【ちよしこリレー小説】青い夏 第八話
第八話 密かな目標達成
「っっはぁ〜〜〜〜〜〜。どうすっかな〜〜〜〜〜。」
「え、なに、明日のこと??なにに迷ってんの?」
火曜日の放課後、蒼は塾で玉やんと合流し、明日の図書館デートについて話していた。
「いや〜なんかさ、一緒に勉強しない?って誘ったけど、ほんとに2人とも勉強しちゃったら全然喋れないじゃん?どうすんのよって思って。」
「ほんっっとお前は疎いよな〜。その流れで真面目に2人でそれぞれ勉強する奴がいるかよ!苦手な教科とか聞いといてお前が教えるとか、向こうの好きな小説の話とかしつつ次出かける予定について相談するとか、なんでもあんだろ。あ、ちなみに最初から隣とか座んなよ?」
玉やんから次々と繰り出される案に、蒼は明日だけでいいからこいつになりたい、と思ったのは言うまでもない。
「さすがにいきなり隣は俺だって座んないって!でも図書館デートなんかしたことないし、マジでわからん。」
「まぁお前は体育会系だからな(笑)。とりあえず目標決めとけ。なんか新しい情報ゲットするか、次の約束とりつけるか、呼び捨てにこぎつけるか。まぁなんでもいいからこれだけは絶対やるってやつ決めてけよ。」
意外、でもないが、玉やんからの言葉はなかなかいいアドバイスだと感じた。あれこれやりすぎず、何か1つ達成できれば良しとしよう、と早速心に決めた。
あーでもないこーでもないと盛り上がっているうちに塾の講義も終わり、蒼は1人帰宅の途についた。先程の決心は変わっていなかったものの、図書館で何をするのかについては結局これといった結論が出ていなかった。だが、いつもの「なんとかなる」精神で未計画をねじ伏せた。
※※※
「また明日どうだったか聞かせてね!」
「楽しんでね〜!」
詩織としのぶからの応援メッセージを背に受けて学校を後にし、葵は図書館に向かった。
いつもの場所に座り、到着と現在地について蒼に報告メッセージを送った。
すると蒼からはすぐに返信があった。まもなく到着するとの内容だったため、途端に脈が速くなった。
どうしよう…。何話せばいいの?!ていうか勉強もどうしよう…。
ひとまず10月の中間テストに向けてという名目で苦手分野の教科書は持参したものの、明確な進路がまだ決まっていない葵は、蒼の受験勉強にどう付き合えばいいのかわからなかった。
「お疲れ〜!あー子の方が早かったね!」
「あ、アオくんお疲れ様!私も今さっき来たところだったから全然大丈夫だよ!」
返事の通りすぐにやってきた蒼は、葵の目の前にドサっと座りながら荷物を下ろし、続けた。
「今日なんだけどさ、お互い苦手なところを確認して教えあいながら勉強しようかなと思うんだけどどう??あー子は数学だっけ?」
「うん、いいよ!ていうかありがとう!アオくんは赤本とかの勉強するのかなって思ってたから私1人で何しようか考えてたところだった!(笑)
そうなの、私ほんっっとに数学苦手で…。アオくんは?苦手な教科ってあるの?」
蒼が受験勉強ではなく互いに教え合おうと言ってくれたことが嬉しく、葵は自分の声が一気に弾んだのに気付き少し恥ずかしくなったが、そのまま勢いで話を繋げた。
「俺は英語かな〜。もしよければ俺があー子に数学教えるから、あー子が俺に英語教えてくれない??」
「私でよければ、もちろん!」
「で、今日は俺が教わる方で、次回は俺が教える番ってことで!」
図書館で落ち合ってからまだ数分だったが、早くも次回があることがわかって葵の顔は自然とほころんでいた。
※※※
一通り葵から英語を教わった蒼は、葵の教え方のうまさに感動した。
玉やんのアドバイスを参考に交互に勉強を教えることにしたが、思いがけず良い勉強パートナーを見つけられただけでなく、自然と次の予定を作れたことに、我ながら名案だった、と自画自賛した。
「帰りにちょっとコンビニ寄ってかない?あー子の家の近くのとこ。」
「あ、うん!私もちょうどアイスコーヒーが飲みたいと思ってたから嬉しい!」
コンビニに寄るという口実で葵の家までさりげなく送る作戦だった。
葵の性格を考えると、ストレートに「家まで送る」と言っても遠慮して断られてしまうかもしれないと考えたからだった。
買い物を済ませたあと、蒼の思惑通り2人は葵の家に向かって歩いていた。
「あー子、人に勉強教えるのすごい上手いね!今までよくわかんなかったとこが一気にスーッと頭に入ってきて感動した!」
「え、ほんと?!ありがとう!そう言ってもらえると嬉しいな〜!でもアオくんのおかげで私も数学できそうな気がしてきたよ!」
互いに褒め合いながら、葵が以前までの学校でも得意教科を人に教えていたことがあると聞いて納得しつつ、その頃の葵はどんな姿だったんだろうかと蒼は頭の中で想像を巡らせた。
「アオくん、部活もあるのに勉強も頑張っててほんとすごいな〜。尊敬!」
「自分が言い出したこととかやり始めたことはやるっていうのが親との約束事でさ。だからそんな大したことでもないんだけどね。あ、話変わるけど今度さ、部活の試合があるんだけど、もし都合よければCCレモンと一緒に観に来てよ!」
「そうなんだ!でもそれ私が行っていいの…?!」
「うん、今回のは公開試合だし他の奴らも来ると思うからよかったら!」
蒼の予想通り、葵からは控えめな返答が返ってきたが、前向きな様子が見られて嬉しかった。
「明日2人にも話してみるね!あ、じゃあうちここだからこの辺で。送ってくれてありがとう!」
「じゃあ、試合のことと次の勉強の日はまた連絡する!」
葵は「また明日」と小さく手を振り、足早にマンションに入って行った。
蒼はその様子を見ながら、図書館から今に至るまでのことを思い返し、玉やんが言っていた「新しい情報をゲットする」と「次の約束をとりつける」のどちらも達成したことに気づいた。
結構うまくいったんじゃね?!
玉やんのツッコミを想定し、提示された2つの目標を達成できたことをドヤる自分を想像しながら帰宅した蒼だった。
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