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第4章 2話 コヒーレンスなる逢瀬(2/3)

 気がつくと、マイは知らない部屋にいた。
 駅からどうやってここの場所が分かって辿り着いたのか?覚えていない。ワープしたのだろうか?

 目の前には音道さんが立っていて
この部屋も音道さんと2人で会うのも初めてなのに、途方もない安心感に包まれていた。

「マイさん、あなたは奏でるのが役目なんですよ」

その声の落ち着いた響きは清らかで美しく、耳から聞こえる音ではなく
身体全体を包み込む音色だった。

「奏でる?」

「そう、音楽を奏でるのもその1つかもしれないが、まずは自分の音を知ることですよ。」

「自分の音?!」

「本音って言うでしょう。本心を言葉にすることを。自分の本当の音で伝える言葉や歌、音楽はすべて嘘偽りのない本音なんですよ。」

 マイは妙に納得した。
ユウキに感じていた不満。
 それはユウキが発する言葉がたまに浅いところで思考した口先の言葉に聞こえて本当の深い所から出た言葉ではないと感じる事だった。
 だから何を言われても信頼しきれなかった。

「あ、分かる、それ。」

「だけど、どうやって自分の音を知って本当の音を出すことができるんですか?」

「それは、本当の音を出している人を見つけ共に過ごすこと。嘘偽りのない内面の美しい在り方からその人の音を感じるだろう。必要なタイミングでそういう人が現れるから、これは待っていればいい。」

「あとは、答えを出すとき自分の深いところに聞くこと。言葉を感情に乗せて発するのではなく、一旦呑み込んで肚に問うてみるといい。最初はよく分からないだろうし時間がかかるけど、次第に思考と一体化してきますよ。そうすると声色も自分の本音の音になってくる。だがこれは、真剣に自分と向き合った経験がないとなかなか難しいかもしれない」

 ユウキの事を不満には感じていたけれど、果たして自分は?そう考えると自分も浅はかな思考をそのまま言葉にしているなと思った。感情任せな時もあるし。

 自分の音。
私の音はどんな音だろう?

そう思いを馳せた時に、音水さんがポツリと言った。

「マイさんの音。私がバイオリンで奏でてみましょうか。」

第3話に続く


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