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16年ぶりのアルバイト

2024年4月28日、アルバイトを始めた。
最後にバイトをしたのは27歳の時。
今が43歳なので、実に16年ぶりのバイトということになる。
30歳で構成作家という仕事を始めて、わりかし順調だった気がする。
さらなる成功を求め、3年前に少しの貯金と沢山の夢をカバンに詰め込んで大阪から上京してきた。
40歳での上京。
普通こういう場合、何かアテがあって上京するもんだろう。
10代ならまだしも40代。
アテがないなら足を踏み入れたら駄目な街。
それが東京。
しかし当時の僕は成功する未来しか見えておらず、本当に軽い気持ちで上京してきた。
今思えば、狂気の沙汰。

どうにかなる。
こう言って今まで実際にどうにかなってきたもんだからタチが悪い。
今回は結果からいうと、どうにもならなかった。
いや、現時点ではどうにもなっていないだけ、と思いたい。
どちらにせよ、バイトをしているのは事実だ。
43歳、厄年終わりたてほやほやのおじさんが構成作家とバイトのかけもち。
良く言えば、構成作家とバイトの二刀流。
大谷翔平もまさか二刀流がこんな使われ方するとは思ってもみなかっただろう。
これが二刀流なら夢を追っている人間はほとんど二刀流、つまりみんな大谷翔平である。

16年ぶりのバイトは驚きの連続だった。まず時給が16年前とは全然違う。
もちろん大阪と東京で最低賃金が違うのもあるだろう。
とはいえ、そんな理由じゃ片付けられないくらい時給が高い。
気になってちょっと調べてみた。
2024年現在の東京の最低賃金が時給1113円。
16年前、2008年の東京の最低賃金が時給766円。
ほら、めっちゃ上がってる。
ちなみに僕が16年前、最後にバイトをしていたのが大手チェーンの居酒屋だ。
この頃は社会の歯車になるのが嫌で、一刻も早く自分の力だけでお金を稼ぎたいと思っていた。
16年後、僕は歯車にさえなれていなかった。
回っても回らなくても全く影響のない箇所で、どの歯車とも嚙み合わない状態でクルクル回っている。
僕が回ろうが止まろうが、社会は回り続けるし、そもそも本当に回っていたのかさえ今となってはわからない。
上京してからの3年間は、歯車になる難しさを実感する時間でもあった。

今回は自ら進んで社会の歯車になるべく、バイトを始めた。
バイトをしたところで歯車になれるかはわからないが、部屋の掃除をしているとたまにソファーの隙間とかから出てくる「これ、どこの何の部品?」っていうような小さなネジくらいにはなれていると思いたい。
しかしこの年になるとバイトの面接が全く通らない。
実際、今のバイトが決まるまで3つほど落ちた。
20代の頃はバイトに応募して落ちたことなんてなかった。
あんなのは形式上のもので全員受かるものだと思っていた。
だって企業からしたら、人手が足りないから高いお金を出してバイト募集の広告を打っているわけで。
その人手が足りなくて困ってる所にシフトガンガンが入れる人手がわざわざ出向いて面接行ってるから落ちるわけないやん、と。
結論から言いましょう。
余裕で落ちます。
年下の店長に面接されて落とされます。
夢を追っている若者は頭の片隅に置いといてください。

そうしてようやく決まったのがファミレスのデリバリーのバイト。
誰もが一度は街中で走るデリバリーのバイクを見かけたことがあるだろう。
三輪バイクの後ろに大きなボックスを積んでるアレである。
出前館などを通じて注文が入ると、その料理をバイクに載せて、お客さんの自宅まで届ける。
似たような形態で「Uber Eats(ウーバーイーツ)」や「Wolt(ウォルト)」などもあるが、それとはまた違う。
あちらはウーバーを経由して配達をしているので、いわゆる個人事業主扱いだ。
配達をする対象のお店はウーバーと契約している店全てなので、色んな店舗の料理を運ぶ。
お客さんがウーバーのアプリを通して注文すると、配達員は商品を提供する店まで受け取りに行き、それをお客さんの指定した場所まで運ぶ。
一方、僕はファミレスの店舗に所属しているので、その店に入った注文しか届けない。
僕の店舗にウーバーを介して注文が入ることもあるが、その場合は店内で調理したものを袋詰めして、受け取りに来たウーバー配達員に渡す。
なのでウーバーで注文が入った場合は心の中で小さくガッツポーズをする。
僕らは時給なのでいくつ配達しても給料は変わらない。
ウーバー配達員は歩合給なので配達した分だけ給料が入る。
つまりウーバーで注文が入れば、僕とウーバー配達員は完全にウィンウィンの関係。

