自動車のメカニズム(THS編)
【はじめに】
THSはあまり聞きなれない人が多いと思いますが、Toyota Hybrid Systemの略です。
これを見てわかると思いますが、トヨタのハイブリッドシステムです。
トヨタは世界で初めてハイブリッドシクテムを搭載した市販車を販売しました。
その機構はとても特殊ですが、シンプルで奥が深いものです。
主要諸元を見ると電気式無段変速機と書いてあります。
【THSの機構】
プラネタリーギア(遊星ギア)が大きな特徴です。
動力分割機構という名前が付けられています。
このプラネタリーギアにエンジン・モーター発電機x2が繋がっていて、クラッチはありません。
それぞれは常に繋がっていて、動力の切り替えはそれぞれの動力源の入出力トルクを変えることで連続的に変わります。
プラネタリーギアについてはこちら
モーターと発電機は原理的には同じで、回転を受けて発電をするか、電力を受けて回転するかだけ違います。
THSではモーター・発電機2つ持っていて発電と駆動を同時に行うことができます。
そのため2モーター式のハイブリッドとも呼ばれます。
他の形式のハイブリッドの多くは1つのモーターを発電と駆動の両方に使うものが多く、1モーター式のハイブリッドと呼ばれます。
モーター・発電機はモータージェネレーター(Motor Generator略してMG)とも呼ばれます。
THSではエンジン・MG1(発電機・スターター)・MG2(発電機・駆動用モーター)とプラネタリ―ギアのそれぞれの要素を以下のように組み合わせています。
サンギア:MG1
キャリア:エンジン
リングギア:MG2(ホイール)
【THSの動作】
〈THSの基本的なエネルギーの流れ〉
エネルギーの流れ的には、
エンジンの出力が車輪の駆動とMG1の両方に分配されます。
MG1で出力された電力を使ってMG2を動かします。
このエネルギーの流れはTHSの基本です。
ハイブリッドというと、発電したエネルギーをバッテリーに入れ、バッテリーに貯めた電力を使ってモーターを動かすイメージがあります。
しかし、バッテリーは化学電池なので充放電ロスが大きく、温度の影響も受けやすいので、作った電力はその場で使ってしまったほうが効率が良いです。
電車の回生エネルギーが電線を伝って別の電車に分配されるのと理由は同じです。
駆動用バッテリーの状況(SOC:State Of Chargeとも言います)で残量が多ければエンジンを停止したままの動作をします。
以下に運転モードごとの説明をしますが、連続的に変化します。
(これが無段変速機と言われるゆえんです)
〈車両停止時(発電モード)〉
駆動用バッテリーが十分に充電されていない状態で停止するとこのモードになります。
エンジンで駆動した力でMG1を使って発電します。
普通の車で言う、いわゆるアイドリング状態です。
〈車両停止時(アイドリングストップ)〉
先ほどとは反対にバッテリーに十分充電されている状態で停止するとこのモードになります。
エンジン・MG1・MG2すべて停止し、駆動用の装置は全て動かない状態になります。
〈車両停止時(エンジン始動)〉
停止している状態からエンジンをかけるモードです。
MG1に電力を供給し、スターターモーターとして機能し、エンジンを回します。
エンジンには燃料を供給して始動します。
〈発進 or 軽負荷〉
バッテリーが十分充電されている状態ではモーターの駆動力だけで走行します。
MG2で駆動し、エンジンは停止。
MG1はプラネタリ―ギアに付けられたままなので、逆転の空転をします。
〈発進 or 軽負荷(+発電)〉
反対にバッテリーが十分充電されていない状態では、エンジンが駆動してMG1でバッテリーを充電しつつ駆動します。
〈定常走行時〉
エンジンは効率の良い回転数で駆動し、MG1は発電、MG2に電力を供給して駆動します。
エンジンは若干ですが、車輪の駆動力に参加します。
〈加速時〉
エンジン回転数を上げ、MG1の発電量を上げ、MG2の駆動力に充てます。
エンジンも車輪の駆動力に参加します。
〈回生ブレーキ時〉
エンジンは停止し、MG1は空転の逆転をします。
MG2で発電して減速時のエネルギーをバッテリーに溜め込みます。
〈リバース時〉
エンジンは停止し、MG1は空転します。
MG2の駆動力だけでバックします。
【THS変遷】
当初のTHSはこのシンプルな構成でしたが、さまざまな変遷を経ています。
〈THS Ⅱ〉
2代目プリウスで採用されています。
メカ的にはほとんど変わっていませんが、パワーコントロールユニットに昇圧機能を持たせています。
〈リダクション(減速ギア)の追加〉
3代目プリウスから採用されました。
理由はモーターを小型化するためです。
今までとパッケージングをあまり変えないために同軸で減速できるプラネタリ―ギアを追加しています。
〈対向配置から平行配置へ〉
現行プリウスから採用されました。
トランスミッションの左右長を短くするメリットがあります。
リダクション用のプラネタリ―ギアも通常の歯車に変更されています。
〈MG1,MG2の同時駆動〉
プリウスPHVで採用されています。
CMでもEVのトルクフルな走りをアピールしていますが、2つのモーターを駆動に参加させる仕組みを導入しています。
もともとMG1とMG2はモーターと発電機を同時に働かせるために役割が分かれていただけなので、同時に駆動することで最大出力を上げています。
ただし、バッテリーに余裕のあるシステムでなければすぐにMG1が発電用に切り替わってしまうので、PHVでの採用に限定しています。
エンジンのフライホイールにワンウェイクラッチを装備して逆転を防いでいます。
このワンウェイクラッチは回転が高くなると爪が遠心力で引き込まれて引きずり抵抗を下げるというもので、効率が良いです。
〈副変速機〉
THSと変速機を組み合わせて出力特性を広くしたものです。
古くはベルト式CVTを搭載したTHS-Cがあります。
ベルト式CVTについてはこちら。
FR用ではAT(プラネタリ―ギア)を装備して、2~4変速するようにしたものがあります。
ATについてはこちら。
【THSを搭載した他社の車】
トヨタはこのTHSを世に広めたいと考えて、どことでもライセンス供給を行うと発表しました。
しかし、部分的にしか採用されていません。
これは、技術的な競争力を失うリスクを犯したくないのと、特殊なパワートレインのため、パワートレイン以外の部分(ブレーキバイワイヤの導入やバッテリーの置き場所等)車体側の改修も必要になってくるためです。
〈マツダアクセラハイブリッド〉
現行アクセラハイブリッドで採用されています。
マツダは他にもEVでトヨタと技術提携すると発表しています。
EVはトヨタも小型コミューターで実績があります。
マツダもモーターの特性を複数持たせる特許を持っているのと、シリーズハイブリッドの試験車両をいくつも作っているので実績があります。
今後の連携が楽しみです。
〈日産アルティマハイブリッド〉
国内向けには発売しませんでしたが、北米向けに発売していました。
今はスカイラインやフーガなど日産独自のハイブリッドシステム(2クラッチ式)を持っています。
詳しくは下記のノートにまとめてますので見てみてください。
【あとがき】
THSはとてもシンプルで奥深い物ですが、ドライバビリティは今ひとつですね。
初代プリウスではとにかく我慢の強いられる車でしたが、普通の車に昇格し、初代ハリアーハイブリッドではハイパワーを売りにするまでになりました。
しかし現行プリウスに乗ったときに感じたのは、やはりディティールにこだわると不自然さが目立つ車だという感じです。
特にブレーキのフィーリングはまだまだ違和感がありますね。
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