【書評】ファーウェイと米中5G戦争
2019年出版当時、米中貿易戦争の最中にあったファーウェイに焦点を当てつつ、米中貿易戦争の経緯や欧州の対応、日本のとるべき方針まで簡潔に整理された良書でした。ちなみに、筆者は講談社北京副社長として2009年から2012年に北京に勤務経験があり、中国の政治経済にも精通されています。
1.要約・書評
以下、本書を引用しつつ、ざっと気になる点をまとめていきます。
(1)ファーウェイ社の全貌編(第1章)
筆者がファーウェイ本社を訪問し、取材したことをまとめた部分。
・研究開発費用の大きさ(2018年、売上の14%を研究開発日に回しており、総額約1.6兆円。世界5位。日本で最大のトヨタの1.4倍。)
・国際特許出願件数の多さ(2018年、WIPOによると世界一位。二位の三菱電機の約2倍。)
・多岐にわたるチップ開発(携帯、サーバー、5G、AI、 IoT、OS)
・職場環境の良さ
・定年は45歳!
(2)米中貿易戦争の経緯・欧州の対応編(第2章〜第4章)
米国政権内部を「通商強硬派(トランプ大統領、ムニューシン財務長官等)」と「軍事強硬派(ペンス副大統領、マティス国防長官等)」に分け、後者が突き上げる中で、2018年7月6日に「開戦(※第一弾追加関税)」した米中貿易戦争の経緯を整理。
トランプも知らなかったバンクーバーでのファーウェイ副会長逮捕(この日、2018年12月1日はブエノスアイレスでG20サミットが開催されていた)とか、ファーウェイ社のライバルであるZTE叩き早期決着の背景、など、ニュースに出てこないことが書いてあります。
また、米中の両方にとって重要な欧州各国のスタンスも記載してありますが、最後に記載されていたフランスの研究者による台詞が印象的でしたのでここに引用したいと思います。
また、第3章「中国の『5G覇権』に怯えたアメリカ」において、メルケル首相の電話が米国に長らく盗聴されていた可能性が明るみになった後、筆者の日本政府高官への取材でのコメントが、EUと同じ立場にある日本のスタンスが言外に込められていますので、こちらもあわせて引用します。
(3)米中「経済ブロックの行方」編(第5章〜第7章)
米国企業のGAFAと中国企業のBATH(baidu、アリババ、テンセント、ファーウェイ)に分かれる世界と、最終決戦場としての台湾(台湾に本社を置くホンハイ(中国大陸では富士康)とTSMCの重要性、2014年ソチ五輪後のクリミア併合の例)、そして最後に、日本の行く末について、以下のように述べられています。
2.最後に
世の中には、「変化」を楽しむことのできる人もいれば、「変化」したくない人もいます。「変化したくない」人にとっては、世の中の構造が変わっていくこと自体が望ましくない事柄であり、こうした事柄に対して都合の良いように認識を変化させて、自分を納得させることがあるようです。
IT界の巨人がいる米国と中国以外の国・地域が今後どのような道を取るべきか、日本も、幅広い知見の中から判断していくことが大事だと思った一冊でした。
3.(参考)本書の目次
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