自動車のメカニズム(エンジン編)
【エンジン】
原動機です。自動車はこれが無いと車は始まりません。
乗用車で採用されているエンジンは大きく分けて2つあり、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンがあります。
また構造としてロータリーエンジンとレシプロエンジンがあり、レシプロエンジンに4ストロークエンジンと2ストロークエンジンがあります。
市販車で最も多いのは4ストロークのガソリンレシプロエンジンで、続いて4ストロークのディーゼルレシプロエンジンです。
ロータリーエンジンは最近までマツダが生産していましたがRX-8の終了と共に無くなりました。
2ストロークの乗用車は1980年代までありましたが今はありません。
2ストロークとロータリーのディーゼルは乗用車としては聞いたことがないです。
どのような形式のエンジンであっても吸気→圧縮→爆発→排気のサイクルは変わらず、このサイクルを2ストローク=1往復=1回転で行うのが2ストロークエンジンで、4ストローク=2往復=2回転で行うのが4ストロークエンジンです。
【ガソリンエンジン】
ガソリンエンジンは文字通りガソリンを燃料としており、点火プラグで着火するのを特徴としています。
予めガソリンと空気を混ぜた混合気をシリンダーに吸気して出力の調整は主にスロットルバタフライと呼ばれるバルブを使い、吸い込む空気の量を調節することで行います。
ちょっと前まではアクセルペダルとスロットルバルブはワイヤーで繋がっていて、ペダルを踏むことで空気→混合気の量を操作していました。
現在は電動スロットルになっていて直接は繋がっていないですが考え方は同じです。
【ディーゼルエンジン】
ディーゼルエンジンは軽油を燃料としており、圧縮した時の熱を使って着火します。
燃料は圧縮した時にシリンダー内に噴射するところがガソリンエンジンと大きく違います。
出力の調整は噴射する燃料の量で決まります。
スロットルが無いためポンピングロスが少なく=燃費が良く、予混合気を吸気しないためノッキングが発生しないのでターボチャージャーとの相性が良いです。
圧縮着火のため燃焼温度が高く、NOxが発生しやすいのと気化と着火が同時に行われるためPM(スス)が発生しやすいです。
また振動とノイズが発生しやすく頑丈にする必要があるため同排気量のガソリンエンジンより重いことがほとんどです。
ターボチャージャーの他、ピエゾインジェクターや高圧コモンレールシステムが必要で、NOx還元触媒やPMトラップフィルター等の装置が必要でコストが高いのが難点です。
ディーゼルはタフで頑丈というイメージがありますが最近のディーゼルはハイテクでデリケートな制御がされ補機類も数多く複雑なので昔のイメージとはかけ離れています。
【エンジンの気筒配置】
〈直列〉
カムシャフトが二本で済むため部品点数が他の形式より少なく軽く、構造がシンプルなためメインテナンスがしやすいです。
多気筒化で長くなるため搭載性に問題が出ます。
〈水平対向〉
多気筒化でも長さを抑えられますが横に長いのでロングストローク化が難しいのと吸排気の構成に制約が出来るなど搭載性に問題が出ます。
エンジンの全高が抑えられるので低重心と言われることがありますが搭載位置が高くなることが多く、必ずしも低重心では無いです。
〈V型〉
コンパクトなのが最大のメリットで6気筒以上の乗用車ではデファクトスタンダードです。
挟み角やクランクの設計次第で不等間隔爆発になることがあります。(不等間隔はデメリットばかりでは無いです)
狭角Vでは2バンク分のカムシャフトを共通化出来るため非常にコンパクトかつ軽量に出来ます。
〈多気筒エンジンのメリットデメリット〉
気筒が多いと振動をキャンセルする効果が得られ、6気筒以上で完全バランスが実現できるため高回転に向いています。
また爆発間隔が短くなるためトルクの脈動が少なくなります。