ウーバー配達員は時給で雇われているわけではないので、いつ休憩してもいいし、タバコを吸いながらバイクを運転してもいい。(いいかはわからないがよく見かける)
僕たちはもちろんダメ。
衛生面でも出勤毎に厳しいチェックが入るし、手洗いや消毒に結構な時間をかける。
バイクを運転するのでアルコールチェックもする。
分かりやすく言うと、僕たちが公立高校で、ウーバーは私立高校みたいな感じだ。
校則の厳しい公立高校の僕たちは、私服で登校する私立ウーバー学園の自由な校則に憧れ、少しだけライバル心を抱いている。
たまに公立から私立に転校するケースもあるらしいが、私立から公立に転校したという話は聞いたことがない。
一度自由を手に入れると、その自由を手放したくなくなるのだろう。

働き始めて1か月もすると大分仕事にも慣れてくる。
最初は仕事を覚えることに必死だが、慣れてくるとバイトをしながら自分だけの楽しみを見つけようと考える。
僕の場合、料理を届けるマンション名で外観を予想するという楽しみ方を取り入れた。
お客さんから配達の注文が入ると、「名前」「注文した料理」「住所」「電話番号」が書かれたレシートのような紙が店舗の機械から出てくる。
そのレシートを見てキッチンが料理を作り、出来上がった料理を配達員が梱包して、書かれてある住所に配達する。
その段階で住所の欄に書かれてあるマンション名を見て、どんなマンションかを予想するのだ。
予想といっても誰かと勝負しているわけではない。
自分の中で想像して、実際のマンションとの違いを楽しむというものだ。
ただ、この遊びが出来るのは働き始めて1か月が限界。
というのも、注文してくる人の8割以上がリピーターなので、過去に行ったことのあるマンションばかりになってくるのだ。
それでも最初のうちは、これで時間を忘れて楽しむことが出来た。

日々予想をしていると、マンション名にある共通点があることに気付いた。
マンション名に特定の単語が入っているかどうかで、マンションの大きさや家賃が大体わかるようになってくるのだ。
例えば、「レジデンス」や「シティ」という言葉が入っているマンションはタワマンだったり高級物件であることが多い。
もちろん中には「どこがレジデンスやねん」と思うような建物もあるが、そこは確率の問題だ。

逆に「ヒルズ」という単語が入ったマンションは要注意だ。
パッと聞いた感じ、六本木ヒルズのイメージが強いからか高級マンションをイメージするが、実際には築年数が古くボロボロの建物の可能性が高い。
マンションというより、もはやアパートと呼ぶ方がしっくりくるような外観。
恐らく、元々は「○○荘」「○○コーポ」みたいな名前だったのを、大家さんの一存で「○○ヒルズ」としたのだと思う。
もしくは不動産会社から「○○荘なんて名前じゃ誰も住みたいと思わないっすよ」と唆されたか。
その結果、完全に築80年木造アパートみたいな外観で「ヒルズ」を名乗ることになってしまったのだ。
まるで85歳のおばあちゃんの名前が「姫奈」のような、どこがやねん感。

こういうヒルズ系アパートはほぼほぼエレベーターがついていない。
その場合、階段を上って届けるしかない。
2階ならまだ許せるが、4階や5階に階段で届けないといけない場合もある。
両手に料理を持って階段で5階まで上がると、軽い山登りくらい体力を使う。
まさかそういう意味のヒルズなのか?
そこまで計算したうえでのネーミングなら大家さんを褒めるしかない。
もしくは「ヘル(地獄)」が語源なのか。
真相は定かではないが、ヒルズが色んな意味で危険ということは覚えておいてほしい。

最後になったが、個人的デリバリーあるある1位を発表しよう。
『仕事が終わり、原付バイクを店舗から100mほど離れた車庫に止め、フルフェイスのヘルメットを小脇に抱え店まで戻っている時に、アルマゲドンの曲を口ずさむ。』
これだ。
異論は認めない。

これからもデリバリーバイトのことを定期的にこちらに綴るので、今後ともよろしく。

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