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日曜日のクルーメイト #0008 WHO IS IMPOSTER?

クルーメイトのみなさま、こんにちは。作家の冲方丁です。
一週間、いかがお過ごしましたでしょうか? こういうちょっと変な挨拶が好きになってきました。
冲方はようやく体調が戻ってきたのでバナーでインポスター・ピエロになってみました。こんなやつと緊急会議したら最初に追放しますね。いや、本当はけっこう前に撮った画像でやっと使い道ができました。

ゲストトーク『生き残る作家 生き残れない作家』

えー、さて。
本日は、宣伝を兼ねて、またしても早川書房の長年の担当である塩澤さんをお招きしたいと思います。
ちなみに下記の記事では、冒頭が無料公開されておりますので、ぜひご興味を持たれたかたは御覧下さい!

冲方 よろしくお願いします。
塩澤 どうも、よろしくお願いします。今回は、『生き残る作家 生き残れない作家』についてお話すればよろしいですかね。
冲方 はい。これ、オビに自分の近影がデカデカと載っているのが新鮮でした。まあそういう本も出したことはありますが。なんか、パーソナリティを看板にするノウハウ本というのは、やはりこういうものなのだなと。自作品のムックなども、作中のキャラが前面に出るので、僕よりも作品世界がフィーチャーされます。今回の本は、なるべく人の役に立つようにしようとした結果、個人的な生活習慣にまで踏み込むことになりました。
塩澤 今回僕が一番衝撃を受けたのは、参考資料として収録させていただいた一ヵ月のスケジュール表のなかに、「風呂掃除」があったところ。冲方さんも風呂掃除するんだなと、グッときました(笑)。
冲方 いやいや、生活からかけ離れるほど仕事も成り立たなくなっていきますからね。そもそもなぜ、作家は極端な生活をするというイメージが根付いたのか、どう考えてもおかしいと思います(笑)。
塩澤 社会に適応できない人物が物書きになるというようなイメージがなんとなくありますね。
冲方 明治・大正・昭和初期の社会的激動の中だとみんな不安と不満にさいなまれておかしくなっているかもしれないですけど、今どきはそんなことないと思うんですよ。なのに作家というのは晩ご飯に、寿司職人とかを呼んでいるんじゃないかとか言われたこともあって。アンジェラさんっていうファフナーで面識を持たせて頂いたミュージシャンの方々ですけど(笑)。なんでそんなセレブな生活を想像されてるんだとこっちが衝撃を受けました。
塩澤 毎食ケータリングじゃないのか、とか。という感じで、あまり真面目な話をしても仕方ないので、私が20年ぐらい垣間見てきた冲方さんの生活も交えつつ、話をしたいと思います。
冲方 まあ、確かに僕もあまり人のことを言えないですが。作品にのめりこむと社会が遠ざかっていくところがあるので。気づいたら首相が代わってたりとか普通にありましたね。
塩澤 それこそ、十年くらい前までは、けっこう体調を崩されていたじゃないですか。最近はあまりないですよね。
冲方 大破しなくなりましたね。エンストぐらいで終わる(笑)。実は先週と今週はすごく調子が悪くて、突然体中に炎症が出て。検査しても理由がわからない。ウイルスでもないし。単純に雑菌にやられていると。生きることに体が悲鳴をあげているんだと言われて(笑)。季節の変わり目とか、疲労が蓄積して、体温調整とか生活のあれこれの変化で体に負荷がかかって、それで昔はぎっくり腰と胃腸炎を併発して動けなくなったりもしましたが。今はちょっと結膜炎になるぐらいで済みますね。
塩澤 一ヵ月の予定表を拝見すると、トレーニングやランニングを定期的にされてます。体力づくりはいつごろから。
冲方 陸上部だったこともあって昔から走っていたんですけど、忙しいとどうしても……。余裕がある時期になるべく体力づくりをして老後に備えてはいますね。健康貯金というやつですよ。お年を召された先輩の作家さんで健康な人と不健康な人の差が如実なので……体質もあるのでしょうけど見習わないとなと。一時期はマンションの階段を駆け上がってました。
