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バーティカルSaaSに挑む起業家のリアル|後編 - 貿易業務のオープンプラットフォームでグローバルに勝負する

UB Venturesが運営する起業家のためのソーシャルクラブ「Thinka」 が第3期メンバーを募集中だ。Thinkaには、特定業界に特化した「バーティカルSaaS」領域で成長が期待される起業家も集う。今回は、それぞれ、農業、貿易業務という、電話や紙のコミュニケーションが主流の業界でバーティカルSaaSを手がける第2期生の二人の起業家、株式会社Zenport太田文行氏と株式会社kikitori上村聖季氏に、Thinkaメンバーのリアルを聞いた。(聞き手は、UB Venctures 大鹿琢也)

太田 文行 Fumiyuki Ota
株式会社Zenport 代表取締役

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三菱商事株式会社にて化学品の海外営業や事業投資管理などを行う。ボストンコンサルティンググループにて総合商社などのプロジェクトに従事。株式会社ミスミにて、事業開発、経営企画などを経験。「VOC(顧客の声)活動の強力な推進」で15年度全社個人貢献賞を受賞。
一橋大学商学部卒業。スイスローザンヌにあるビジネススクール、IMD(International Institute for Management Development)にてMBA取得。

ニッチ、しかしねらいはグローバル

Zenportは、貿易サプライチェーン業務を行う海外業務部門などが国内外の取引先と共に使うBtoB/SaaSモデルの、コミュニケーションプラットフォームです。

日本で貿易を行っている法人数は全体の数パーセントといわれ、非常にニッチです。しかしGDPにおける貿易額は、日本では2割弱、世界全体では2割を超え、貿易はまさに経済のドライバーといえます。そして、それをとりまくサプライチェーン業務は、国を超えて、製造から物流、金融にいたるまでさまざまな役割の人たちの協業によりつくり出されていて、そこには奥深い世界が広がっています。

ところが、そんなサプライチェーン業務では、やりとりが非常にアナログ。紙とメールとExcelを駆使してコミュニケーションしています。そういったコミュニケーションの業務だけで、年間500時間ぐらいつかっているという試算もあります。

これほど時間がかかる理由は、役割のちがう各社が持っている情報を統合しないと取引が進められないから。例えば、1万枚のTシャツを輸入するには、輸入者が注文し、輸出者がそのTシャツを出荷し、物流企業が輸送します。しかし、輸入する側から見ると、1万枚のうち何枚が出荷され、いつの船で運ばれ、いつ自分の倉庫に入ってくるかは、輸出者、物流会社から情報を集めないと予想も立てられない。

そういったそれぞれのプレイヤが持つ情報を合わせていくことで、貿易が進む。このために常にコミュニケーションが必要なわけです。

一方で、各社、独自に最適化された基幹システムをもっていらっしゃって、そうしたシステムを網の目状に繋いでいくのは事実上不可能なわけです。そのため、皆さん仕方なくExcelを使って自分たちの情報を交換し、電話で確認する、というのを延々とやり続けている。Zenportは、こうした貿易業務のコミュニケーション部分に特化して、みながアクセスして情報をアップデートしたり共有できる仕組みを提供しています。

zenport事業

貿易をフィールドにしているので、当然日本のお客さんの取引先は海外企業。ですので、われわれは最初から海外で使っていただくことを想定し、エンジニアチームは全て海外から人材を募り、それぞれの地域や領域で得た知見や視点をみなで練り込んでプロダクトをつくっています。基本的に社内の公用語は英語で、開発は英語で行い、日本語、中国語に翻訳しています。Thinkaでも先輩方からなぜ全員外国人?なぜ英語?と冗談半分に突っ込みを受けることもありますが、どうしてもこれだけは譲れないと思っています。

