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与那国滞在記-3

与那国滞在2日目にして西半分を踏破したわたくし、ならば次は東半分をと欲が出てまいりました。
当初は徒歩で周る気などさらさらありませんでしたが、元々知らない土地を歩くのは好きであった上、何しろ人がいない空間が思いがけず心地良かったのです。
集落から出てしまえば歩いている人の姿はほぼなく、長く続く一本道の前を見ても後ろを振り返っても路上に立つのは自分ひとり、道の両脇にはわさわさ茂る濃い緑に囲まれている環境というのはわたしにとって非日常なものでした。
西半分の方が距離が長いからな、まあ昨日よりは楽だろう・・・などと思いながら宿を出て東へ歩き始めます。
街中の(おそらく唯一の)パン屋さんでカレーパンとクリームパンを調達し、まずは東崎を目指しました。
道端にででんと鎮座するでかいお墓を通過し、大勢の山羊に見つめられ、いい感じの内陸一本道を通過し。
歩いているだけでも楽しいのです。


しかし歩き始めてすぐに思い知ります。距離が短いから楽などという考えは甘かったのだと。
距離こそ短いものの、東半分の方が高低差が大きいのです。
東崎までもそんなに遠くはありませんが、緩やかな上り坂を経て辿り着いたときには少々の達成感を感じました。
東崎手前にはテキサスゲートがあり、それを越えると路上にはたくさんの馬糞、進んで行けばそれらを落としたのであろう黒い牛や与那国馬を見ることが出来ます。
人間以外の生き物がたくさんいる環境、とても良いです。
むしろ人間しかいない環境の方が不自然なのでは、などと思えてきます。
東崎も特に崖っぷちに柵など設けられていないので、まあまあギリギリのところによっこらせと腰を下ろしてパンをぱくついたのでした。
あれ以上の絶景を見ながらパンを頂くこと、今後あるかどうか分かりません。
腹ごしらえののち来た道を戻っていくと、分かれ道の先遥か下の方に駐車場と公衆トイレが見えます。
どうやらそこまで降りたら浜にも行けそうだな。しかしあそこまで降りたらまたここまで上がってくんのダルイな。
3秒程の葛藤の後、降りることに決めました。急な坂道をしばらく下るとそこには駐車場、そしてぼこぼこの岩をえっちらおっちら越えると上から見ても美しかった浜に出ることが出来ました。
ここの岩場が面白くて、水たまりにヒトデやら蟹やら小さな生き物たちが生息していて、けっこうな時間を費やしてしまいました。
は、先に進まねば。と我に返り、下ってきた急斜面を(つら・・・)と思いながら再び上がり、南の道を進んで行きます。

島の南東部を走る道もまあまあな高低差があります。
先が見通せるところで下り→上りが続いている道を見ると(あぁ・・・ここ下りたくないな・・・)などと思いますが、下らないことには進めないのでしぶしぶ下ってまいりました。そして当然、下った後には上るのだ。
内陸部の柵の中にまたも馬3頭を発見してしばしガンを飛ばしあったり、放置された不思議な廃棄物と5秒ほど向き合ったりしつつ歩き続けます。
馬3頭のうち1頭は喉が痒かったのか、首を微妙に左右に揺らしながら柵から飛び出た針金の先端に喉を押し付けて擦るので、刺さりやしないかとヒヤヒヤしました。
引き続き歩いて歩いて歩き続け、軍艦岩展望台と立神岩展望台でしばしの休憩を取った後、比川までは到達することなく南から北へ突っ切る道を選んで歩き続け、疲れ果ててもうすぐ祖納の集落というところにかき氷屋さん発見、マンゴーのかき氷を頂いてから宿へ帰り着いたのでした。