塩澤 けっこうな階数ですよね。
冲方 十六階ですね。元気な時は三往復していました。踊り場で筋トレしながら。コロナでジムに行くのも憚られたときに、非常階段なら誰もいないのでここでやろうと。室内のランニングマシンと非常階段が僕のジムですね。しかし、塩澤さんはほぼ運動しないし、毎日仕事をして家事手伝いをしているだけなのに、なんでそんなに健康なんですか。
塩澤 たぶん遺伝的なものですね。一切体調が悪くならない。
冲方 特殊な常在菌を持っているなら少し分けてくださいよ(笑)。
塩澤 とりあえず、僕はストレスがないんですよね。
冲方 それもすごいですね。ストレスといっても精神的だったり肉体的だったり人間関係だったり、理想通りに進まないだったりお客さんの反応が悪いだったり、仕事と家庭の両立でいろいろ軋轢があったりといろいろありますけど。その一切がないと断言してしまうのもすごいというか、ひどいことだと思いますよ(笑)。
塩澤 あるとすれば家庭の軋轢ですが、でも何かいやなことがあっても一瞬で消え去っちゃいますね
冲方 なんでしょうね。いやなもののスワイプ力が高すぎませんか。コツはありますか。
塩澤 特にないですが、できないものはできないし、なるようにしかならないという達観でしょうか。
冲方 僕が若いころに体が壊れがちだったやつですね。なるようにしかならないのハードルをどんどん上げていってしまって。これはならないとダメでしょと思い込んじゃって、もう二十八時間くらい執筆を続けて体力の限界に達して壊れて入院するという。
塩澤 かなりマイペースなところはあると思います。人にこういうふうにやれと言われるのはあまり好きではないので、自分の責任で自分のペースでやる。基本的に寝ているとき以外は仕事しかしていないので、それでできないものは物理的にできないということなので、遊んでいるわけでもないし。できないものはできないのだからしかたないということにしています。
冲方 ぼかしようがない。正しいですね。それがベテランになれるかどうかの瀬戸際だと思います。連載にトライして無茶して、どうしてもこなせずにあきらめちゃう人もいる。ペースがつくれずに何をやっていいかわからなくなったりとか。マイペースを支えているものってなんだろうと考えた時期もありました。
塩澤 それでいうと、冲方さんは毎月締切ではないにしても常時7~8本も連載をもってるじゃないですか。普通に考えて、それだけの量を書いていると、ある程度手癖で、同じような内容を量産するといったことになると思います。時代小説なら時代小説、警察小説なら警察小説という感じで、設定とキャラクターがちょっと違うだけというようなものを繰り返し書かれる方が多いと思いますが、冲方さんはSF、ミステリ、時代小説とジャンルも違うし、その都度新しいことにトライされているイメージがあります。
冲方 それが僕のマイペースなんですが、ビジネス的には得でもないんですよね。いわゆるブランドづくりにおいては極めて不利ですね。作家のイメージが固まらないんですから。でも、とりあえずなんでも書けるようにならないとダメだというのがデビュー前からあって。どこかのジャンルに特化して視野が狭まってしまうことで、自分の可能性を消してしまうのがとてもイヤで。世界はもっと広くて、人間は奥深くて、エンタメというのは多彩だと思っているので。だから書くべきものから類推して、最適な視点を持てるのはこのジャンルじゃないかと見極める、いうのが僕のこれまでやってきたことですね。マルドゥックもSFを書こうとしたわけではなく、自分のインスピレーションに従っただけです。基本的にはSFという枠組みで認知されていますが、それは売るときや、お客さんが読むときの様式なので、そこは素直に従うだけです。そこから逆算してつくることはまずないですね。『天地明察』も、よし歴史ものを書くぞ、と思って書いたわけではなく、渋川春海という人物にひたすら惚れて書きたかっただけなんです。