燃料が燃焼するスピードは限界があるので、気筒あたりの排気量が少ないほど高回転に向きます。
気筒が少ないと部品点数が少ないというメリットがあります。
部品点数が少ないと同じ排気量であればエンジンを小さく出来ます。
ピストンリングやカム&バルブ、クランクベアリングなどの摺動面積が小さくなるので摩擦抵抗が小さくなり効率が上がります。
最近はダウンサイジング化が進んできているので気筒数を減らす方向に進んでいます。
排気量は過給器で補い、振動はバランスシャフトを内蔵したりエンジンマウントやトランスミッション側で吸収する仕組みとしています。
【バルブトレイン】
エンジンのシリンダーには混合気を入れたり、燃焼済みの排気ガスを外に出すためのフタがついていて、一般にバルブと呼ばれています。
エンジンには数多くのバルブが使われていますが、「エンジンのバルブ」と言えば十中八九これのことです。
バルブはエンジンの回転に同期して開閉する仕組みを持っており、バルフトレインと呼ばれています。
歴史的にはサイドバルブ(SV)→オーバーヘッドバルブ(OHV)→オーバーヘッドカム(OHC)→ダブルオーバーヘッドカム(DOHC)と変わって来ています。
SV→OHVでは燃焼室形状の最適化に大きく寄与しており、SVは現在の乗用車用のエンジンでの採用例は聞いた事が無いですがOHV以降は現役です。
国内ではほぼDOHC一色ですが、アメリカでは今もOHVが残っています。
OHV以降の流れはカム→バルブ間の機械機構の排除による往復運動する部品の慣性重量の低減による高回転化でしたが、近年では可変バルブタイミング機構が一般化したため吸排気のカムが独立しているDOHCがデファクトスタンダードです。
【可変バルブタイミング】
主にカムの開始タイミングとリフト量の両方もしくは片方を制御によって変える機構です。
低燃費に貢献するコストパフォーマンスが高いことから各社色々出しています。
代表的なものはホンダのVTECです。
機構としては様々ですが、分類分けするとカム切り替え方式、連続可変式の2つに分けられます。
カム切り替え方式方式は複数のカムもっていてロッカーアームで切り替えるのが一般的でVTECがこの方式です。
カムプロファイル自体を切り替えるのでひとつの機構で開閉タイミングとリフト量を両方コントロール出来ます。
連続可変式は開閉タイミングとリフト量変化で大きく機構が別れることが多いです。
開閉タイミング制御はカムシャフトとカムスプロケットを進角or遅角する事で位相変化を行います。主にカムスプロケット内のベーン構造で油圧制御するものが多いです。
リフト量はロッカーアームの支点か作用点を変える事で制御するものが多いです。
BMWのバルブトロニックがこの方式です。
ひとくちにタイミング制御リフト制御といっても狙い所は様々ですので制御機構だけで優劣は付かないです。
【過給器】
エンジンの中に空気をコンプレッサーによって沢山入れる(過給する)仕組みで元々航空機が気圧の低い上空でも充分な吸気が出来るよう開発されたものを自動車に転用しました。
厳密にはスーパーチャージャーが過給器でターボチャージャーは排気タービンを動力源としたスーパーチャージャー(≒タービンチャージャー)の事ですが、スーパーチャージャーでは動力源をエンジンの出力軸から取るものを指すことが多いです。
ターボは排気エネルギーを動力源としており元々捨てていたエネルギーを使っているため効率が良いですが、排気圧が高まるまではコンプレッサーを回すことが出来ないので回りはじめまでパワーが出ません。
スーパーチャージャーはコンプレッサーを回す動力源がエンジンなのでレスポンスよくパワーが出ますが過給のためのエネルギーが抵抗になるので効率が悪いです。
双方とも一長一短なので両方の仕組みを導入したものもあります。