そして陸を歩く日が続いたその翌日は、ついに水に入ることに致しました。
体験ダイビングを次の日に控えていたので、その準備運動も兼ねて港の中でシュノーケリングをしようと目論んだのです。
宿では無料でシュノーケルの道具を借りることが出来たので、断りを入れて一組お借りしました。
まったくの初体験なので、石橋を叩いて渡る性質のわたくしは決して無理のないよう祖納の港の中に留まることとしていざ水中へ向かいます。
同室の女の子(スキューバダイビングのインストラクター)から「港の中だけでもけっこう魚いますよ~、橋の左端にはクマノミもいる」「壁に沿って進むといいです」と教えてもらっていたので、水中メガネと息をするやつを装着しカメラ片手にいざ水の中へ。
何年ぶりかも分からない海の中、ちょっとドキドキしながら水に顔を沈めるとそこには美しすぎる世界が広がっていました。
水かさが腰までにも至らないような白砂の浅瀬、ちょっと驚きの美しさ。
(おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・!)と心動かされながら橋の下に移動すればそこにも悠々と泳ぐ魚の姿がありました。
港の外に出ることはしませんでしたが、それでもやはり押しては引いてゆく波の影響は少なからずあるので、初心者は壁際に沿って進むということかなり大事だと思います。

しばらくちゃぷちゃぷやった後、いったん宿に戻って着替えてからまたも散策に出ます。
今度は祖納から比川へ突っ切るルート踏破を目標に出発しました。
この頃にはおそらく、自転車を借りようという気はなくなり始めていたような気がします。歩き、楽しいので。
前々日に訪れたティンダハナタ、手前の分かれ道を左に進むとその先の頂上へ行かれるらしいということが分かっていたので、手始めにそちらを目指します。
ここへ向かう道もまた良かった。陸へ上がった船や朽ちた自動車、手押し車に根を下ろす植物など、なんなのこれは・・・とうっとりしてしまう美しいものたちが溢れていました。
頂上付近でそれまでの舗装された道から草ボーボーの原っぱへと様相が変わり、膝下くらいの草をかき分けかき分け進んで行くと黒く大きな牛たちが座ってこちらを見つめていました。
何もしませんのでちょっと横通らしてくださいな・・・と呟きながら彼らの横を通り、ついに頂上に到達です。
そこからの眺望はまた見事なもので、東には祖納の集落、西には空港や北牧場が広がっていました。
しばし牛の横でのんびりした後、南へ向かって歩き始めます。
てくてくとしばらく進んでゆくと、小さな看板が立っていました。そこには「ツイヌトウニ」という謎の言葉と矢印が示されています。
ツイヌトウニとは・・・?と気になったので寄り道してみることにしました。
横道を入りずんずん進み、服にひっついてくる厄介な植物を避けつつ歩き続けると「ツイヌトウニ」に到着しました。
ちょっと大きな木に「ツイヌトウニ」の看板が立てかけてあり、奥には草ボーボーの中に崩れた石垣跡らしきものがありました。
果たして「ツイヌトウニ」とはこの木を指すのか、それともこの場所を指すのか。何なのか分からぬままに、その場を後にしました。
もし「ツイヌトウニ」をご存じの方がいらしたら、是非教えてください。
牛とガンを飛ばし合ったりなどしつつ南下して2日ぶりの比川へ、共同売店でご飯を調達して浜で頂きました。
あそこはヤドカリはたくさんいるし人は全然いないし、とっても良いです。
しばしヤドカリを観察した後、初めての路線バスを利用して祖納へ帰ることにしたのでした。
この路線バス(「路線バス代行車」という案内を掲げたワゴン車)、本数は少ないものの無料な上に時間に正確なのでかなり良いです。
例えば一日で島を巡るのに使おうとするとバスの時間に合わせたスケジュールを組まないといけないので難しいかもしれませんが、集落間の急ぎでない単純移動にはかなり役に立つと思われます。
バス停の場所を共同売店駐車場に停まっていた軽トラのおじさんに確認、バスが来るまで猫に相手をしてもらうなどしたのち、ぐるりと久部良を回って祖納に帰ったのでした。

この翌日はいよいよスキューバダイビング初体験、予想だにしなかった事態に見舞われたのでした。
4につづく

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