塩澤 そうすると、そもそも25年前に『黒い季節』という作品でスニーカー大賞に応募された時の動機はどのようなものだったんですか。
冲方 高校を卒業するときに一本小説を書き上げて、マイ卒業作品にしようと思ったんです。当時スニーカーの愛読者だった友人が、賞があるから送ってみたらどうだと言ってくれて。審査委員が、僕が存じ上げている方々だったので、この人たちに読んでもらえたらいいなと思って。新人賞を受賞して作家になるぞと思って書いたわけではないんです。確か……、ビートたけしの「ソナチネ」のような雰囲気で、夢枕獏さんのような異形バトルができたらいいなという。
塩澤 「ソナチネ」だったんですね。
冲方 まあ、昔のことなので記憶が曖昧で断言しづらいんですけど。美しいけど空虚で逃げ場がない感じ。あれだけの映画なので、かなりの人間に無意識に影響を与えていると思うんですが。当時、自分が受けた影響を自覚するために書いていたところもありますね。そのなかで自分にとって一番重要な主題はなんだろうと。当時から、主題、世界、人物、物語、文体を順番に勉強しようと思っていたので、まずテーマを選んだということです。当時は実存哲学が流行っていたというか、最先端だぜという気分だったので、それが自分のなかで一番大きなテーマとして明文化された感じがします。
塩澤 そもそも作家になりたいとかいうことではなく、今回の本の最初の原則にもあるように、WHATやHOWではなく、最初からWHYだったと
冲方 なぜそれをやるのかを基準にやっているので。ちなみに作家を自称し始めたのはわりと遅くて、『天地明察』を書いた後ぐらいですかね。取材を受けるたびに、自分は自分のやりたいこと、やるべきことを目指してやっている一人のクリエイターですと長々と説明するのが面倒くさくなってきたんです。作家という呼ばれ方に無駄に抵抗するのも馬鹿馬鹿しいなと。ただ、僕の中で作家というのは、とにかくなんでもできる人。ジャンルを問わず、詩も詠めれば戯曲も書くし、新聞記事も書ければ小説も当たり前に書けるという。文筆における超名誉な肩書だと思っていたので、おいそれと自分が名乗ってはいけないと変にストイックなところがありました。だいたいこれぐらいできるようになったら自分のことを作家と呼んでもいいのではないかというイメージがありましたけど、三十代半ばぐらいまでは抵抗がありましたね。まだ作家じゃないないというような。作家生活25年のうち十何年ぐらいは作家未満だった気が自分の中ではします。
塩澤 それはちょうど、『マルドゥック・スクランブル』の完全版をお書きになっていた2010年ぐらいでしょうか。
冲方 そうですね。そのあたりで自分のなかで一つのブレイクスルーがあったというか、より具体的に自分の生活指針が整っていったというか。何のために書くのか、今後どれぐらい書いていくのか、いろんなものが確信に変わっていったころですね。僕がデビューしたころは活字離れが盛んに言われていましたが、ちょうどそれが言われなくなったころですかね。SNSやブログ全盛の時代に、活字離れなんて何を言っているんだろうと。
塩澤 『マルドゥック・スクランブル』のオリジナル版と完全版の冒頭部が今回の本にも例文として載っていますが、改めて見てもここまで違うんだと。同じ物語のはずなのに全く違う。両方の編集に関わらせていただいているんですが、完全版の原稿を頂いたときに、冒頭から一回読み始めると、何の抵抗もなく読まされてしまい、自然に最後まで読み切ってしまう。文章の吸引力が尋常でなくすごいなと思ったんです。
冲方 10年ぐらいの修行の成果ですかね。ひたすらやってきたことの成果が出たなと。推敲しながら、自分が何をやっていいかがわかるので、それが一番の成長の成果ですね。視野が広くなって、何のために、何をどうしないといけなくて、想定された読者はこうで、だったらこうしないといけなくて、という。テトリスのように、いろんなブロックをどうはめればいいかが自然と見えてくる。

