氷
祖父は初孫である私を大いに可愛がった。
その可愛がりようは、かなり前に書いた記事「癇癪」を読んで頂ければ分かる通り、祖父は私にめちゃくちゃ甘かった。私がその甘さを今でも鮮明に記憶している程に。
今回は祖父と私だけが目撃した、衝撃の事件について書こうと思う。
私が幼少の頃、上記したようにコメダのパンケーキより甘々だった祖父は、毎週末、地元の動物園に私を連れて行った。ガチで毎週末。
それは祖父なりの、私を喜ばせる最大の手段だったのだろう。じーちゃんばーちゃんって孫が「これ好き」って言った物だけをめちゃくちゃ買い与える習性ありますよね。そのせいで一時期、私の部屋の冷蔵庫に「ごはんですよ」が五瓶くらい常駐してたことがありました。
話を戻して、とにかく祖父は、初めての動物園にはしゃぐ私を見て「ヨッシャ毎週連れてったろ!」と思い立ったのだ、アホ。
小さい子供にも流石に「飽き」という感情はあるわけで、園内の動物のラインナップだってすぐにガラッと変えられるもんでもないので、二、三回と訪れれば大体
「あーここにゾウいるわ」
「あそこがクマ、あそこがフラミンゴ」
と、なんとなく冷めた感じで、私は園内を事細かに把握してしまっていたのだ。
しかし四度目か五度目の来園の際、一生忘れることのない衝撃的な事件が私と祖父を襲ったのだ。
その日は、今現在(2020/08/18)のような、真夏のクソ暑い日だった。
その日も祖父に連れられて動物園を訪れた私は、暑さでヘバりながらもいつもと同じラインナップ達を檻越しに眺めていた。
その日は特に暑かったのか、檻の中心には飼育員さんが入れたであろう氷の塊が置かれていて、動物達はその氷にくっついたり、ぺろぺろ舐めたりして暑さを凌いでいた。
そして私はゴリラの檻の前に立った。
例によってゴリラの檻の中にも一際デカい氷の塊がドンと置かれていて、周りには数頭のゴリラが、その欠片を手に取り食べていた。
私はそれをボーッと見つめていた。
一頭のゴリラが、私に近づいてきた。
昔の、しかも田舎の小さな動物園は……今ではとんでもないことだが……檻の柵の間隔がだいぶ広かった。ゴリラの腕が入るほどに。
氷の塊が乗ったゴリラの手のひらが、檻を超えて私の眼前に突き出された。
私はゴリラから氷をもらった世界初の人間となった。子供だったので食べた。毛がめっちゃついてた。一応ゴリラが見てないところで吐いた。祖父大爆笑。帰った。家族に話した。誰も信じてくれなかった。
これを読んだあなたも、別にこの話を信じてくれなくても良い。私と祖父だけがわかっていればそれで良いのだから。
祖父は存命だが、この話の生き証人が今後私ひとりだけになったらと思うと、ちょっと悲しい。
きっと祖父への弔辞でこの話をすると思う。
氷をくれたゴリラへ
吐いてごめん。まだ生きてる?
私は割と元気。
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