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革命のない大富豪

失業を恐れて保守的に

 大富豪というトランプゲームがある。建設現場の昼休みや、週末の打ち上げなどで、仲間と盛り上がる定番のギャンブルだ。大富豪はゲームごとのあがる順番で順位が決まる。最下位の者は、次のゲームを始める前に勝者に有利なカードを渡し、その代わりに不要なカードを受け取る。強い者はより強くなり、弱い者はより弱くなるルールが、このゲームの醍醐味のひとつである。
 
 しかし格差が拡がるだけでは盛り上がりに欠けるので、このゲームには革命というルールもある。特定のカードがそろえば、カードの強弱がすべて反転するルールが革命だ。それによって格差はひっくり返る。

 調査でお世話になっている沖縄のヤンキー、建設業の若者たちが楽しむ大富豪には、革命のルールが設定されないことが多かった。彼らは大富豪に革命があることを知っているが「つまらない」と言い、革命のない大富豪を楽しんでいた。特に参加者数の多い時は交換するカードを二枚に増やし、革命なしルールが盛り上がるのだという。自身の能力と運だけで、格差をのし上がる。そしていったんトップをとれば、その後は弱い者からとり続けることは正当化される。格差を固定化し拡大させる仕組みはそのゲームの参加者によって認められていた。
 
 こじつけかもしれないが、このローカルルールは沖縄の建設業の現実と大きく重なってみえる。「いろいろ言われてもよ、稼いだもん勝ちだばーよ。(社長は)相当儲けてるはずよ」とある従業員は語る。建設業の従業員が社長に待遇面に関して異議申立てを行うことはほとんどない。むしろ、後輩たちを引き連れて利益をあげる社長の姿には尊敬のまなざしさえあり、そのような地位にたつことをみんなひそかに狙っている。

 本土の大手ゼネコンの下請けを担う沖縄の建設業は、不安定であることが常態化してきた。よってたとえ社長となっても倒産して地元から逃亡したり、破産して給与未払いとなる建設会社が少なくない。そのため、長く存続して継続的に給与を支払う会社が従業員からは高く評価されていた。このことを軽く考えてはならない。

 このように失業と隣り合わせの世界を生きる従業員に革命は遠い出来事だった。失業という今の生活の形を失う恐怖を感じる人たちにとって、そのような生活を支える仕組みそのものをひっくり返したり、批判的に問い改善することは求められていない。
 
 現存する仕組みが格差を拡大させる不公平なものであっても、失業する恐怖にある人びとがその仕組みやそれによってまわっている生活やその仕組みを守ろうとするのは当然の帰結である。

 失業の恐れを感じながら生きる彼らは不公平な現実を劇的に変えることより、その現実を守ろうとする。革命のない大富豪から、彼らが保守的に生きるわけがみえてくる。沖縄社会を確かに支える建設業に従事する人びとの生活を守り、その生き方を尊重する施策が求められる。

■打越正行,2020年2月15日,「失業を恐れて保守的に――革命のない大富豪」『沖縄タイムス「うちなぁ見聞録(220号)」』(2020.2.15 朝刊)

※ 一部修正。

【打越正行の研究室】
https://blog.goo.ne.jp/uchikoshimasayuki



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