【人間の建設(小林秀雄/岡潔)】うえこーの書評#78
数ある対談書の中でも、内容的に(そして、おそらく売り上げ的にも)成功を収めた本。とても薄い本でありながら、とても濃い内容になっている。正直、二人が互いに話し合えるような話題があるとは思っていなかったが、文学や芸術、哲学など幅広く話が飛んでとても面白くなっている。
小林 むずかしければむずかしいほど面白いということは、だれにでもわかることですよ。そういう教育をしなければいけないとぼくは思う。それからもう一つは、学問の権威というものがあるでしょう。学問の、社会における価値ですね。それが下落している。
岡 学問の権威というものが、社会に認められていないですね。(p.11)
物事を単純化して考えようみたいな風潮は確かにある。特に、テレビを視聴しているとそう感じる。
数学の体系に矛盾がないというためには、まず知的に矛盾がないということを証明し、しかしそれだけでは足りない。銘々の数学者がみなその結果に満足できるという感情的な同意を表示しなければ、数学だとはいえないということがはじめてわかったのです。じっさい考えてみれば、矛盾がないというのは感情の満足ですね。人には知情意と感覚がありますけれども、感覚はしばらく省いておいて、心が納得するためには、情が承知しなければなりませんね。だから、その意味で、知とか意とかがどう主張したって、その主張に折れたって、情が同調しなかったら、人はほんとうにそうだとは思えませんね。そういう意味で私は情が中心だといったのです。そのことは、数学のような知性の最も端的なものについてだっていえることで、矛盾がないというのは、矛盾がないと感ずることですね。感情なのです。そしてその感情に満足をあたえるためには、知性がどんなにこの二つの仮定には矛盾がないのだと説いて聞かしたって無力なんです。矛盾がないかもしれないけれども、そんな数学は、自分はやる気になれないとしか思わない。(p.39-40)
私は岡潔の「情緒」については良く知らないが、おそらく以上の文章は「情緒」に関わってくる話だろう。
ほかにも様々な話題があり最後まで楽しく読めた。
ただ、この本には2点残念な点がある。
1点目。メヒティヒカイト(濃度)の説明で「「整数の集合」は「偶数の集合」の二倍の濃度という。」という記述があるが、これは間違いだ。「整数の集合」と「偶数の集合」は一対一の関係があるので、濃度は同じ。
2点目、あらすじに「文系的頭脳の歴史的天才と理系的頭脳の歴史的天才による雑談」とある。おそらく小林秀雄が「文系的頭脳の歴史的天才」、岡潔が「理系的頭脳の歴史的天才」であるだろうが、小林秀雄と岡潔は「文系」「理系」の枠組みが無意味なほど学問的素養があり、枕詞としては不適切だ。また、大量の書物を読み込み、大量の書物を執筆してきたお二人を「天才」という言葉でくくってしまうのはあまりにも失礼であろう。
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