西洋の建築史(近世②)

お疲れ様です。前回の記事では近世の始まりに起きたルネサンスとマニエリスム(16・17世紀頃)を扱いました。今回の記事では後半の歴史(17~19世紀頃)の建築史を扱おうと考えています。宜しくお願いします。

・バロック様式(17~18世紀頃)

サン・カルロ・アッレ・クアトロ・フォンターネ聖堂(「Wikipedia」より)

バロック様式は、まずイタリアで発展しヨーロッパ中に広がっていった。
この様式は、豪華な装飾、曲線的な形状、光と影の効果、そして神聖な空間の創造に重点を置いているのが特徴的。
各地で様々な変化を広げており以下の様にまとめられる。
①イタリア・バロック
 ローマを中心としてイタリア全土へ広がっていった。楕円形や曲面の
 ファサードが特徴的で、ベルニーニやボッロミーニが活躍した。サン・カルロ・
 アッレ・クアトロ・フォンターネ聖堂が有名。
②ドイツと東欧のバロック
 ドイツは諸領土の連合体で宗教権力も様々でそれぞれ違った形でバロック
 が発展した。イタリアの影響やゴシックの影響、玉ネギ型のドーム等が
 特徴。ヴェルテンブルグ修道院などが有名。
③スペインとラテンアメリカのバロック
 「チュリゲラ様式」というチュリゲラ兄弟の装飾を凝縮したような作品
 に影響を受けた建築が多く誕生した。それは歴史的な背景からイスラム
 建築の影響を受けていたと考えられる。スペインの支配がラテンアメリカ
 に広がるにつれバロックの教会堂も広がっていった。
④フランス・バロック
 フランス王ルイ14世の建築と同義と言える。その様式は南欧のものとは違 
 い、フランス建築の伝統を保ち、宮殿の建築と造園のデザインが密接に関
 わっていた。中でもヴェルサイユ宮殿の建築と造園が有名。
⑤イギリス・バロック
 イギリスではヨーロッパ大陸より遅れて全く違った形でバロック様式が
 発展。クリストファー・レンという人物がパリでベルニーニに会った事を
 きっかけに始まったとされ、中世の影響等を受けながら多様に広がった。

・ロココ様式(18世紀頃)

ヴィース巡礼教会の内部(「アップルワールド」より)

ロココ様式はヨーロッパの、特にフランス、ドイツ、ロシアで広がった。
バロック様式から発展して、繊細な彫刻、曲線的な形状、軽快な装飾、そして明るく優美な色合いを特徴としている。
バロックが宗教的な建築との結びつきが強かったのに対して、ロココは世俗建築(主に宮殿や邸宅建築)との関連が深かった。そこではアシンメトリーや植物文様の装飾等が多用されていた。

・新古典主義(18~19世紀頃)

サン・シュルピス教会・正面(「Wikipedia」より)

18~19世紀にかけての産業革命と新しい建築技術と素材の出現が建築の分野にも影響を与え、その形態と理論を新たな方向へと導いた。新古典主義とは、こうした新しい技術等に対して原点に立ち返り見つめなおす動きだった。その動きは大きく以下の様にまとめられる。
①パラディオ主義
 イギリスとアメリカで主に広がったもので、マニエリスムの建築家パッラ
 ーディオを手本とした建築が多く建てられた。その特徴としては、全体
 の統一、自然な風景式庭園、秩序の示唆、といった点が挙げられる。
②クラシック・リヴァイヴァル
 ヨーロッパとアメリカで主に広がった様式。建築家たちはグランドツアー
 (教養の為のヨーロッパ旅行)での経験より古代建築からインスピレーショ
 ンを得ようとしていた。そして古代ローマの装飾や円柱、アーチ等を取り
 入れていった。
③グリーク・リヴァイヴァル
 ヨーロッパ、特にイギリスとドイツで広がった様式。古代ギリシャ文化を
 模倣と競合の見本だとして、古代ギリシャのドリス式オーダーや古典の
 解釈、引用が試されている。
④帝政様式
 主にフランスの様式。国内の革命による激動の状況下でナポレオンが出現
 。建築家と共に帝政時代のローマ建築に影響を受けていた為、その時代の
 コリント式オーダーや、帝国の象徴性、厳格さを取り入れていた。
⑤ピクチャレスク
 ヨーロッパ、特にイギリスとフランスで広がった様式。風景画のように美
 しい建築物を指していて、絵画的な表現手法や劇的な効果を重視している
 のが特徴。また、建物のみならず周囲の風景や環境との調和も重視されて
 いることも特徴的。
⑥崇高美
 ヨーロッパ、特にイギリスとフランスで広がった様式。この時代に「崇
 高」の概念(圧倒的な美の経験による究極の恐怖)が広がり、様々な観点
 での崇高美(古典的、形態、工業、技術等)が追い求められた。

