頭のいい人が「脳のために」毎日していること(トッド・カシュダン著/茂木健一郎訳)【書評#123】

 臨床心理学者による好奇心の重要性を謳った本。科学的根拠を元に説明がなされているが、自己啓発本みたいな内容だった。

 新しいプラスの経験をすると、脳の中のある領域が活性化し、神経細胞が新しくつながっていくことがわかっています。しかし、自分の中でその経験に説明をつけ、納得してしまった瞬間に、さっきまで活性化していた脳の領域は、活動を停止してしまいます。 つまり、「うれしい」「楽しい」「満足」といったプラスの感情は、それを自分のもっている知識で分類し、整理してしまった瞬間に、終わってしまうのです。 では結局、「幸せ」には限界があるということでしょうか。 いいえ。好奇心をもち続けるかぎり、自分が感じられる「幸せの度合い」をもっともっと伸ばし続けることができるのです。 もし、プラスの経験を長引かせたい、より満ち足りた生活を送りたいと思うのであれば、あえて「新しいこと」や「不確実なこと」に目を向ける、という心構えでいてください。p.37

「新しいこと」や「不確実なこと」に目を向けるにはやはり好奇心が必要だ。その後も好奇心の重要性を述べた文章が続く。

「好奇心がとても強い人」がもっている共通の特徴1興味、疑問に思う気持ちなどを激しく感じる2一日に何度も、常に新しいものを探している3不確実な状況にずっと飽きることがない4世界は無限の「広がり」があり、しかも「深い」と感じている。p.46-48

好奇心を働かせる「六つの大きなメリット」1健康で長生きできる!2頭がよくなる!3人生がおもしろくなる!4みんなから愛される人気者になる!5とにかく幸せになれる!6強運を引き寄せられる!p.50-57

 好奇心をもつと、線条体が活動して多量のドーパミンが放出されるのに加えて、脳の中で「オピオイド」という神経伝達物質が分泌されます。 これは、「ご褒美」を楽しむときに関わってくる物質です。(...) ドーパミン細胞はは、特にワクワクしていなくても、居心地がよくなかったとしても、何か新しい情報を探し求めているときは活動します。その場合、ドーパミンは脳内で活発になっていますが、楽しんではいないので、オピオイドの活動はほとんど見られません。p.71-74

 人生を豊かにするうえで人間関係は欠かせない要素だが、その秘訣もまとめられている。

「話し上手・聞き上手」が実践していること1タイミングがすべて!2起承転結をチェック!3言い方ひとつで反応が変わる!4非言語のサインに注目!5心の窓はオープンに!6相手の「いいところ」を引き出す7どの話題を、誰に話すか見極める8「自分から」心を開くp.119-121

仕事がパワーアップする「7つのルール」1自分の「いいところ」を隠さない2「強み」を職場でどんどん活かす3安全基地になってくれる人を味方につける4とにかく行動を起こす。一番よくないのは、「何もしない」こと5人々をサポートの源として考える6仕事は「チームでしている」と考える7「好奇心をもとう」と意識するp.126-131

好奇心を利用して人のやる気をアップさせる「六つのコツ」1大きなプランを描いて、人々と共有する2「お金を超えた報酬」をあげ3みんなに「考えさせる」質問をする4耳を傾け、受け入れ、無意味な対立を避ける5物事に「つながり」をつくる6続けるp.132-135

 一般的に、踏み込んだ質問についてやりとりするほうが、お互いに親しみをもつものですが、被験者が好奇心旺盛な人だった場合、たとえ世間話でもプライベートな問題でも、同じようにお互い親近感を抱いていました。(...) これは、好奇心が旺盛な人が、ただの世間話をおもしろい話に変えるいろんな努力をしていたからです。p.154

(...)自分が興味をもっていること、嫌なことをはっきりと示せば、「裏表のない自分」をアピールでき、相手の信用も得られます。 「こんな人が友だちだったら素敵だな」と思えるような人に、自分自身がなりましょう。 つまるところ、好奇心をもつということは、楽しい気持ちや関心を、どんどん表に出すことなのです。p.156

「人間関係のつくり方」1失敗したっていい、どうせするなら一緒に失敗しよう。2きわどい話の前に、まずは相手に安心してもらう3相手の興味を探るべく、しっかり耳を傾ける4言葉で語れるのは少しだけ5相手のよくないところもちょっと受け入れてみよう6まずあなたから心を開きなさい7結果ではなく、その「瞬間」に全力投球する(...) 人間関係においては、あなたが理想に思う「おもしろい人間」になろうと必死にがんばるより、「今この瞬間」目の前の相手に心から関心を抱いていますよ、と伝えるほうがずっとずっと効果的です。p.156-160

「愛が長続きする理想のお相手」①しっかりとした土台をつくる共通点があること(本質的な価値観を尊重し、よく理解し合っていること)②成長のチャンスとなる「二人の相違点」を分かち合っていること③いつも相手の求めていることを理解するし、満たすことで、お互いの変化や成長を感じていることp.165

「腹のくくり方」がうまい人人生には絶対に「マイナスのこと」も必要起きたことを嘆かない人と比べない無理しない焦らない時間が必ず解決してくれる優先順位をつけるp.230-232

 最後にこの本の表題について。この本の題名は『頭のいい人が「脳のために」毎日していること』とあるが、原書のタイトルは『CURIOUS?』となっている。正直、原書のタイトルの方がこの本を的確に表現できていると思う。他の翻訳書にもいえることだが、変に本のタイトルを変えるぐらいなら、原書のタイトルをそのまま邦訳した方が良いのではないか。


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