(続く)

トークコーナー 最近記憶に残ったアレ

さて、ここからはクルーメイトのみなさまのコメントをご紹介します!
今回のお題は、最近記憶に残った作品について。
みなさまの興味深い作品体験を、我が学びにさせて頂きます!

ライブで声援不可とは。それでも一体感を味わえたのは良かったですね。最近ほんとに世の中でなくなりつつあるのが一体感ですからね。そろそろ社会的にヤバい領域に入ってきたのではと感じるほどです。
サミット・イベントもしかるべきときに向けて創意工夫して参りますので、ぜひご参加下さい!

さっそくアマプラで検索してみましたよ。いやー、綺麗な空! 早くまたこういうことが自由にできる世になってほしい!
ただツーリングって、実は、停車した場所で密にさえならなければ適切な娯楽になりうるかもしれませんね。走ってる最中は密になりようがないですし。
スーパーカブは、ちなみに、シュピーゲル・シリーズでもネタにして、少年少女が乗り回しており、なんかとっても懐かしい感じがしました。

SF大賞受賞作ですね! 唯一無二というのがぴったり。日本SFというくくりを超えて、海外でアニメ化されてほしい。優れた空間描写の力によって、そこに存在する人物から目が離せなくなる。素晴らしい読書体験を与えてくれる作品だと思います。

三桁はすごい(笑)。昔、作中で108人の妹を出すと言い始めた方がいたのを思い出しました。シスマゲドンと題して。あと101匹わんちゃんとか、100の○○って、本当に出す気なんだとタイトルでびっくりしますね。しかし100人の彼女とは。チンギス・ハーンか。子孫で町が出来ますね。
「大」がいくつなのか……五つ? 数に意味があるのかな。読んでみなきゃですね。

トークお題 あなたは倍速で動画を見ますか?

いつもクルーメイトのコメントありがとうございます! 引き続き、しつこく募集してしまいますね。
最近、「倍速で映画を観るのはどうなの?」という議論がちらほら見られると聞きまして。
これは作り手がどうこう言うより、率直にみなさまのご意見を聞いてみたいと思います! 倍速視聴はいいこと? 悪いこと? 

その他にも、コーナーのご提案やご意見ご感想、ふと思いついたリクエストなど、なんでも気軽にコメント下さいませ!

#日曜日のクルーメイト

こちらのハッシュタグをつけてツイートして頂くか、コメント欄にてみなさまの言葉をお待ちしております!



「スーパー冲方大戦Among Us」第四回!

さあ、いよいよ緊急会議が始まりました。
その続きの前に、クルーメイトたちのコメントをご紹介。

良いなあ! 混ざりたいなあ。でも今日これからアフレコに行かなくてはなのです。最終章なので何としても行かねばならないのです。ぜひまたクルーメイトたちとAmongUs大会したい!

めちゃくちゃすごい分析をされてますよ、これ!
いやあ、なんて素晴らしい。見やすい!わかりやすい!そして犯人がわかってしまいそう! これは嬉しいです。ありがとうございます。
ここから、いかなる展開が生まれるか、お楽しみに!

そうなんです。意外に、青が率先して議論を始めました。
というか、総じて青が突っ込み役を担うという珍しい展開ですね。
赤の混ぜっ返しと独断と偏見、黄色の第三者的な意見、そして橙のぽつねんとした態度が、果たしてどういう結果をもたらすのでしょうか。乞うご期待!

