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大人の近未来ミステリ『近未来建築診断士 播磨』シリーズ #note推薦文

昨今、小説投稿サイトが多様化していく中で「Noteでしか読めないもの」「Noteらしいもの」と言えば【お仕事モノ】というジャンルだと思うんですよね。NoteらしいビジネスやHOW TOに接しながら現実世界から一線を引いたフィクション。その中でもユニークな存在感を発揮した白眉が『近未来建築診断士 播磨』シリーズだと考えています。

『近未来建築診断士 播磨』とは

建築士でも設計士でもない建築診断士って何をする人? 現代の「建築診断士」でもちょっとファンタジーな存在なのに、それが「近未来」と来たもんだ。いったいこれはなに? そういった疑問に丁寧に応えるのが本作の特徴で、読むと知識が身につく「特殊職業+館ものミステリー」の要素を交えた作品となっています。(読むと強くなる『週刊モーニング』的なアプローチですね)

かつての先端技術も、時間がたてば傷むし壊れもする。 これはそんな世界で、先端技術と人間が常に触れ合う場所=建築物のいろんな問題を診断し、解決策を探る地味な商売。《総合目次:近未来建築診断士 播磨》より

枯れた近未来テクノロジーの水平思考

建築診断士の播磨君が、可塑性の建築資材や設置環境を問わないテント、自己再生をする木造建築、住民に保守奉仕させるマンション、これらの比較的使い古された近未来テクノロジーを活用し、これらの特徴を活用した「終の棲家」を設計しようというのが本作クライマックスの目的となる。

このクライマックスまでに敷かれた展開が非常に丁寧で、様々な部分に伏線(「基礎」と言い換えるべきだろう)が埋められている。特に優れているのが短編として公開されてNOTE公式からもオススメされた単独の掌編『近未来建築診断士 播磨 -人工知能との世間話-』だ。

かつて世界に反旗を翻した人工知能が最も恐れたものとは? 物語の深淵につながるテーマをユーモラスな語り口でさらりと語ってしまうあたりに、確実な腕前があり読者を唸らせる。

このヒロインがすごい2019

「あんたちゃんと仕事してたのねぇ」
「当たり前。超有能な助手よ、ウチ」
「播磨くん大丈夫?この子、迷惑になってない?」
「大丈夫ですよ。多少がめついくらいで、よく気のつく助手です」
「オイひとこと余分だ」
《第3話 奇跡的な木の家》より

男所帯の建築診断士業界で一服の清涼剤となるのがヒロインというかトラブルメーカーというか、とにかく播磨君の良識の守備範囲を飛び越えてしまう春日居燕という助手だ。信用できない依頼人として登場し、押しかけ的に助手となり、今ではすっかり欠かすことのできない相棒となった。その出自は複雑ながら、簡単に言ってしまえば反社会的な活動家である。

彼女はどうも目的を最優先してスナック気分で権限を越境したりする。そのサクサクとした行動力が実に小気味よく、播磨君が正攻法で進めると数十話を費やすような書類の入手を1行で済まして帰って来る。春日居が一晩でやってくれました。

彼女の猛烈な意志力は播磨君のバックグラウンドを揺るがし彼本来のややクレイジーな熱情を引き出して会話のアンサンブルが作品を魅力的に仕上げていく。春日居燕を覚えておいてください。この人がいると話が早いのでNHKでドラマ化するときは第一話からいると思います。

近未来徐福伝説

各話のミステリーな謎解きとは別にある人物の正体や目的の推測がシリーズを通した大きな謎となっている。最新話ではついにその人物の正体と目的が明らかにされ「終の棲家編」へ到達することになる。ぜひ皆様は、第一話から読み直して頂き、最終目的を推測しながら近未来の世界観を楽しんでほしい。家屋に永遠を追い求める場合、どのような要素が必要とされるのか。本作は思考実験の楽しさに満ちた作品なのだ。

近未来へ

この作品をきっかけに全ての建築物の陰に建築診断士が存在していることを意識するようになってほしい。建築には様々な楽しみがあり、解像度を高めることで日々の路上観察にトマソン的な味わい方を加味することができるようになるはずだ。

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ディッグアーマーさん、完結編をお待ちしております。:)

以上です。

本記事は私設NOTE推薦祭りの参加記事です。

#小説 #近建診  #近未来小説  #note推薦文

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