沖縄の米軍基地(高橋哲哉)【書評#137】

 この本の副題に『「県外移設」を考える』とある。つまり、沖縄に集中する米軍基地を本土に移設しようというのがこの本の趣旨だ。正直、私のように本土に住む人間からすれば首肯できる話ではない。しかし、読み進めるにつれ、著者の主張が正しいと思い始め、最終的に論理的には本土に移設しなければならないと思うようになった。(しかし、私の未熟さゆえ、感情レベルではまだ納得できていない。)

 この本ではたびたび、沖縄の人とともに本当の意味で共に生きていくために「県外移設」の必要性を述べる。

沖縄の県外移設要求は、市民と知識人の間に確固とした声を持ち、近年は政治的主導として表面化している。とりわけ鳩山政権の裏切りにあって以降、その声は沖縄の民意としてすっかり定着したように思われる。そうだとすれば、この要求の宛先とされた「日本人」、「本土」の人間は、この要求に向き合う必要があるのではないか。この声に応答する必要があるのではないか。 しかし、私の見る限り、「本土」でこれに呼応する動きはあまりに弱い。政治家にも市民にも知識人にも、個人として県外移設の声に向き合おうとしている人がいないわけでないが、とても少ない。 p.45

 驚いたことがある。そもそも、米軍基地は戦後直後は全国にあったというのだ。例えば、米軍の海兵隊は私の住む奈良市に駐留していた。(余談だが、なぜ、海なし県である奈良県に海兵隊が駐留したのだろうか。)それが、日本国民との衝突を避けるため、当時アメリカの占領下にあった沖縄に移設することになったという。
 また、他にもアメリカ側から基地の国外移設の話が持ちかけられたことがあったようだ。しかし、日本政府はアジアの安全保障のため沖縄に基地を置き続けることに決めた。

要するに、米国のすることに日本は口を出せないどころか、米軍が沖縄から撤退しようとしているのに、日本がそれを引き留めていたことがわかったのである。 p.55

 一見、基地反対運動に加担する平和運動は問題ないように思える。しかし、基地反対の意見が逆に「県外移設」を拒む原因になりうる。

 反戦平和運動は、日米安保条約を廃棄すれば在日米軍基地を撤去でき、したがって沖縄の米軍基地もなくすことができる、と主張してきた。だが実際には、「安保廃棄、全基地撤去」を金科玉条のように唱え続けることで、むしろ県外移設に反対する側に立ち、「県外移設」という考え方をタブー化する傾向さえあった、というのが現実である。現在の「護憲派」(「リベラル左派」などという表現もある)に位置する人びとは、いまやこの点で根本的な自己点検を求められている、と言わざるをえない。 p.99

 沖縄の反基地運動は、日本の反戦平和運動が外から「連帯」したり、「支援」したり、「協力」したり、できるものではない。日本の記者やジャーナリストが第三者として報道したり、日本の市民が第三者として「共感」したり、「感動」したり、できるものでもない。なぜなら、沖縄の人びとがやむをえず声を上げ続けなければならない原因を作り出しているのは、日米安保条約下で沖縄に基地を押しつけてきた「本土」の私たちなのだから。 運動家であれ、ジャーナリストであれ、市民であれ、「本土」の側が沖縄の反基地運動を賞賛したり、その存在を自明視したりするのはおかしい。「本土」の側がなすべきことは、とりわけ反戦平和運動であればなおさらなすべきことは、沖縄を反基地運動の必要がない島に戻すこと、沖縄の人びとが普通の生活者として安心して暮らしていけるようにすること、すなわち、沖縄の米軍基地問題を「本土」の責任で解消することである。 p.111-112

 県外移設要求は正当であり、それに応えるのは「本土」の責任である。なぜなら、在日米軍基地を必要としているのは日本政府だけでなく、約八割という圧倒的多数で日米安保条約を支持し、今後も維持しようと望んでいる「本土」の主権者国民であり、県外移設とは、基地を日米安保体制下で本来あるべき場所に引き取ることによって、沖縄差別の政策に終止符を打つ行為だからである。 県外移設は、平和を求める行為と矛盾しないのはもとより、「安保廃棄」の主張とも矛盾するものではない。「本土」の人間が安全保障を求めるなら、また平和や「安保廃棄」を求めるなら、基地を引き取りつつ自分たちの責任でそれを求めるべきであり、いつまでも沖縄を犠牲にしたままでいることは許されない。県外移設が「本土」と沖縄、「日本人」と「沖縄人」の対立を煽るとか、「連帯」を不可能にするなどという批判は当たらない。県外移設で差別的政策を終わらせてこそ、「日本人」と「沖縄人」が平等な存在としてともに生きる地平が拓けるのである。 p.184-185

 沖縄の人に寄り添って米軍基地反対の意思を表明することはたやすい。しかし、実際本当に沖縄の人のために行動しようとすれば「県外移設」を受け入れなければならないだろう。たとえ、移設場所が自分の自治体になろうとも。


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