大反則ですな。船に変身したネズミの中にいるとかですかね。いや巨大すぎです。あとからさらに人物が登場するとか、もはやカオス大戦ですな。
あ、そういえばアップグレード版では人数が増えるのでしたっけ。だんだん放課後のドッジボールなみの人数になりそうですね。

確かに。青が突っ込み役を担っているかと思いきや……な展開も?
またしても新プレイヤーが乱入です。事態を制圧するというか最強インポスター大戦ですな。

赤さん、一方的に死に友に認定しますからね。心中相手を求めるデフォルトで怖い人です。白、黒、紫、青、水色がどのような反応を示すか楽しみですね。

ありがとうございます。そうなのですよ。使命として体験した人、社会的規範としてそういうこともあると知ってる人だと、こういう反応になるのかと思いました。
楽しんで下さってありがとうございます!

それでは、続きをお楽しみ下さい!

第四回

【カフェテリア】
赤 そう。白が言った通り、彼は死んでいた。殺されたのではなく。これは殺人ではないの。緑は私たちより一足早く、自らの命を終わらせたのよ

【カフェテリア】
緑(幽霊) ……いったい何を言っておるのだこの娘は。私が死ぬわけがなかろう。しかし私はどうなったのだ? 通路の先で……何かが現れたあと、気づけば壁を越えて宇宙にも自由に出られる身になっているとは。
はっ……まさか私は知らぬうちに、かの種族に導かれ、今や宇宙的に尊い存在になってしまったのか? そうに違いない。もはやこのような下賤の者どもでは私を認識することすらかなわぬと、赤はそのようなことを言っているのだな。

【カフェテリア】
黒 あー、確かに、緑って何もしようとしねーし、ずっと一人だったみてーだし。で……あいつ、最初っから自分で自分にけりをつけようとしてたってことなのか?
赤 私はそう思うわ。みなさんの中にも、うなずける人がいるのではなくて?
橙 そういうことでしたら、ある意味、安心といいますか……。
桃 ふーむ。煉獄の試練に耐えかねて天国を諦め、自ら地獄へ落ちる道を選んでいたというわけか。
紫 あの方の態度からして、そういう人物には思えませんでしたけど……。
青 ま……待て! 本当にそうかどうか確認するのが先だ。白が発見者だが、緑や現場はどんな様子だった? 死因は推測できるか?
白 《それについては、ここでは明言しないほうがいいと思います》
紫 そうですわ。白さんの他に現場を説明できる人物こそが犯人に違いありません。
青 む……そうか。では、緑を見た者は?
水 あ、カフェテリアにいたけど。
青 全員そこにいたんだから当たり前だ。他の場所で見た者は?
橙 私が星を見ていると、ふいに現れて、怠けず働くようにと言い置いて去ってゆきました。私やみなの働きを督促するご様子で……。
紫 ますます自殺をする人物とは思えない態度ですわね……。
黄 アラートが鳴ったあと、緑がカフェテリアから上部エンジンへ向かっていくところをセキュリティルームで見ていました。おそらくその直後に斃れたのでしょうな。
青 黄色が本当のことを言っているという確証がほしいな……。よし、まずはみなで地図を見よう。

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紫 一目瞭然! なんて素晴らしい地図なのですかしら!!
青 熱心なクルーメイトの、今日こそ明日から(とんかつ)氏が作成した完璧なマップだ。ありがたく見ろ。線が通路、点線がベントによって移動できる経路だ。ベントはクルーメイトに害意を持つインポスターのみが使用可能だ。
黄色 では、セキュリティルームから見ることができる通路に、赤い印をつけましょう。こちらの四カ所です。