過給器だけではコンプレッサーにより加圧されることで空気が温まりノック限界が低くなってしまうためインタークーラーという気体を冷やす装置と組み合わせて使われるのが一般的です。
【圧縮比とノック限界と点火タイミング】
ガソリンエンジンでは圧縮工程の最後にスパークプラグによる火花で混合気に着火し燃焼させます。
この点火タイミングは圧縮が最もされたタイミング=ピストンが最も上昇したタイミング(これを上死点といいます)が良いのですが、一方燃焼圧が伝わるには燃焼スピードという物理的なタイムラグが存在します。
ですのでピストンが上がりきる少し前に点火を行います。
狙った点火タイミングで点火されれば理想的なタイミングで圧力が伝わりパワーが出るのですが、断熱圧縮により混合気が熱を持つので熱が着火温度に達すると燃料は燃焼してしまいます。
この現象をノッキングと言います。
ノッキングではピストンの圧縮圧力と燃焼圧がぶつかって衝撃波を生みます。
この衝撃波は強力で燃焼室内の弱い部分であるバルブを破壊していまいます。
よくエンジンがガタガタすることをノッキングと言われたりしますが違います。
ノッキングでは衝撃波が燃焼室内を音速で反射するためキンキンといった高い音がきこえます。
ノッキングは圧縮比が高いほど起きやすく、この限界点をノック限界と言います。
【ノッキングの種類】
ノッキングには2種類あり、プレイグニッションとデトネーションと言います。
プレイグニッションはスパークプラグが点火をする前に断熱圧縮による熱で着火してしまう現象で、燃焼室内に付着したカーボンや冷却が不十分になっている状態のスパークプラグが特に高温になり着火点になったりします。
デトネーションはスパークプラグによる燃焼を起点に燃焼室内の不燃部分が自己着火する現象です。
もっとミクロに言うと、燃焼室の燃料は全て燃えきるまでの間、燃えた部分とまだ燃えていない部分が存在しますが、燃えた部分は反応熱により膨張し、燃焼圧という形で周りに圧力を伝えます。
まだ燃焼していない部分も圧力を受けるので圧縮されて熱を持ち自己着火します。
ノッキング直前の点火タイミングが最も効率が良い点なので、今の車両ではノックセンサーが付いておりノッキングが発生したタイミングを記憶し、遅角と進角によるフィードバックを行うことで最適に制御しています。
ノックセンサーはピエゾ圧電素子によって検出しています。
【自動車の燃料について】
自動車には燃料を入れますがガソリンスタンドにはハイオク・レギュラー・軽油があります。
古くはバルブ密閉性のため鉛入りのガソリンが存在していましたが、鉛は環境負荷物質のため現在は無鉛が標準になっています。
ディーゼルエンジンには軽油を、ガソリンエンジンにはハイオクかレギュラーを入れます。
ハイオクとはオクタン価が高い(ハイ)だからハイオクと呼ばれています。
オクタン価というのは自己着火性能の指標値で値が高いほど自己着火しづらい性質なのでハイオクは自己着火しづらい燃料です。
自己着火しづらいと何が良いかというと前述のノッキングが起こりづらいからです。
逆にディーゼルエンジンでは自己着火してくれないと点火しないので自己着火しやすい軽油を使います。
軽油はガソリンの10倍くらい自己着火しやすいです。
圧縮比が高いほどノッキングしやすく、ターボ等で過給を行ってもノッキングは起きやすくなります。
圧縮比は高ければ高いほど良いというわけではないですが、ガソリンエンジンであればノック限界を迎えるまで高くしても良いです。
【ハイオクとレギュラーの入れ間違えについて】
レギュラー仕様のエンジンにハイオクを入れてもノッキングしにくくなるだけで何の問題もないですが、ハイオク仕様のエンジンにレギュラーを入れた場合ノッキングしやすくなるので、点火時期をコントロールしてノッキングしにくく制御がされます。
これはパワーも燃費も悪くなるのでハイオクの方が燃料代が高いからといってレギュラーを入れても節約にはなりません。
