竹野内がチラッチラ見てる

帰宅したら家にいた竹野内豊と目が合うこと5秒ほど。夫の声で意識が戻った。

「おかえりあさちゃん。なんか見たことないお店の袋だねー」

私の買ってきた惣菜の紙袋を覗き込んでいる夫に、頭ごと向きを変えた。

「あの…え?」

「ここ、買ってきたことあった?初めてじゃない?」

竹野内へのリアクションを会話の続きだと思っている夫の太朗くんは、今日はエクアドルの国旗のTシャツを着ていた。

「違くて、その…」
そう言って目線を竹野内に戻すと、あぁと太朗くんは言って続けた。

「こちら、竹野内さん」

「…」

「あ、知ってるよね。竹野内豊だもん知ってるよね。今日帰りにさ、マンションの向かいの撮影所の隣のコンビニでビール買って、撮影所の隣の隣の小さい公園あるでしょ?あそこのベンチ飲んでたんだよね。
あ、子供はいないか確認してから飲みました。大丈夫です。
そんでさ、ベンチの端に座ってグビグビ飲んじゃったの、はじめの一口。
それでプハーーって言ってたら、ベンチの反対側の端に座ってた人とまさかのプハーー被りしちゃって。
僕ベンチに誰かいるの気付いてなかったからびっくりしちゃって、パッと横向いたら竹野内さんがびっくりした顔してこっち見てたよ。」

そう言うと太朗くんと竹野内は目を合わせながらヘラヘラしていた。

「…で?」

「あ、それでね。えーと、僕が飲み終わって帰る時、ちょっと会釈したんだよね。そしたらなんか、目で引き止められたっていうか。まだ飲みたいのかなって思ったんだけど、僕あさちゃんと公園で飲むのは一本までって約束してるし。どうしようかなーどうかなーと思って、うち来ますか?って聞いたんだよね。」

唖然とした。私の夫は、竹野内豊を、家にお誘いしたのだ。
そしてまだ足りない、説明が。
誘われてなぜ来た?竹野内。

私はまだ自分の体をどこにも落ち着かせることが出来ていないが、太朗くんは私の買ってきたキッシュや煮込みハンバーグを当たり前のように3人分に取り分け、テーブルにきれいに並べていた。

盛り付けられた皿を自分の前に出された竹野内も、太朗くんにニコッとしてスッと受け入れていた。

竹野内、ハンバーグが好きなんだろうな。

デミグラスソースといくつかのキノコを纏ったハンバーグを、気にしてない風を装ってチラッチラ見てる。
ちょっと口角上がってるし。

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