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産業活性化策としてのリスキリング支援 Udemyの活用で叶えたい人材育成の姿とは

石川県加賀市では、2023年度に「加賀市リスキリング講座受講支援事業」を実施し、市内に事業所等をおく事業者(個人事業主を含む)に対してUdemy Business(以下、Udemy)を活用したリスキリング支援を行っています。この事業の促進において重要な役割を持つ産・官・金・労の連携協定や、リスキリングの必要性が高まった背景、今後の展望についてお聞きしました。

【話し手】
加賀市産業振興部商工振興課(総務・商工労働グループ)リーダー 國立 昇平(くにたて しょうへい)様
2014年入庁。環境政策、交通政策等を担当し、2024年10月より現職。


地元産業のデジタル化と人材育成をめざし「加賀市リスキリング講座受講支援事業」を開始

加賀市がリスキリング支援を始めたきっかけは、他の地方都市と同じく人口減少の加速が背景にあります。加賀市は2040年には人口が半減する消滅可能性都市と指摘され、持続的な発展のためどうすれば地域の活性化ができるだろうと考えました。

加賀市は歴史的に観光が盛んな地域ですが、製造業に従事する方は観光業以上に多く、ものづくりの街でもあります。今後ますます労働力が不足する中、どのようにして産業を維持していくかと考えたとき、産業のデジタル化や現場で働く人々の人材育成に力を入れなければならないという結論に至りました。

そこで、「加賀市リスキリング講座受講支援事業」において、Udemyを活用したオンライン学習で地元事業者のリスキリングを支援する取組をスタートしました。

「3つの柱」で市内企業のリスキリングをバックアップ

「加賀市リスキリング講座受講支援事業」には3つの柱があります。

市内企業のリスキリングを進めるには、まず経営者層への理解が不可欠です。リスキリングとは何か、またその重要性をしっかりと伝えて事業の参加者増加につなげようと考えました。本事業では、地元の中核を担う製造業や観光業・伝統産業・薬局・小売店など幅広い業種から参加申し込みがありました。

参加企業からよく挙げられる課題は、「従業員のリスキリングをしたいが、人的な余力がない中でどうすれば業務に支障なく進められるかわからない」というものです。学習時間の確保や受講しやすい環境づくりに悩む経営者のがとても多いので、その部分を解決に導いていければと考えています。また、それぞれの企業で学びのニーズは異なるため、希望に沿ったUdemy講座の提案や集合研修と組み合わせて学びを深めるなど、さらに一歩踏み込んだ支援ができないかを模索しています。

業種ごとに異なる学びのニーズも、講座が豊富なUdemyなら対応可能

本事業でUdemyを活用する際に注目したポイントは、最先端の学びが得られるかどうかという点です。先進事例を持ち最先端の事業を担う講師が動画をアップしている、しかもそれがどんどんアップデートされる仕組みがあるUdemyは、情報の新しさという点で大きな魅力を感じました。

デジタルと一言で言っても、企業によって求めるものは千差万別です。プログラミングを学んで業務効率化を図りたい方や、ホームページをきれいに作れるようになりたい方など、学びの目的や方向性はそれぞれ違います。その点、Udemyでは現場の従業員の皆さんが自由に観たい講座・学びたい内容を選べるのは大変便利だと考えています。 一方で、「講座がありすぎてどれを観ればいいか迷う」という声もあります。従業員に効果的に学んでもらうために、どの講座を受講するかは多くの企業が課題として感じています。

それぞれの企業や従業員の学びの目的に合った講座を選びやすくなる工夫や、効果的なフォローアップをどう進めていくかがとても重要です。

産・官・金・労の連携協定が実現する人材育成のさらなる発展

加賀市ではリスキリング支援を円滑に進めるため、2022年12月に「加賀市におけるリスキリング促進に関する連携協定」を締結しました。この協定は、加賀市・加賀商工会議所・山中商工会・連合石川かが地域協議会に加え、4つの金融機関の合計8者が相互協力し、市内企業のリスキリング促進に取り組むというものです。

産業界の人材育成は、いくら行政が旗を振ったとしてもそれぞれの企業の経営者が正しくリスキリングに向き合わなければ進展は望めません。そこで、産・官・金・労が同じビジョンを共有し、オール加賀市として意思疎通を図りながら人材育成と産業の発展をめざすことにしました。

協定を結んだ各団体や金融機関が積極的に周知してくださり、今では徐々に市内の企業でリスキリングの機運が高まっており、開催するセミナーや研修などは定員に達することも多いです。地元企業で働く皆さんが、日々忙しい中でも前向きに学び続けられるように今後も連携しながら支援を続けます。

経営者の意識変容と学ぶ姿勢こそがリスキリングのカギ

本事業は3つの柱を中心に取組を進めていますが、前提として経営者自身が「従業員にどんなスキルを伸ばしてほしいか、そのためにはどのような研修を受ける必要があるのか」という指針を持つ必要があります。そのためには経営者自身が学び続ける姿勢も重要となるでしょう。

市内の企業では、多くの業種で人手不足やデジタル化の推進が課題となっています。それぞれの企業の持つ悩みにマッチした研修が受けられる体制を整え、おすすめのオンライン講座の情報提供や、学びと現場の実務を接続する仕組みの構築などについて引き続き対応が求められます。

リスキリングの意義をより多くの地元企業に伝えたい

市内企業の経営者の中には「リスキリングで従業員が学ぶと、転職市場に人が流出してしまうのではないか」と懸念する方もいます。

しかし、加賀市がリスキリングを通してめざすのは「人材育成を通して自社でレベルの高い仕事をする人を増やし、労働生産性を上げることで従業員の所得や待遇の改善を可能にし、ひいては企業の魅力向上・離職を防止すること」です。

そういった趣旨を伝えるためにも、加賀市では今回の事業に先駆けて2022年9月に「加賀市リスキリング宣言」を発表しました。
この宣言をきっかけに、少しずつリスキリングが市内の企業に浸透し始めていると感じます。目的を正しく理解したうえで、「自社でも取り組むべきだ」と認識して前向きに行動する企業が増えた実感がありますので、今後もリスキリングと本事業の趣旨を積極的に情報発信していきます。