現在最も使っていただいているのは、貿易業務で出てくる大量の書類やメッセージを企業間で共有・保管することです。Zeportでは、からみあった取引を見える化していて、それぞれの取引の箱を開けると書類とメッセージが入れられて、書類の共有やグループチャットができるようになっています。

zenportプロダクト

なかなか地味なペインなのですが、メールを考えていただくと、その価値がお分かりいただけると思います。たとえば、20本の船積み手配を同時並行で進めていて、毎日何百通も受け取るエクセルがついたメールの中に、修正の連絡や、変更の依頼がランダムに混ざっていたら、どれが最新版か、何がそろっていないかわからず、ちょっと気が狂いますよね。

しかしこれはZenportにとってはひとつ目のステップです。今は、からみ合った取引の見える化を通じてZeportは企業間のコミュニケーションの標準化をしており、この標準化をさらに進めた先には、そこにさまざまなサービスを接続することができるようになります。ブロックチェーンベースのトラッキングサービスや、IoTベースの生産管理システム、スマホを使った決済サービスなども含めてつないでゆき、最終的には関係者の在庫や生産、そしてキャッシュフローを最適化することを目指しています。

グローバルへの目線

グローバルなビジネスを創りたいという気持ちはずっとあります。15年くらい前、商社にいたころ、中国で次々と新しい工場が建って、品質がどんどん良くなるという状況を目の当たりにしました。このままでは日本の製造業はまずいんじゃないかな、と危機感を持ったのが原体験です。ビジネスとして、グローバルを見た方が選択肢も多いし、広がりもありますよね。ただ、もっと言うと、自分にとって国境を越えて何かをつなげたいというのは衝動に似た感じの思いです。さまざまな国の人たちと、互いに一人の人間として仕事をできるのは本当に楽しい。生きててよかった、みたいな。その上、そんなふうにしてつくる自分たちのプラットフォームで世界中のビジネスがつながったらと思うと、すごくワクワクしませんか。

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とはいえ、一足飛びにできるわけはなく、一歩一歩取引関係を構築しています。今は、日本の輸入者さんから、中国の輸出者さんが使ってくれるよう取り組んでおり、実際に中国で使い始めていただいています。次のステップではそこから、アメリカの輸入者さんにも、ヨーロッパの輸入者さんにも使っていただくようになる、といった感じです。

みな貿易業務の中でペインポイントがあるので、そこを解消していく手だてを用意し、世界に広げてゆきます。目の前のお客様に喜んでいただくことを何よりも第一に考えつつ、ハブになる産業や地域をおさえ、ネットワーク効果を生むよう取り組んでいます。

実は自分の場合は、商社、ビジネススクール、コンサルで、どうしたら事業を創れるのかつかみきることができなかった。しかし、ミスミでお客さんの声を集めニーズを見極めてサービスを生む仕組みを作ってみて、これだ、と。ミッシングピースが埋まった気がしました。お客さんの声に徹底的に耳を傾けて、自分の頭で考えて、一般化、抽象化してサービスに落としていうのが大事で、これはユニバーサルなものだと思っています。

起業家に重要なことは?Thinkaに入ってみて?

大企業からスタートアップの世界に飛び込んでみて、アンラーニングの重要性をますます感じています。これまでの経験や知識に縛られることなく、一歩引いて、敷衍化する。とくにわれわれはカスタマイズを行わない標準製品を作っていますから、この敷衍化というのはことさらに重要だと思っています。優先順位をつけながら要件を定義し、それがお客さんにとって効用があるのかを検証するサイクルを回せることが大切だと思います。

スタートアップをやっていて、もちろん辛いこともあるんですけど、楽しい。やりたいことにダイレクトに近づけて、賛同してくれる人がいて、仲間になって、一緒にがんばっていけるというのがめちゃくちゃ楽しいですね。

Thinkaの存在はとてもありがたいです。失敗経験は普通はなかなか話しにくいもの。でも、困っていることはたくさんある。Thinkaは「失敗を共有しよう」というコンセプトがあるからか、みんなすごくオープンに話します。心理的安全性があるなかで、情報源があって学べる貴重な場です。それに私はこれまで大企業の世界で生きてきて、この界隈で知人も少ないので、そんな中でこうして参加させていただき、ほぼ何でも相談させていただける環境に本当に感謝しています。

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構成:久川 桃子 | UB Ventures エディトリアル・パートナー
2021.06.21