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“気管支サーモプラスティ”について呼吸器内科専門医が思うこと

こんにちは、上西内科副院長の中畑征史です。
今回は難治性気管支喘息の治療の一つである、気管支サーモプラスティ(BT)について取り上げたいと思います。
気管支サーモプラスティは気管支鏡を用いた治療であり、限られた施設でしか施行できないものになりますので一般的なものではありませんが、以前私が名古屋医療センターに勤務していた時に、本邦第一症例に立ち会うことができその後も治療に携わっていたので、思い入れのある治療法であります。

気管支サーモプラスティは、日本語では気管支熱形成術とも呼ばれており、65℃前後の熱で気管支の粘膜を焼灼するものです。
気管支喘息においては、気道平滑筋の量や収縮性が増加することで気管支収縮や閉塞性障害が悪化し死亡率が上昇すると考えられています。

気管支サーモプラスティは、気管支鏡を用いて気道壁に熱エネルギーを加え気道の平滑筋量を減少させる処置であり、喘息発作時の症状を緩和するものです。
日本では臨床試験なしで承認され、2015年4月から保険適応となりました。

実際には、3週間ごとに3回の入院が必要で(1回の入院は数日)、処置の時間自体は1時間程度になります。
全身麻酔で行う施設と局所麻酔で行う施設があります(名古屋医療センターは比較的数が少ない全身麻酔型)。
局所麻酔は手術室を使う必要がないので日程の調整が楽ですが、処置中に咳などがあることから処置に時間がかかることと、患者さんの処置の苦痛はあります(ただし少量の鎮静剤は使用されるので、ある程度は意識は低下している状況になります)。
一方全身麻酔に関しては、処置中に呼吸を止めることにより処置の難易度が下がる印象です。

https://www.atsjournals.org/doi/pdf/10.1164/rccm.200903-0354OC

本邦導入時の一番大型の試験が上記のAir2 trialになります。
対象患者は18~65歳の気管支喘息患者で、ある一定量以上のICS+LABAをコントローラーとして4週間以上継続使用していることがエントリー条件です(ただし、経口ステロイドはPSL換算10mg/日以下)。
その他にもQOLの指標であるAQLQスコアが6.25以下で,気管支拡張薬投与前の1秒量が予測値の60%以上、気道過敏性が証明されていること、4週の観察期間中に少なくとも2日以上喘息症状があり、非喫煙者であることなども条件となっていました。
またCOPDや慢性副鼻腔炎合併例の除外もされています。
気管支鏡の試験ではありますが二重盲検の試験となっております。190名がBT群、98名がシャム群(BT群と同様、気管支鏡及びカテーテルを挿入しますが通電されないため焼灼されない)に割り付けられています。

プライマリエンドポイントはBT治療後1年間でのベースライからのAQLQスコアの変化です。
セカンダリーエンドポイントは喘息管理指標であるACQスコアやPEF、1秒量、重篤な喘息増悪回数、予定外受診回数、救急受診回数、入院回数などでした。
結果はAQLQの明らかな改善を認める割合はBT群で80.9%、シャム群で63.2%となり、両群間には統計学的有意な差が認められました。
また、重篤な喘息増悪回数、救急受診回数もBT群で少ない結果となりましたが、PEFや1秒量など肺機能に関しては両群間に差は認められまでした。

結論のまとめとしては、喘息の症状の改善と予定外受診、増悪回数の減少はあるものの、肺機能までは改善しないということになります。
ただし、そもそも毎週のように定期外受診を繰り返す人を対象とする治療でもあり、そういう意味では十分意義はあると考えます。

そして今年になって10年間の経過を見た結果が発表されました。
5年間のデータはありましたが、その後の経過を追跡した試験です。
BTの試験としては先ほど紹介したAIR2試験以外に、AIR試験やRISA試験がありました。
それらに登録されていた方で、BTから10年以上の追跡調査を行った国際共同他施設研究です。
プライマリエンドポイント(有効性)は、BT治療後1年目と5年目に重症増悪を示した参加者の割合と、その前の12ヶ月間に同増悪を示した参加者の割合を比較することによって、BTの効果がどこまで持続するかを評価するものです。
プライマリエンドポイント(安全性)は、CT検査によって確認された気管支拡張症または気管支狭窄という処置後の臨床的有意な画像変化がないこととされました(AIR2試験の患者のみ)。

結果としては、気管支熱形成術で治療された参加者は、1年、5年後と比較して、10年目の時点でも重度の悪化の割合が類似していました。
また、QOLと肺機能検結果も1年目、5年目、および10年目の間で類似していました。
AIR2試験対象のCT検査の解析では、97人中13人(13%)が気管支拡張症を有していました。
ベースラインの時点で気管支拡張症を有していなかったのは89人で、そのうち6人(7%)が治療後に気管支拡張症を発症しました(5人は軽度、1人は中等度)。
10年後でも増悪の頻度が変化なく効果が持続していると考えられること、処置によって肺機能を損ねることは少ないこと、気管支拡張症などの処置後の合併症も頻度は少なくそれが症状増悪に関与はしていなさそうというのが今の時点での考えかと思われます。
長期の悪化の可能性が低いことを考えると、今後も難治性喘息の治療の一つの選択肢であり続けると思います。

当院ではもちろんB Tの施行はできませんが、施行している施設にご紹介することは可能です。
なかなかBT自体を施行した経験のある人は呼吸器内科でも少ないと思いますので、適応かどうかの相談についても可能です。
どうぞお気軽にご相談ください。

愛知県小牧市
糖尿病・甲状腺 上西内科
副院長 中畑征史
https://uenishi-naika.com/

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