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[KZの相談箱 4つ目] 仕事の取り合いってしんどくない?

KZさん、こんにちは
私はラップではないけど「MC」と名の付く仕事をしています。言葉でお客さんを盛り上げるお仕事です。
界隈には同じMCたちがたくさんいて、個性を光らせ自らを磨き、仕事や人気の取り合いのようになる事もあります。
私個人は自分の仕事に誇りを持ってるし、自信もあるし、それなりの個性やスキルを持っているつもりです。日々できる範囲で自分を磨いているつもりでもあります。
それでも時々戦いが辛くてしんどくて、自分らしさが分からなくなって呻くしか無い時があります。
第一線で活躍しているKZさんはそんな時はありますか?それはどうやって乗り越えてますか?一言、励ましてもらえると嬉しいです。

相談箱 / https://soudanbako.com/user408dae7c43acaee928934f7418f91fc7

ご相談ありがとうございます。
スパチャもありがとうございます。
美味しいコーヒーをいただきながら、次の相談に答えます。

俺、ご相談者さんに親近感を感じてます。
なぜかというと、もともと、ラッパーのスタートもご相談者さんがなされているMCから派生したものなんです。
いわば、MCはラッパーのおじいちゃんみたいな、お仕事だと。少し、強引かもしれませんが。

そして、ご相談者さんが置かれている状況もすごく似ていると感じます。
無数にプレイヤーがいて、お互い凌ぎを削りあっている。
その中で、個性を発揮して自分の持ち場をキープする必要がある。

まさしく、似ているなぁと、頷きながら書いてます。

なにはともあれ、戦いってしんどいですよね。
正確に言うと、勝敗ってやつがしんどいと思うんです。
負けってある種、死というか、存在の否定というか。
負けた時は、「お前はいらん」とか、「存在してる価値がない」とか、そう言われている気がしますよね。
そんなことを繰り返していると「あれ?俺って何?」って、不安になる時があります。
すごく分かる。

自分語りになって恐縮ですが、
2007年20歳ぐらいから、ラップを始めたのですが、その時は日本語ラップは氷河期真っ只中で、
ラップでご飯を食べるなんて、夢のまた夢でした。

そんな中で、キャリアの前半はMCバトルからスタートしたので、ずっと「戦い」の歴史でした。
瞬発力が求められる場所で、ゆっくり考えて言葉を選ぶことすら出来ないという。
しかも明確にその場で、勝ち負けが決まるという残酷な場所でした。
特に周りはカッコいいラッパーが多かったので、自分と比べて苦しんだことも多かったです。
(Bad Dayって曲を聞いてもらえてら、俺の苦しみっぷりを感じてもらえると思います)

いま、有難いことにマイクでご飯を食べれるようになったのですが、
氷河期を過ごした名残なのか、どこか心の底に「これでご飯を食べれるなんて奇跡。いつまでも続かない」と
少し悲観的なものがあります。その分、今これでご飯を食べれていることに大きな感謝もしています。
(いつも、俺の音楽を聴いてくれてるみんな、ありがとう)

そして、少し乱暴な言い方ですが、「ご飯を食べる」ということはどうでもいいと思っている部分もあります。
そして最近はもっと言うと、「戦い」における勝ち負けに興味がなくなりだしてます。

今から7~8年前、30歳をも目前に、梅田サイファーが疎遠になりだして、
あの歩道橋でラップをすることが難しくなりだしました。

バトルも苦手で、望む自己表現をする場所が失われていく中で、それこそ人生で2度目の自殺を考えた時期があります。
そのときに、考えぬいた結果、死ぬほどの勇気も自分にはなかったので、生きているうちは「一生ラップをしよう」と決めました。
やはり、自分にとって、歌詞を書くとは神聖な行為で、自分が自分であり続けれるんです。
唯一、それしかないと今でも思ってます。

沢村貞子さんという、昭和の大女優がいて、その方がエッセイの中で
「『女優』と『家事』のどちらをとるべきかーーーなどと悩んだことはありません。
この二つは並べて考えられるものじゃないと思っているからです。私の場合、女優を止めることはあっても暮らしをやめることはないからです」
と仰ってます。

これの家事の部分が、自分にとっては歌詞を書くという行為なんです。
その歌詞を書くという行為が、今はたまたまお金を連れて来てくれますが、それがなくなったとて、
俺は、また仕事をしながら、歌詞は書くと思うんです。

子供の時に、綺麗な落ち葉や、まんまるの石を集めたように、
今でも均整のとれたライムや、人間の尊さを表した言い回しを集めることが大好きで、
それが気に入ってくれる人がたくさんいたら嬉しいし、いないなら集めながら
時折自分で眺めて楽しみたいと思ってます。

