課題03.「家族」について



  兄が中学生の頃、母に散髪してもらうことになった。カット用のはさみが無かったため、ヘンケルの鋭利なキッチンばさみでチョキチョキ切ってもらっていた。しかし、手が滑ったのか、耳の端を「ぷっつん」と切ってしまった。兄は痛みに悶絶しているにもかかわらず、「ぷっつん」という音があまりにも、文字通りの「ぷっつん」だったという理由で、母は腹を抱えて笑っていたらしい(しばらくしてから手当はしたそうだ)。兄は社会人になってから、それを、母のおもしろエピソードとしていろんな人に話したが、笑われるどころか、怖すぎる、と怪訝な顔をされるばかりだったそうだ。オタマジャクシを何十匹と私と一緒に捕まえてきて、全てカエルに育て、その挙げ句、餌に困ってしまった。そして、餌になるミルワーム(ミミズがカサついたような幼虫)を飼育し始めていた。私は、既に興味を失っていたが、母は毎夜カエル達に餌付けをし、カエル達は母に懐いていた。ただのアマガエルだというのに。 

 この頃には、母がなんとなく変わっていると感じていた。常日頃、「家族は協力体だ」と言っていて、子供にも家庭での役割を厳しく求め、勉強は自分のためにするのだから親を無駄に頼るな、という確固たる信条を持っていた。また、習い事や部活動でも本人の意思が全てであり、親として押しつけるのではなく、大人として協力する、というのが大前提だった。私達子供にはあまり干渉もせず、関心が無いのか? と感じることもしばしばあった。 

 兄は高校生になって、腰の椎間板ヘルニアを発症した。このまま悪化すれば、歩行が困難になるかもしれないほどの重症だった。全国大会の予選が迫っており、兄は主力メンバーだったためか、顧問に「痛み止めを飲めば大丈夫だ、根性が足りない」と強引に出場を押し切られてしまった。母に、自分はどうしたいのかと聞かれ、「将来を考えると今回は欠場したい」と答えた。それを聞いた母は、即、顧問へ電話をした。 

「今回は怪我のため出場を辞退させていただきます。」 

「選手はみんな、どこか怪我や故障をしている。それでも、気力と根性で出場しているのですからね。」 

「いえ、医者の診断を尊重します」 

「そんな程度の気持ちじゃ、今後、全国大会や国体に出すのは難しいですね」 
 この顧問の言葉に激昂した母は、 

「じゃあ、試合に出れば、息子がどうなろうと一生面倒を見てくれるってことなんですね! 歩けなくなっても責任を取ってくださるんですねっ!」と語気を強めて言った。 
 普段は、ほとんど干渉せず、子供の意見を尊重する母が、なにかあった時は、なにがなんでも親が守る、という使命感に燃えていた。一見無関心に近く、少し変わった教育方針を掲げる母だが、子供たちへの愛情が深いお母さんだったのだ。後日談として、兄が最後の大きな大会で優勝した時に、顧問が「根性があれば結果が伴うんですよ」と母に得意げに話しかけたが、母は「え? 私の息子ですから」としらっと返していた。(私は、やはり、母は母だったのだと思った。) 

 そういえば、私と母が大好きなゲーム実況者のイベントに行った時、「私の娘を嫁にどうぞ! どうぞ! あなたを幸せにしますから!」と突然、私の前で実況者に迫っていた。これも、母の愛情の表れだったのだろうか? それともやはり、母は変わっているのだろうか――。



振り返り
すべてフィクションだと言いたい。
この課題は特に出来が悪い気がする。

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