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青 よし。黄色が見たものについて聞かせてくれ。
赤 こんなことをして何の役に立つというのかしら?
青 君の推測が正しいかもしれないのだぞ。やって損はないはずだ。
赤 あなたの気が済むようにしたいということ? これは私が提供した時間なのだけど。
青 君の主張はすでに聞いた。それを実証するためだとは考えないのか。
白 《貴重な時間がなくなる前に検証を終えませんか?》
紫 そうですわ! やっておくべきことなのですから、すぐにやりましょう!
赤 ですって。好きにさせましょうか?
黒 え、なんであたしに訊くんだよ。まあ、一応やっとこーぜ、こういうことは。
桃 むっ! これはもしや、今我々がいる場所を示す地図ではないか!?
橙 今しがたそのように説明が……。
黄 私が見た人々をかいつまんで説明しましょう。よろしいですかな? まず緑がカフェテリアから上部エンジンへ向かいました。橙がナビゲーションから出てまた戻りました。下部エンジンから、赤、黒、水色、白の順で原子炉に向かい、私も原子炉の様子を見に参りました。
水 うん、その順番じゃなかったか?
白 《下部エンジンにいる私の目の前を水色が駆けてゆきましたので、その通りだと思います》
青 黄色の言うことに矛盾は見当たらないか……。となると、緑が死んでいた上部エンジンにアクセスできる者は、黒、赤、白、水色、黄色になるな。
水 このベントってやつで移動できるんじゃないのか?
紫 いいえ、御覧下さい。上部エンジンへ移動するベントは、原子炉からのみ。他は、セキュリティルームか電気室からベントで医務室に移動し、上部エンジンへと通路を移動するしかありませんわ。
黄 アラートのあと、医務室から移動した者がいれば、私が見ていたでしょうね。
黒 あー……黄色って、いつからセキュリティルームにいたんだ? ていうか仕事しねーで、なんで通路なんか見てたんだ?
黄 アラートが鳴ったので、下部エンジンで一緒にいた白と相談してそうしたのですよ。もしアラートが意図的で、我々に害意を抱く者がいれば、慌てて移動した者を狙うでしょうからね。それで私がセキュリティルームに行って通路を監視し、白が保管庫から下部エンジンに通じる道を見ていたのです。セキュリティルームでは見ることができない場所ですから。
青 危機的状況下で、修復ではなく監視を優先したというのか?
白 《もちろん作業が必要なときは私と黄色が修復するつもりでした。ですが黒、赤、水色が原子炉に向かったので人手は足りていると判断しました》
黒 あ、そういや白がいたな。なんか仕事してんのかと思ったけど。
赤 でも誰も怪しい者は見なかった。そういうことかしら?
黄 はい。黒、赤、水色のあなたたち以外は。
黒 え? ちょっと待て、どういうことだよ。
青 原子炉からベントで上部エンジンに行けた三人というわけか。
黒 いや、待てよ。あたしらが止めたんだぞ、あれ。あの原子炉。ふざけんなよ、お前。
紫 落ち着いて下さい。あくまで可能性の話であり容疑者の段階ですわ。
黒 なに嬉しそうに言ってんだ。この地図見ろよ。黄色が監視してるとか言って、医務室にベントで移動して、一人っきりになった緑を殺したかもしんねーだろ。
黄 おや、そう来ましたか。しかし私は、二人きりになったとき、白を狙いませんでした。わざわざどこにいるかわからない緑を狙った理由はなんでしょう?
黒 そうやって、自分以外の誰かを疑わせるための小細工じゃねーの?
青 ふむ。黄色の発言に矛盾はないが、犯人ではない証拠もないか……。
黒 青と紫は電気室にいたんだっけ?
紫 ええ、そうですわ。
黒 ならお前らだって怪しいだろ。電気室から医務室にベントで行けるんだから。黄色と組んで、見たけど見ないふりしてんじゃねーの?
紫 あたくしたちは二人でいたのですわ! どちらかがそのようなことをすれば気づいています!
桃 二人? そういえばこの場所に来るときに、悪魔が二人混じっているとかそのようなお告げが……。そうか、あれは青と紫のことであったか。