稀にハイオク専用にチューニングされたエンジンがあり、レギュラーでの運行は高負荷を与えないようにと説明書に記載されています。
欧州車ではハイオクが指定燃料になっています。
これはヨーロッパのレギュラーガソリンが日本のハイオクとレギュラーの間のオクタン価に設定されているためで、レギュラーを入れるとノッキングしやすくなるためです。
【ガソリンと軽油の入れ間違えについて】
ガソリンエンジンに軽油を入れてしまった場合はノッキングが起こりやすくなりエンジンにダメージを与えます。
反対にディーゼルエンジンにガソリンを入れた場合は、燃焼的には火が付かないくらいですが、燃料流路の潤滑成分が足りなくてこれもエンジンにダメージをを与えます。
かつて硫黄が潤滑成分を担っていましたが、現在の軽油はサルファーフリーになっているので、潤滑成分は添加剤で補ってします。
どちらにせよ入れた途端に燃料流路まですぐ来るわけではなく、順次混ざり送り出されるので入れたからといってすぐに症状が出るわけではないですが、気づいた時点で燃料を抜く必要があります。
【馬力とトルク】
エンジンの性能を表現する際に馬力とトルクが使われます。
良くエンジンのスペックで良く下記のように書かれます。
610ps(8250rpm)
57.1kgm(6500rpm)
これは最大出力発生回転数と最大トルク発生回転数を示します。
610psが馬力のことで1ps=1馬力が馬一頭分という意味なのでこの場合610頭分の能力を持っている事になります。凄いですね。
横についている数字はその出力が得られる回転数でrpmは1分間に何回転するかという意味で、8250rpmであれば1分間に8250回転するということです。
このエンジンが最も馬力を出すのは8250rpmという意味になります。
【馬力とトルクの力学的意味】
力学的には馬力は仕事率になります。
仕事率というのは、一定時間あたりの仕事量になります。
仕事というのは力学的にはエネルギーのことで有名な単位としてはジュールや重量kgmやワット。馬力だと重量kgmがイメージつきやすいかと思います。
一方トルクは初めから力学的な単位で軸周りの力になります。
回ってなくても力は掛かっているので、仕事と違って移動を伴わなくてもトルクは発生します。
単位はN・mもしくはkg・mで表現されます。
57.1kgm(6500rpm)と書いてある場合は最大トルクが57.1kgmでその時の回転数が6500rpmという意味です。
馬力とトルクには相関があり、単位を無視すると馬力=トルク×回転数という関係になっています。
意味的には以上ですが、次は数値からどんなエンジンなのかを読み解いてみたいと思います。
【カタログスペックからのエンジン性能の読み方】
乗用車のエンジンというのは大体アイドリング回転数が700rpmで最高回転数が高くても10000rpm未満です。
この中で最大出力の回転数が高いということは高回転で力を発揮するエンジンだということがわかります。
ただ、低回転を犠牲にして高回転で力を出しているのか、低回転から高回転まで力が出るのかが読み取れません。
そこで登場するのがトルクです。
最大トルクの発生回転数が低いほど低回転から力が出ることを示します。
ここから最大トルク発生回転数〜最大出力発生回転数の間が広いほどトルクバンドの広い使いやすいエンジンだと読み取ることができます。
例に出したエンジンの場合は元々排気量に余裕があるので低回転の性能をある程度犠牲にしても実用上困らないので、高回転のパワーを追求してハイパワーエンジンの魅力を表現することを狙ったものではないかと思われます。
【馬力曲線とトルク曲線】
先ほどの読み方では最大値よりも少しでも低いところの値は全て考慮の対象外となってしまいます。
これを見るには馬力曲線、トルク曲線のグラフを見るのが良いです。
横軸が回転数で馬力とトルクが同じグラフに描かれているものが多いです。
片方しかなくても回転数から換算出来ます。
