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"気管支喘息の長期管理”について呼吸器内科専門医が思うこと

気管支喘息は、咳や呼吸困難で受診するアレルギーを原因とする疾患ですが、現在は80%以上の方は吸入ステロイド薬の導入により、症状が安定していきます。
吸入ステロイド薬が発売される以前の喘息治療は「喘息死を防ぐ」が最重要課題でしたが、現在は重症難治性喘息は依然として問題ではあるものの、「生活の質(QOL)を守る」「長期的な呼吸機能を守る」ということに目的がシフトしてきていると考えています。

長期の治療を考える上での、呼吸器内科医としての最重要キーワードは「リモデリング」です。
しかし、このリモデリングはもともとは好酸球やサイトカインが重要と言われていましたが、気管支が収縮する際に生じる機械的な力が、炎症とは関係なくリモデリングを誘発する可能性が示されています。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1014350
喘息患者48人を、吸入物質で喘息を誘発する試験になります。
誘発物質のうち、気管支収縮のみを起こす物質のメサコリンと気管支収縮に加えて好酸球炎症も引き起こすチリダニアレルゲンを使い分けて比較しています。
また、誘発試験の前後に気管支鏡を行い、気管支粘膜を採取して比較しています。
なかなか日本ではできない試験デザインだなと思いますが(検査前後に気管支鏡で比較するというところと、誘発試験であること)、好酸球の炎症を起こす物質と起こさない物質で比較して、リモデリング自体は変わりありませんでした。

というわけで、「気管支が収縮していない状態を作る」というのが慢性期の喘息の治療として重要になります。
咳喘息と言われる、咳が持続するタイプの喘息でも咳自体で気管支の収縮が起こっているので、咳がない状態を維持するのが重要と考えられます。

このリモデリングは一度起こってしまうと戻すことは簡単ではなく、リモデリングを起こさないようにすることが重要と言われています。
吸入ステロイド薬でも基本的にはリモデリングの予防はできるとされていますが、進行したリモデリングの改善は困難です。

https://www.atsjournals.org/doi/full/10.1164/ajrccm.163.3.2004160
ただ、呼吸器内科として治療をしていて喘息で悩ましいところは、吸入の継続というは非常に難しい、ということです。
内服よりやはり煩雑ですし、調子が良くなってからも続けるのはなかなか理解が得られにくいと思います(特に咳喘息の方)。
他にリモデリングを防ぐものが無いか、ということになると、ロイコトリエン拮抗薬が考えられます。

リモデリング自体を防ぐエビデンスはありません。
しかし、リアルワールドデータでは軽症に限れば吸入ステロイド薬とほぼ遜色がありません。

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1010846
かかりつけ医を受診して気管支喘息と診断を受けた人を、ロイコトリエン拮抗薬と吸入ステロイド薬にそれぞれ割り付けて、2年間の治療経過を確認している試験です。
アンケートでの喘息の症状の変化などで評価していますが、2ヶ月時点では両者は同等の成績でしたが、2年間では吸入ステロイドと同等、というところまではいけませんでした。が、かなり惜しい差と考えていいと思います。

リアルワールドデータというのは、いわゆる治験などのように整った環境でなくてもどれくらい効果があるのかという事です。
私自身様々な治験に実際関わってきましたが、受診や吸入手技や吸入の忘れに対して、医師及びC R Cと呼ばれる治験補助者が確認をしつこくしています。そこまでしての吸入ステロイドの実績ですので、軽症に関してはロイコトリエンへの治療の切り替えも十分考慮されます。

いずれにしろ、患者さんひとり一人に合わせた治療を考えることが非常に重要だと思われます。

愛知県小牧市 糖尿病・甲状腺 上西内科 副院長 中畑 征史

https://uenishi-naika.com/respiratory.php


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