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[読書]誰が音楽をタダにした?

この本はかなり面白かった。3人のメインの登場人物による構成は見事だし、事実調査も実に根気よくされている。また、HipHopがメジャーになるきっかけも知ることができる。

この本はナップスターに代表される音楽のデジタル海賊版の時代を描いたノンフィクション。なぜか普通の人々が違法行為と知りながらインターネットから無料で音楽を手に入れていた時代だ。

本書は3人の登場人物をメインに描かれている。互いに影響し合うが直接的な対面をしたこともなかったし、互いを認識したこともほとんどない。しかし、彼らの物語があの時代を鮮明に浮かび上がらせている。実に見事だ。

* ドイツのMP3の発明者
* アメリカの片田舎で発売前のCDを盗み違法にアップロードしていたCD工場労働者
* Hip Hopを一般人にまで流行らせたレコード会社CEO

ドイツのMP3の発明者
MP2との規格競争に敗れた(DVDやblu-rayはMP2を採用している)MP3の開発者は、ほとんどやぶれかぶれで無料エンコーダーを公開した。それがデジタル海賊版の黄金時代を生み出すきっかけとなる。そしてWindows標準になったことで莫大なライセンス料を手に入れる。

発売前のCDを盗み続けた工場労働者
CD工場労働者は発売前のCDを盗む。お互いの顔も名前も知らないネット上のグループが複数あり、発売前CDのリーク合戦を繰り広げる。

HipHopを一般人まで流行らせたレコード会社CEO
90年代前半、HipHopは一部の愛好家が好むだけの音楽だった。それが90年代後半から普通の人が好む音楽に代わっていった(日本以外)。僕は長年、その理由が分らなかったのだけど、ようやく分かった。このレコード会社CEO(ダグ・モリス)が一部の愛好家たちの熱狂を嗅ぎとり莫大な広告費をかけて売り出したのだ。いくらDr.DreやジェイZが有能なビジネスマンであっても元手はいる。モリスとの契約が彼らの元手になった。

アイルランド系の白人であるダグ・モリスは冴えないミュージシャン、プロデューサーを経て経営側に回る。まず最初はタイム・ワーナー配下で70年代に一世を風靡したのアトランティックレコードの創設者アーティット・アーティガンの後釜だ。1991年51歳のことだ。

  デス・ロウ・レコードとの契約、タイム・ワーナーをクビになる
新人への積極的な投資でアトランティックを復活させたモリスは、盟友であるインタースコープレコードを率いるジミー・アイオヴィンと共に1992年に発売前のDr.Dreの「クロニック」に注目した。そして2人は、デス・ロウ・レコードのシュグ・ナイトを口説いた結果、デス・ロウ・レコードとインタースコープ・レコードの契約することとなり、タイム・ワーナーが発売元になることが決まった。
当時の黒人はちょっとしたことでも不当逮捕されるし、悪い噂も立ちやすいので悪い評判の立った人物像を正しく評価するのは難しい。が、シュグ・ナイトはギャングのフリをする音楽関係者ではなく、ギャングが音楽ビジネスをやっていたと言い切ってもいい人物だと思う。そんな相手の元に乗り込みビジネスを切り出す胆力は凄まじい。しかし、デス・ロウ・レコードとの取引は問題を引き起こす。過激な歌詞のギャングスタラップへの世間の風当たりが社会現象まで強くなりタイム・ワーナーを追い詰める。タイム・ワーナーはモリスを切り捨ててクビにした。

  ユニバーサルでの復活
タイム・ワーナーをクビになったモリスはMCA(ユニバーサル)のCEOとなる。そしてタイム・ワーナーと対立状態にあったジミー・アイオヴィンのインタースコープ・レコードをタイム・ワーナーが手放すように仕向け、ユニバーサルと契約する。ギャングスタラップの東西抗争と2パックの悲劇的な死は残念なことだったが、デス・ロウ・レコードがばらばらになった後もDr.Dreとの関係は続き商売上の成功を手に入れた。そしてDr.Dreが売り出したエムニムはスーパースターとなる。
そして、新しい才能も手に入れる。南部での熱狂的なローカルヒップホップの人気の臭いを嗅ぎ取ったモリスは、独立系レーベルのキャッシュマネー・レコードを手に入れる。オーナーのウィリアム兄弟(ブライアン・ウィリアムはバードマン)に契約金300万ドルを支払った。当時は無名の彼らに大金をつぎ込むモリスのような経営者は他にはいなかった。ユニバーサルの大々的な広告もあり、キャッシュ・マネー・レコードは現在でも人気レーベルとなっている。さらにポリグラムを買収したことで瀕死の状態から復活しつつあったDef Jam Recodings をも手に入れた。そのことによって看板ラッパーであったジェイ・Zをも手に入れたことになる。大々的な広告を打ったこともありジェイ・Zは世界的なスーパースターになる。
このように、モリスはユニバーサルはHIP HOP の東、西、南とすべてを手に入れることとなる。というより、大々的な広告がhiphopアーテイスト・プロデューサー・レーベルが成功するきっかけとなったのだ。モリスが参加したときは業界6位で北米シェア7%しかなかったユニバーサルは北米最大のレコード会社となった。

本書に書かれてる他のこと
上に書いたことは本書のごく一部だ。他にもVevoの設立、ビットトレントに関する裁判、CDを盗んでいた男たちの組織と崩壊など読みどころが満載だ。
独立を求めたジェイ・Jとの賭けのシーンは面白い。

また、音楽業界のビジネス変化については以下が詳しいので参考するといいだろう。

本書に書かれていないことだが、2014年にDr.Dreとジミー・アイオヴィンはアップルにビーツ・エレクトロニクスを30億ドルで売却する。アイオヴィンはApple Musicの中心的人物となっていた。

MP3の開発者は最初に日本のメーカーがMP3プレイヤーを作ると期待していたが、どのメーカーも作らず、最初に作ったのは韓国のメーカーだったとのこと。個人的にこれは90年代以降の日本の没落を予言するようかの出来事だと思った。

最後に、、、

この邦題は良く無かったのではないかと思う。変に煽りすぎだ。

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