曲線の形を見るとどの辺りの領域に力を発揮するかイメージできますが、縦軸の数値をよくよく確認しないと見誤ります。
特にトルクはフラットトルクが使いやすいのでフラットに描かれることが多いですが、よく見ると目盛りの幅が狭めてあったりします。
馬力曲線・トルク曲線自体も最大負荷をかけた時の釣り合いが取れた最大値を繋げてプロットしたものなので、通常の運転であるアクセルペダル開度が中間の時や、そこから踏み増したときの特性とは違います。
あくまで大雑把なエンジンの性格です。
トルクの上限はNAであれば大体排気量1リッターあたり10kgm程度、馬力は大体排気量1リッターあたり100馬力程度が上限値です。
過給器付きであればそれぞれの数値に加給圧をかける事で大体算出できます。
【EGR(exhaust gas recirculation)】
排気ガス再循環制御システムです。
昨今のエンジン制御ではガソリン・ディーゼル問わず欠かせ無い技術となっています。
エンジンの排気ガスは基本的に燃焼後のガスのため燃料と酸素はほとんど含まれていません。(不活性ガスとも言われます)
これを吸気工程に入れてやると燃焼温度が低下します。その結果NOxが減ります。
NOxは排気ガスの中でも還元しづらい成分で、触媒は尿素水噴射装置など特殊な機構が必要ですがその機構の割合を減らすことができます。
また、ガソリンエンジンではスロットルで絞って流入吸気量を制限し、理論空燃比の近傍に相当する量のガソリンを噴射して燃焼しますが、流入吸気量を制限するためには気圧を減らさなくてはならず、気圧を下げるためにピストンは空気を強く引っ張らなければならないためロスが発生します。
ここに不活性ガスを混ぜることによりピストン負荷を減らすことができ、燃費が良くなります。
【吸排気】
エンジンは空気を吸って排気ガスを出す気体を媒介とした熱力学装置ですので、吸気と排気をうまく行わないと燃費も悪くなり、パワーも出ません。
気体は粘るし伸び縮みが効き伸びれば温度が低くなり、縮めば熱くなります。
また質量を持っていて移動すると慣性が働きます。
吸排気を変えると特性が変わり、基本的に太くて短いものに変えると高回転よりの特性になります。
逆に長くて細いものに変えると低回転よりになります。
理由は菅が細くて長いと気体の慣性でエンジンのピストンを助けることができるためですが、回転数が高いと流量の絶対量が増えて逆に抵抗になります。
菅が太くて短いと気体の慣性が働きにくくなりますが流量の上限が増えます。
マフラーを太いものに変えると馬力が上がるのは特性が高回転よりの特性になるからです。
高回転でトルクが増すと馬力が増えます。
※馬力とトルクの力学的意味の項参照
マフラーを太くすることでトルクが細くなると言われたりしますが、実際には最大トルクが減っているわけではなく、低回転でトルクが出ないのをトルクが細いと表現されているだけです。
【馬力と燃費】
馬力のあるエンジンは燃費が悪いというイメージがありますが、燃費を良くしようとしたら少ない燃料からパワーを引き出す必要がありパワーを追求するからこそ燃費が良くなります。
ただし、馬力=トルク×回転数なので、トルクの方ではなく、回転数の方をあげるとその分だけフリクション(摺動抵抗)を生みます。
トルクの方はというと過給した場合は燃料がその分だけ多く投下されるので燃費は悪くなります。
過給器自体を配置する際の吸排気の不自由さや過給器を動かすための動力源も必要なためその分をトルクアップで取り返すのも難しいです。
なので出来るだけ同じ燃料で大きいトルクを出すかが燃費には重要です。
【低回転特性と高回転特性】
馬力が高いことは高回転での力があるだけで低速域は逆に犠牲になることが多いです。
昔はエンジンの性能指標として馬力と高回転化というのが注目されてきました。
