見出し画像

【クオリアと人工意識(茂木健一郎)】うえこーの書評#09

 『脳内現象』以来の書き下ろしとなった本書.同著者の他の本に比べ,力が入っている文章でした.今までの意識に関する本と違うのは意識だけでなく,人工知能の最近の動向も主な題材として置いていることでしょう.内容は,意識と知性との関連.そして,統計的アプローチの限界,自由意志など多岐にわたっていて,長年溜まり溜まったものが一気に流れ出したかのようでした.

 特に,小林秀雄のベルクソンの理論の解釈も興味深い題材でした.

「ベルクソンは,記憶は脳に残るのではないと考えたのだと小林は言う.記憶自体は,脳がなくても残っていて,脳はそれを引き出すきっかけに過ぎないと.もし,記憶自体を「外套」だとすると,脳は,その外套を引っ掛けておくための壁に打たれた「釘」に過ぎない.釘である脳がなくなっても,記憶そのものである外套は残る.ベルクソンは,そのように記憶のことを考えていたのだと小林は熱く語る.」(p.322)

 著者自身この考えに「当惑」を隠せないようですが,私自身俄かには信じがたい説です.しかし,ベルクソンのこの「純粋記憶」は著者自身に少なくない影響を与えたようで,今後の理論の展開にも注目していきたいです.

 現在の人工知能は「評価関数」をもとに学習をしていますが,人間は「評価関数」がはっきりとしない「常識」を踏まえて問題に取り組みます.そのような違いを踏まえると,世間で言われているように,人工知能が人間を凌駕するというのは起こらないだろうと私は思います.

Amazon.co.jpアソシエイト



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?