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アンダンテ

近ければ近いほど、薄っぺらい表現になってしまう
ぼうっと顔をしかめる、瞳が落ちて脱力
まあしょうがのないことなのだけれど


若い頃はよく空想を宙に書き出しては消して
何度も読んで直して


夏、その夏に


わたしはというと
あの夏の終わりになにがあったかなんてとっくのとうに忘れちゃって
その淡い景色の想い出は
さざなみにのまれてゆく古瓶のようにして
記憶の果てへと消えていった

しつこく覚えているのはどこかのだれかのなかだけで
勝手に都合良く書き換えられているのだろう

固有名詞は関係ないのだけれど
時間の経ち方だけは
何故だか感覚が記憶している
夕暮れは朱と白と蒼
陽が落ちて、ざわりと風が身体を撫でた
生ぬるい、普段だと気持ち悪いのに
何故だかそれが心地良かったみたい

きっとこんな日には
しゅわしゅわのレモンソーダがお似合いで
たぶん酸っぱいだろうなあ、とか
微炭酸でもキツく感じるだろうな、とか
ローズマリーとミントを雑に束ねたブーケは薄汚れたレースで結んで、左手に忘れないように


わたしの想い出は
都合の良いシーンだけを集めて繫げて
上手にハマらないとこがあったらちょうど良いものを作って
ほら、さっきのレモンソーダのくだりみたいにさ
そうやってひみつのノートに書き溜めて
わすれたころに読み返して 景色が浮かぶように

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