おそらくは競技用車両に搭載されているエンジンに近い方がエライという理由や、エンジンの音が高い方が好きだとかいう理由だと思います。
最近は馬力より効率(燃費)が重要視されています。
エンジンという原動機は熱力学装置で吸排気系を中心に可変にすることで幅広い特性を持たせることが出来るようになってきましたが、どうしても機械的に固定のプロファイル(ボア・ストローク等)があり、必ずしも使われない高回転域より必ず使われる低回転域の特性向上にシフトするのは当然です。
燃費の他にも各国の有毒な排気ガス成分の排出規制が強化されてきているので、対応に追われています。
エンジンの開発コストは上昇を続け今や1つのメーカーの枠を飛び越えようとしています。
昔はスポーツカーも専用のエンジンを起こしていましたが今は上記の理由で難しくなってきています。
【熱効率】
最近燃費に関しての市場ニーズやメーカー間の競争が益々盛り上がっているせいか、熱効率という古典的な単語を良く見ます。
熱効率はある熱力学機関に加えた熱に対してどれだけの力を発揮するのかという指標です。
与えた熱もエネルギーで、力もエネルギーなので単位を統一すれば比較できるので比率という形で表現しています。
発生した力÷与えた熱量=熱効率[%]
という形で表現されます。
以前はガソリンエンジンの熱効率は30%と言われていましたが、小さな改良に次ぐ改良を積み重ね、新型プリウスでは最大40%をマークしています。
残りの最大40%が力の発揮だとして、残りの60%はどこに行ったかというと、排気損失、冷却損失、吸気抵抗、摺動抵抗に消えていきます。
かつてのエンジンは排気損失だけで35%、冷却損失だけで30%と大きな割合を占めています。
排気損失の低減にはミラーサイクルがよく使われ、新型プリウスでは冷却損失低減のためのウォータージャケットスペーサーを導入しています。
【ミラーサイクル】
ミラーサイクル(アトキンソンサイクルとも言う)は高膨張比サイクルエンジンのことです。
普通はピストン・シリンダー・コンロッド・クランクからなるエンジンはクランクの長さが変わらないのでピストンの往復する距離は固定です。
なのでピストンが持ち上がる圧縮工程とピストンが下がる膨張(燃焼or爆発)工程の容積変化は同じです。
マフラーからは熱い排気ガスが出たり、タービンを回すほどの熱エネルギーがまだ残っている状態で外に逃がしてしまっています。
これではエネルギーを捨ててしまってもったい無いので、膨張工程を長く取ることで熱エネルギーからできるだけ多くの運動エネルギーを取り出そうと考えられた仕組みです。
実現方法は「クランクの長さを変える」というのがシンプルですが、力を受け高速で回転する部分なのでなかなかうまくいきません。
複雑なリンク構造を用いた仕組みも考案されてはいますが、現実的ではありません。
現実解として吸気バルブ開閉時間を変えて見かけ上の圧縮工程を少なくすることで実現しています。
マツダがミレーニアという車に搭載し、それ以降各社採用しています。
【直噴エンジン】
自動車用の直噴エンジンは20年くらい前に三菱のGDIが先鞭を付けました。
今までポート噴射が主流で直噴が中々広まらなかったかというと、コストも大きいですが、主に排ガス性能が満たせなくなってきたからというのが最も大きな理由です。
直噴はディーゼルエンジンに近く、NOxとPMが出やすく、この成分の洗浄が困難でした。
触媒や燃焼解析、混合気の成分分布解析、インジェクターやコモンレール等のディーゼルエンジンからの技術のフィードバックがあり復活を果たしました。
今ではフォルクスワーゲンのTSIを皮切りにターボと組み合わせてダウンサイジングエンジンの立役者の1つになっています。
【あとがき】
エンジンにまつわる概要をさらっとまとめました。
詳しくはまた別のノートにまとめたいと思います。
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