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現代におけるオーバーロード戦術の最新系

皆様こんにちは。上原力也を信じろです。
今回は現代におけるオーバーロード戦術の最新系、ということでサウサンプトンやブライトンの実戦例を元にオーバーロード戦術の最先端を考えていきたいと思います。

【目次】
■オーバーロード戦術とは
■サウサンプトン型(超急戦)の考察
■ブライトン型(先手型)の考察
■オーバーロード戦術のこれから

【オーバーロード戦術とは】

オーバーロードは過負荷を意味し、フットボール戦術においては部分的に人数を動員し人海戦術により数的優位を作ろうという試みである。
本戦術はトータルフットボールの定義である「ポジションが流動的で尚且つ全員攻撃、全員守備」を体現したような戦術であり、人間に体力という概念がある以上完全な形での成功は難しく非効率的だとされたが、近年急速に見直しと再評価が始まっている。

【サウサンプトン型(超急戦)の考察】

セインツの方針はピッチを垂直に二分割した時、どちらかにボールを誘導しそこに人数をかけて空間を圧縮し、狭い局面内での即時奪取(ゲーゲンプレス)を目的としている。
以前私はリバプールのゲーゲンプレスは後手急戦と表現したが、セインツの場合は状況作成の段階から先手を取るものなので先手型であると分類して良いと考える。その中でも極端且つ強引な状況作成であるが故に「超急戦」と位置づけたい。

本戦術の革新的な部分はその長所、短所を明らかにしていけば説明がつく。結論を先に述べるならば、作戦勝ちという点においてこの「超急戦」は極めて優秀で再現性が高く、中堅クラブの生存戦略の一つの選択肢足り得ていると私は評価する。

評価の根拠として超急戦の長所と短所を実戦例から抽出してみよう。

〈長所〉
・対策そのものが同型で戦うことなので、既知の局面への誘導が可能。既知の局面への誘導をもって作戦勝ちとする。
・本戦術をドクトリンとし、タッチ数を減らしたプレーがチームとして共有されている為、狭い局面で個の質の差を埋めて打ち合いに持ち込む事が出来る。
・走力勝負に持ち込む事が出来る。
・既知の局面の作成が目的なのでゴールキーパーのキック精度はそこまで求められない。
・狭い局面でのゲーゲンプレス勝負は思考の時間の勝負とも言える。既知の局面である側の方が思考の簡易化は容易であり、トランジションの部分で勝ることができる。

ざっくりと箇条書きで記載したが、本戦術の何よりの主張は既知の局面への誘導と、タレント力の差を無くすという部分かと考察する。

〈短所〉
・同一戦型を苦にせず、ゲーゲンプレス勝負ではなくアイソレーション勝負を仕掛けられると対応局面が一つ増え、ボールサイド密集を緩和される点。オーバーロード戦術におけるアイソレーション、バックドアは当然既知の局面と言えるが、既知の局面であっても激しいトランジションとハードワークを必要とする本戦術において、一局面の増加は非常に負荷がかかるものと評価できる。
・上述の通りハードワークを要する点。選手の筋肉系のトラブルはついてまわり、過密日程や連戦に耐えられない。
・超急戦である必然、終盤に近づくにつれゲーゲンプレスの精度やパスの精度が落ちてショートカウンターを貰うリスクが増大する。これについては相手クラブも同じリスクを負うが、ハードワークや状況作成で個の質の差を埋めていたという主張が時間と共に薄れる事を意味する。

時間経過と共に、特に後半精度が落ちる事はどうしようも無い欠点と言える。前半リードしていたならば後半リトリートして守りきれば良くないか?という疑問をセインツに対して思う方も居るかもしれないが、根本的に普通に戦ってタレント力の差を埋められるなら本戦術を採用しないという部分を頭に入れてもらいたい。その疑問の主旨であるペース配分という点自体は正論なので、クラブとして引いて守るプランと実行できるタレントがきちんとあるならば本戦術はより強力なものとなると予想される。

本戦術の最新系を作り上げようと工夫を積み重ねているセインツがタレント力の差を覆し、現在の順位に居られているというのは何も不思議な事ではないと言えるのではないだろうか。

【ブライトン型(先手型)の考察】

ブライトンの方針はビルドアップにおけるオーバーロード戦術である。HVの選手がWBを押し上げて左右非対称の戦型にすることで、ジリジリとオーバーロード状態を作りアイソレーションを活かす。左右への揺さぶりとブロックのギャップ作成という一般的なビルドアップと異なり、一方を密に密にして十分な縦深を逆サイドに作り出すという斬新なものだ。

ゾーン1〜ゾーン2までの間で時間をかけて模様を良くし、準備が整えば一気に前進できる。ボールを保持し落ち着かせさえ出来れば作戦勝ちできるのでシステムとして非常に合理的で優秀だと私は評価する。

長所は再現性が高くゾーン3侵入が可能という点で、ブライトンとリバプールの引き分けというのも私としては十分納得出来る結果である。

一方短所はゾーン3侵入後の精度が必須であるという事とゴールキーパーを含めた最終ラインの能力の高さが必要であるという事。つまり、シティ程ではないにしろ、ある程度の個の質が求められるという点だ。

ブライトンが今下位で苦しんでいるのは、システムで勝利しきることができるスカッドでは無いからだと評価できる。あと一歩、個人的にはゴールキーパーとリベロの質さえ上げられたら……と思う。ブライトンが降格することはまず無いと思うので来季以降も注目していきたい。

【オーバーロード戦術のこれから】

グアルディオラ式のポゼッションが一般化し、ある意味陳腐化しつつある中でブライトンのようにビルドアップの上でのオーバーロードという「状況作成」が再評価され始めたのは非常に興味深い所だと思う。作戦勝ちという意味では既にブライトンは結果を出し始めているため、これから先ビッグクラブもオーバーロードの再評価と部分的導入が進むかもしれない。
ゲーゲンプレスもリバプール式が正解という訳ではなく、生存戦略として部分的導入が各クラブで進んで行き、セインツのような極端な「状況作成」と抱き合わせの作戦も結果と結びつき始めている。
セインツやブライトンの戦術からは机上の空論で終わっていると結論づいた戦型も復活傾向にあるということが示せたと思うし、彼らの頑張りは戦術の古い新しい、正解不正解はないのだという事を断言出来る根拠足り得るなと確信した。

これからのオーバーロード戦術がどのようになっていくのか期待したい。

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