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第2章 2話 此の先へ/日常の未知へ(2/3)
「ここから、死、か。」
右足だけ、ジリリと前に出してみる。地に足を付けていないと何かあった時に踏ん張れない気がして、靴底を地面に付けたまま引きずって前に出てみる。
特に変化はない。
もうちょっと足だけ前に出してみる。
変化なし。
膝だけ90度に折ってひざ小僧だけ線を超えてみる。
何も感じず、体勢がキツいから戻してみる。
・・・。
先輩はもしかしたら僕を揶揄(からか)うためにウソを言ったのかもしれない。
そもそもここから先が死だなんて、映画じゃあるまいし。
そんな思いが脳裏に浮かんだ。
とその時
「チリン♪チリーン」
新聞配達の自転車が、軽快に後ろから僕を追い越した。
自転車は呆気なく青い線を超え、たばこ屋を通り過ぎて行った。
マジかよ〜
最初は軽かったはずが、大きく膨らみすぎていた期待と緊張の汗は僕を恥ずかしい気持ちさせた。なんとも怪しい素行だっただろう。
誰にも見られてないだろうな。思わず辺りを見回した。誰もいなかった。
その恥ずかしさと3cmくらい重なって先輩に腹が立ってきた。
まったく!適当なこと言いやがって。
誰かにぶつけたい腹立たしさと、安易に信じた自分への恥ずかしさは行き場がなく、もう地面にぶつけるしか他なかった。足を叩きつけるようにガシガシガシガシと青い線を超え前に進んだ。そして7歩目。たばこ屋の入り口に差し掛かった。
ん?
突然、みぞおちから心地よい何かがジワーッと滲み出してどんどん広がった。その何かは、言葉で言うなら安心感、だろうか。なんとも言えない優しさで僕の身体を内側から包み込む。いや、正しく言うと僕が優しさに吸い込まれていく感覚だった。
その直後
あれ?
と気づいた時には
ブクブクブクブク
沈んでいるのか浮上しているのか、これまた言い表せない無重力感の渦中にいた。
今一瞬で自分がどうなっているのか?何が起こってどんな状態にあるのか?
死とかそういうこと以前に、経験した事のない未知の感覚にまずは足元を確認した。
どういう事なんだろう?
足は地についていて普通に立っている。アニメや映画のように透けてるとか歪んでいるとか、そういう事もなく至ってすごく日常そのままだ。
だけど何かが違う
今ここで僕の視座は、僕が僕の2つの眼から見ているのではなく、よく言う神視点というやつだった。
上から?いや違う。だけど
それは幽体離脱というより、自分とその周りの宇宙全体を掌握できる視点。
自分がすべてを掌握しているという感覚。そこには一切の不安や恐れはない。
「ここが、死?」
第三話 「死の世界へ」へつづく
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