・折衷主義(19世紀頃)

ウェストミンスター宮殿(「Wikipedia」より)

折衷主義とは、様々な建築様式やデザインを組み合わせて新しい建築を創り出す手法を指す。この様式は、産業革命によって技術が進歩したことや、世界各地からの異文化の影響があったことが背景にあり、歴史的な建築様式や芸術様式を引用することもあった。その流れは以下の様に分類できる。
①ゴシック・リヴァイヴァル
 ヨーロッパ、特にイギリス、さらにアメリカ、カナダで広がった。「ゴシ
 ック建築」はルネサンス期以降ゴート人の異教徒達が古代ローマの建築や
 文明を破壊した象徴的なものとして嫌われていた。だが19世紀に失われた
 中世の宗教的な伝統に回帰しようという運動が広がり、再度「ゴシック建
 築」が見直され発展していった。
②オリエンタルリズム
 ヨーロッパ、アメリカに広がった様式。植民地主義の拡大がもたらした東
 洋と西洋の交流により、~風の建築が広く出現するようになった。
③ボザール
 フランスやアメリカで広がった運動。パリにあるエコール・デ・ボザール
 (フランス国立高等美術学校)で学んだ実践者達が主として活躍したことか
 らその名が付けられた。古典的・伝統的なものが理想とされ、建築のファ
 サードや平面計画などに特徴が見られる。
④アーツ・アンド・クラフツ
 イギリス、アメリカでも広がった運動。イギリスでウィリアム・モリス
 が主導した運動で、近代化に対して手工業の大切さを唱えるものだった。
 ヴァナキュラーな建築や、地域性や手工業が注目された。
⑤アール・ヌーヴォー
 ヨーロッパ、特にブリュッセル、パリ、ウィーンで広がった。アール・ヌ
 ーヴォーの意味はフランス語で「新しい芸術」であり、歴史主義を否定し
 た。最初のアヴァンギャルドな建築だったと言える。特徴として、有機的
 な形態、象徴主義、反装飾主義などが挙げられる。
⑥アール・デコ
 ヨーロッパ、アメリカで広がった。それはパリで開催された国際博覧会で
 突如として出現した。「消費主義」を象徴するデザイン等が特徴的で、ア
 ール・ヌーヴォーの曲線的な建築に対し、直線的な建築を特徴としてい
 た。

・まとめ、考察

前回の記事で扱った中世初期のルネサンスとマニエリスムから今回は後期の折衷主義に至るまで幅広く扱った。
マニエリスムからバロックへ、そしてバロックが発展してロココへ移る中で楕円や曲線が多用されていく。その内にヨーロッパ中に産業革命の波が押し寄せて、新しい技術に対して原点に戻ろうということで新古典主義へ。また異文化との繋がりが深まり折衷主義が生まれていく。ざっくりとこんな流れでまとめられるかと。
前回の記事でも同じ様な考察をしたけど、新しい技術や考えが広がる際にまず原点や過去に立ち返るという流れが面白い。ヘーゲルの弁証法の様に過去の物と新しい物が相互に浸透していきながら螺旋的に発展していく運動が見て取れる。これからいよいよ近代のモダニズムを取り上げていくのでお楽しみに。

最後まで読んで頂きありがとうございました。以下の資料を参考にさせて頂きました↓

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