び支援を受け、直ちに適切な処置ができる体制が整っていること。

呼吸器もしくはアレルギー専門医など、処方医に制限はあるのが特徴ですが、使い分けにかなりの知識と経験がいるので、ある意味当然とも考えます。
当院では私が呼吸器専門医ですし、何より使用経験もありますので難治性喘息の方には今後も治療を相談していく方針です。

愛知県小牧市
糖尿病・甲状腺 上西内科
副院長 中畑征史
https://uenishi-naika.com/

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