いただいた質問の中の「自分らしさ」って何かって問いには、これが答えなんだと思います。
相対的な価値ではなく、絶対的な価値というか。
客観的な価値ではなく、主観的な価値とも言い換えれると思います。

綺麗な落ち葉も、まんまるの石も、別に子供の時はそれを売るために集めてたわけでもなく、
他人と比較して、コレクションとして勝つために集めてたわけでもありませんでした。
でも、その綺麗さを友達や家族がわかってくれるとすごく幸せな気持ちになったじゃないですか。
「ただ好き」っていう、あの感覚こそが「自分らしさ」の根底だと。

なので、俺は「自分らしさ」については、世間がそれを受け入れようが、受け入れまいが、
わがままに持ち続けると決めてます。
そのかわり、別に大金持ちにならなくてもいいと思ってます。
わがままにいると、当然受け入れてくれる人は比例して少なくなるだろうから。
もう、こればっかりはトレードオフだから、しょうがないです。
その上で、それでも受け入れてくれる人を大切にして生きていたいです。

ここまで書いてて、あまりにも自分本位な回答で、役立たないような気がしてきたので、
もし自分が勝ちたくなったらと仮定して、少しお話しさせてください。

ひとまず今の音楽の流行りを調べ尽くして、それを模倣すると思います。
もっと言うと、他人が選ぶ理由の部分を模倣します。

順を追って話すと、まず勝ちの定義をします。
今回の「勝ち」とは「多くの他者に選ばれること」かと。
次に、「多くの他者」が集まってる場所を探します。
音楽なら、プレイリストとか、YouTubeの再生回数とか、TikTok、インスタのリールとかを片っ端から、リサーチします。
相談者さんなら、MCという仕事が多くある場所だと思うんですが、
例えば、展示会とか、講演会とか、レセプションとかになるんですかね。
(詳しくなくてごめんなさい)

何をリサーチするかと言うと、何をもって、その対象物が選ばれているのかです。
それを言語化していきます。

例えば、MCのお仕事が他の方に決まったとき、または自分が立ちたい場所にすでに立っている方がいるなら、
その人たちがなぜ選ばれたかの要素を出し尽くします。
(声の質なのか、カジュアルさなのか、高級感なのか、それとも人脈なのか、経歴なのか、知識なのか)

そして、次に自分が持っているスキルを棚卸しします。
そうすると、選ばれる人間と、自分のスキルの差が見えてくると思うんです。
あとは、その中で最もインパクトが大きく努力のコストが低いものを選びます。
選んだら、遮二無二にやり続けます。数ヶ月に1度、定期的にスキル取得の進捗の確認とリサーチをしながら。
多分、これを繰り返し、正しい努力をすれば、どのジャンルでもある程度までは勝てるようになります。

とまぁ、至極当たり前な、PDCAっぽい回答になりました。

ここまで書いてて、思うんですが、そこまで資本主義にコミットする必要があるのか?とも正直に思います。

めっちゃ乱暴な言い方になるんですが、ご飯が食べて生きていけてるなら、あとは自由でいいと俺は思うんです。
当然、自己追求が「勝つ」というところにあるなら、戦略的にそれをするのが1番いいかと。
ただ、「勝つ」という他者との位置関係で得られる喜びは、結局は他者によって規定されるので、
守り続けるのが難しい瞬間が来ると、そんな気がしてます。

長くなったんですが、

“それでも時々戦いが辛くてしんどくて、自分らしさが分からなくなって呻くしか無い時があります。
第一線で活躍しているKZさんはそんな時はありますか?それはどうやって乗り越えてますか?”

と言う部分にお答えするなら、俺は低俗な人間で凡人なので、よく苦しみます。
この世の中には俺が歌う理由が見つからないほど、素晴らしい音楽に満ちてますし、
前述したことが頭ではわかってても、身体が反応して、他者との比較でよく心がざわつきます。

じゃあ、そんな時はどうするのか。

俺は、ペンを握り、静かに自分にとって綺麗だと思えるものを探し、また集めます。
そして、今までのライブの夜を思い浮かべて、受け入れてくれた人たちの顔を思い浮かべます。

次も、その人たちが喜んでくれたらいいなとも思うし、
過去の10代の自分のような(HIPHOPが持つ力によって人生が良くなった)人がいてくれたら
それは自分の人生の肯定にもなるので、そのために「自分らしさ」をより強固に、制作に向かいます。

最後に、励ましにTOCCHIの「Independent Era feat. HANG & 唾奇」を贈ります。


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