青 人聞きの悪いことを言うな!
紫 でしたら人数が合いませんでしょう! 黄色さんと私と青さんが結託していなければ成り立ちません!
水 橙色が走っていってやったかもしれないんじゃないか?
橙 え……ええっ!? 私がですか!? なにゆえに!?
水 ベントと通路を使って走れば監視カメラに移らないし。
青 待て……ナビゲーションからシールドルームへベントで移動したあと、保管庫から下部エンジンに行ってベントで原子炉に、同様に上部エンジンへ移動したあと、また同じ道でナビゲーションに戻るのか?
水 急げば行けるんじゃないか?
青 到底無理だ。お前みたいな身体能力を全員が持っていると思うな。
赤 どうやら、あまり意味のある議論にはならないようね。ここで私たちは、きちんと場を整え、そして全員で緑のように意味のある、大きな選択をする。それでいいかしら?
黒 え? ちょっと待て、なんであたしたちも緑と一緒なんだよ。
赤 それがこの集いの目的だからよ。私は確信しているの。なぜ私たちがここに集められたか? それは全員が、大きな選択をしようとしたことがあるということ。自らの命についての選択を。そうではなくて?
黒 あー……いや、え? みんなって……えー、そうなのか?
紫 ちょ……ちょっと、あたくしを見ないで下さい! 確かにそういうときもあったかもしれませんが、別にわたくしは……。
橙 はて、そういえば、私も醜態に耐えかねて腹を切ろうとしたことはあったような……。
水 そっか。みんな、いなくなろうとしたことがあるやつらなんだ。
青 よせ。ここで共感するな。
黄 ふうむ。しかし私にはさっぱりそうした体験がありませんが。
桃 私もだ。大砲の直撃を食らって地獄のような痛みでのたうち回ったときも、そんな風には思わなかったぞ。むしろこの命は神のものであり御心に背くことはできぬと悟ったほどだ。
青 二人も反論しているんだ。赤の主張は筋が通らない。
赤 あら。あなたは反論しないのね?
青 僕も反論してやるさ。いや、その前に確認すべきことは、誰が原子炉を止めたかだ。白や黄色ではないんだな?
黄 ええ、先ほどからそう申し上げているとおりです。
白 《はい。私は、桃色が来るのを見ましたが、何ごともありませんでしたので、原子炉へ向かいました》
青 桃色は下部エンジンへ来たわけか。電気室には僕らがいたから、保管庫から来たんだな。
桃 さっぱりわからん。
紫 容疑者から除外されたということですわ。赤さん、黒さん、あと……水色さんのうち、誰が原子炉を止めたのです?
水 なんかタスクってやつをやったら止まったけど。
黒 へっ? 水色は後から来たんじゃ……。え? あたしが止めようとしてたとき、赤もそうしてたんじゃねーの?
赤 正直に言わせてもらうけど、私は何もしていないわ。
黒 お……おいおいおい。じゃ、何してたんだよ。
赤 だってそれもまた選択の問題なのだから。どこまで準備を整えたら大きな選択をするか? それ自体、小さな選択よ。実際、その間にも緑は大きな選択をした結果、自らを死によって真っ二つにしたのだから。
白 《なぜですか?》
赤 なぜ?
白 《なぜ死体が真っ二つであるとわかるのですか?》
青 む。
紫 えっ。
黒 おいおいおい。
水 あ。
黄 ふむ。
橙 ははあ。
桃 おお。
赤 何かしら? 私は白の後ろでそれを見ただけ。白が先に報告をしたから、私はそうしなかった。先ほど白が具体的に説明するのを避けたから、私もそうしただけよ。別に私が緑を二つに裂いたわけではないわ。
白 《間もなく議論の時間が終わります》
黒 え……馬鹿、赤、お前、もうちょっと違う言い方……。いやいやいや、ちょっと待て。あたしの時間やるから。おい、待てって! おい、お前ら――!

投票が行われた。

赤に、白、青、紫、水色、黄色、橙色、桃色が投票した。
赤は追放された。

赤はインポスターではなかった。


黒 馬っ……鹿野郎――ッ!!!!

続く。



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