「通商白書」を通じてみる,世界経済のテーマ一気読み(21世紀の振り返り)

 毎年政府が発行する通商白書のメインディッシュ「第2部」のテーマ解析を通じて、21世紀の世界経済を振り返るの巻、をやってみたいと思います。

 通商白書の見方については、前回の記事(【世界経済】通商白書の見方:世界経済の動向とリスク、主要トピック、通商政策)でも解説していますので、こちらもご覧いただければ嬉しいです↓

https://note.com/udonpudong86/n/n023788880357

(前回のnoteの要約)政府発行の通商白書は、世界経済の客観的なデータを示した第一章と、通商政策の状況を解説した第三章にはさまれた、まんなかの第二章こそが醍醐味であり、世界経済の旬のテーマがわかる、、といった内容です。

それでは早速、通商白書のメインディッシュ第2部のテーマを一気に見ていきましょう。

1. 通商白書「第2部」のテーマ(2001~2021)

【1】2001年ー2007年(「東アジア事業ネットワーク」)

●2007年:東アジア事業ネットワークの拡大と深化
●2006年:「アジア・ダイナミズム」と国際事業ネットワークの形成
●2005年:東アジアの持続的・自律的成長の胎動〜東アジアのビジネスチャンスとリスク〜
●2004年:「新たな価値創造経済」と東アジア経済統合
●2003年:東アジアにおける経済関係の深化と我が国企業の活動,日本経済の活性化に向けての取組み
●2002年:グローバリゼーションの中での東アジア経済の変容とこれからの日本
●2001年:IT 革命とビジネスのダイナミズム,グローバリゼーションの光と影

【2】2008年ー2016年(「サービス貿易」「新興国市場」)

●2016年:世界の新たなフロンティアに挑戦する際の我が国の課題(我が国の強みを活かしたサービス貿易の拡大「新興国ニューフロンティア」への挑戦
●2015年:日本を活かして世界で稼ぐ力の向上のために(世界で稼ぐ力を支える各国の立地環境とグローバル経営力の強化に向けて
●2014年:各国の経済ファンダメンタルズの変化と成長戦略・構造改革の取組
●2013年:我が国の国際展開に係る取組のあり方について(新興国市場開拓
●2012年:我が国企業の海外事業活動の展開(サービス業の海外展開に向けて)※物流,コンテンツ,外食,観光,小売,教育の海外における事業展開事例を紹介。
●2011年:我が国経済の新しい海外展開に向けて〜世界経済危機(の余波)と震災ショックを乗り越えるために〜
●2010年:アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み
●2009年:日本の魅力発信に向けて〜ピンチをチャンスに
●2008年:世界経済の新たな発展を先導する「アジア大市場」の創造

【3】2017年ー2021年(「サプライチェーン」「サステナブル」「デジタル経済」)

●2021年:レジリエントなサプライチェーンの構築に向けて共有価値(サステナブル・インクルーシブ)を取り込む新たな成長の要請
●2020年:コロナショックとグローバリゼーション(サプライチェーンリスク,デジタル経済の拡大)
●2019年:グローバル経済の現状と揺らぐ自由貿易体制(新興国金融リスク)
●2018年:大きく転換するグローバル経済(拡大するデジタル貿易,新興・途上国経済の台頭
●2017年:持続可能なグローバル化に向けた分析(インクルーシブな成長に関する国際的な論調),イノベーションを生み出す新たな産業社会の創造に向けた取り組み(我が国グローバル企業の収益力向上)


「参考URL」

(通商白書2012年まで)
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/index_tuhaku.html

(2011年以前のアーカイブ)
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2896167/www.meti.go.jp/report/whitepaper/index.html

2.第2部のテーマの変遷を通じて思うこと

(1)21世紀を3つのフェーズでわけてみる


 2001年以降の通商白書第二部のテーマを見ると、大まかに3つに分類することができます。テーマの要素を掛け算で分類すると、時代を経るにつれて、その要素が変化していることがわかります。

【通商白書のテーマの要素掛け算】

 「産業」 × 「日本企業の競争力の源泉」 × 「市場」

【1】2001年ー2007年:「製造業」×「技術」×「欧米」

【1】2001年―2007年:日本企業による東アジア事業の深化期(対象は製造業、日本企業の競争力の源泉は技術、アジアでつくって欧米に輸出(世界の貿易は、「三角貿易」構造を形成(※通商白書2005)))

【2】2008年ー2016年:「サービス業」×「ノウハウ・ブランド」×「新興国」

【2】2008年―2016年:日本企業による東アジア事業の変容期(対象はサービス業,日本企業の競争力の源泉はノウハウやブランド(※通商白書2012),アジアでつくってアジアで売る)

【3】2017年ー2021年:「デジタル産業?」×「価値観?」×「どこで作ってどこで売る?」

【3】2017年―2021年:世界の政治・経済体制の変容期(新たな産業(デジタル経済),日本企業の競争力の源泉の見直し(価値観?),どこでつくってどこで売るか(サプライチェーン))

(2)3つの時代を詳しく見てみる

【1】2001年―2007年:日本企業による東アジア事業の深化期

 1985年プラザ合意で急激な円高となった後、日本企業の対外直接投資は急激に増え、1990年代以降ASEAN,中国向けの投資が徐々に増加し、この間に、東アジア(ASEAN、中国、韓国など)に、日本企業が投資・貿易をどんどん進めている状況を「東アジア事業ネットワーク」と呼び、通商白書では、そのネットワークの特徴を分析しようとしていることがわかります。
 
 この時期の主な分析の対象は製造業で、製造業が東アジアででものづくりのネットワークを拡大・深化させて、日本や欧米に輸出する関係が形成されていた時期でした。

【2】2008年―2016年:日本企業による東アジア事業の変容期

 2008年にリーマン・ショック、2011年に東アジア大震災が発生した時期でした。
 この時期から徐々に、日本の製造業からサービス業にも注目が移り始めます。
また、東アジアを「ものづくりの生産地」としてとらえるだけでなく、「ものづくりやサービスの販売先」としてとらえるようになっているのも面白い点です。

 背景として、韓国や台湾のものづくりが強くなってきたことや、リーマン・ショック後にいち早く立ち直った中国経済、中国やASEANの所得水準の上昇があげられると思います。

【3】2017年―2021年:世界の政治・経済体制の変容期(新たな産業(デジタル経済)、日本企業の競争力の源泉の見直し(価値観?)、どこでつくってどこで売るか(サプライチェーン))

 2017年以降の通商白書は、これまでの日本企業と東アジアとの関係から一歩引いて、世界の政治・経済がどうなっているのか少し広くとらえようとしているように見えます。
 
 2017年1月に米国ではトランプ大統領政権が誕生し、その後米中摩擦や新型コロナ感染症などの要素によって世界の政治・経済が大きく変わろうとしている、ということなのだと思います。

 また、新しい産業・市場として、「デジタル経済」が大きな存在になったことも特徴です。技術で勝負するものづくりから始まり、ノウハウで勝負するサービス業に移り、いまは何で勝負すべきなのか、改めて考える必要があるということなのだろうなと思います。

 本日もここまでありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?