見出し画像

すべての人におとずれる春 掛け軸の詩

家の外では花々が次々と満開になり、自然界のしなやかさに目を見張ります。人間界もこんな平らかな春だといいのですが…。茶室にも「春の朝」という詩の掛け軸をかけました。

画像1

時は春/日は朝(あした)/朝は七時/片岡(かたおか)に露
みちて/揚雲雀(あげひばり)なのりいで/蝸牛(かたつむり)枝に
這ひ/神、そらに知ろしめす/すべて世は事も無し
ロバートブラウニング 春の朝 龍雲 書

この詩の訳は、この詩を日本に紹介した上田敏によるものです。(『海潮音』明治38年(1905年)10月刊所収)

『海潮音』は高校生の時に読んだのですが、恥ずかしながらこの詩はまったく記憶になく、調べてみました。
作者のロバート・ブラウニング(1812-1889)はイギリスのヴィクトリア朝の抒情詩人で、「春の朝」の原詩のタイトルは「ピパの歌」です。
ブラウニング作の劇詩『ピパ過ぎゆく』の劇中詩で、北イタリアの町で製糸工場の女工として働く少女ピパが口ずさむ歌として書かれました。
ピパが年に一度の休日に歌をうたいながら朗らかに歩いていく…その歌を耳にした男女は心を打たれ、過去の罪を悔い改めるというストーリーだそうです。元の詩はこちら。

The year's at the spring
And day's at the morn;
Morning's at seven;
The hill-side's dew-pearled;
The lark's on the wing;
The snail's on the thorn;
God's in His heaven—
All's right with the world! 
 Pippa's Song, from "Pippa Passes(1841)," by Robert Browning

ピパの気持ちをくんで妄想しますと、「春だわ。丘には真珠のような露がきらめいて、雲雀は舞い、木々には蝸牛が姿を見せている。神さまは天にいらっしゃって、この世はすべて素晴らしいのね!」といった感じでしょうか?

調べていてびっくりしたのは、最後の2行が、『赤毛のアン』最終章38章のアンのセリフに引用されているということです。
https://www.gutenberg.org/files/45/45-h/45-h.htm#link2HCH0038

この詩はアガサ・クリスティの推理小説にも引用されているそうです。ほかにも『赤毛のアン』の冒頭のタイトルページにブラウニングの別の詩が引用されていることなど、いろいろ発見がありました。

茶室の掛物は本来禅語の墨蹟をかけることが多いですが、こういうのもまた面白いですね。

『海潮音』には、29人の詩人の57篇の訳詩が収められています。ご興味のある方はぜひご覧ください。
青空文庫:https://www.aozora.gr.jp/cards/000235/files/2259_34474.html

画像2

本日の薄茶は薫風の白、お菓子は野遊びでした。ほっこり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?