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【劇画パーマン】『ブライトバーン/恐怖の拡散者』(2019年の映画)

*お詫び:ちょっとだけ結末後のネタバレが含まれます*

よく来たなお望月さんだよ。『ブライトバーン』を観てきたよ。

一般的に善性とされている「ヒーロー」に「悪の本能」が芽生えたら?

という有史以来数千回繰り返されてきたありがちな設定をなんか全く新しい発想みたいな顔して送り込んできた映画です。

◆陳腐でありふれた設定

いいですか、このような卵を立てたコロンブス気取りの設定逆転や斬新な発想は「生き残ってこなかった」だけなんです。大抵のことは先人が爆発四散させています。

対しておもしろくなるわけがない。どうせ幼さのコントロールを身につけたり、改心したり、少年ゆえの慢心を突かれたり、真実の愛に目覚めたり、ブライトバーンガン細胞とか「母なる証明」になるんだろ。

というわけで公開初週にめちゃくちゃワクワクしながら観てきました。

◆子離れという名の牢獄

序盤は思春期が訪れた少年ブランドンに苦労する両親(養父母)の苦悩が描かれていきます。子作りに悩んでいた時期に宇宙から降りてきた特別な赤子を農場で穏やかに育てる。(例のヒーロー)と同じ境遇の二人はブランドンを懸命に守ろうとします。

カンザス州ブライトバーン村というド田舎ならではの粗野なマチズモや意味ありげな視線の保安官等が「本日のおしながき」みたいに登場しつつ、夢遊病や性の目覚めについて語り合いながら家族の結束のためにキャンピングする等の穏やかな展開が訪れます。

◆ブライトバーン村のブライトバーン太郎

やがて12歳になり隠匿された宇宙揺籃器に接触したブランドンは、本来の「悪の本能」へ目覚めていきます。

「己が特別であり」「全てを奪う」と刷り込まれたブランドンは少年らしい持て余した性衝動をどうしたらよいかわからないままウロウロしはじめます。《怪生物ブライトバーン太郎》の誕生です。

物語としては「ブライトバーン太郎」という愛称から想像されるものから逸脱しません。

特徴的なのは「親の教育が悪い」という方向にはなっていないところですね。

ありがちな「理想的で自由な個性を伸ばす教育」がわがままさを増長させる、
みたいな展開ではない。
「過度なポリコレ思想によりちょっとした悪を許せなくなる」というUSDXマン的なものでもない。

無垢な子供を曲げる理想的な教育はゆがんでいる!!みたいなメッセージ性はぜんぜんありません。純粋に別の本性を持つ異生物として描かれているところに好感が持てます。

少しだけエクスキューズがあるとすれば、ライフルをしごきながら性の目覚めを肯定する父親や自筆のサインをほめる母親くらいですかね。

◆惨劇の因果が薄い。

そんなわけで皆さんお待ちかねの惨劇シーンです。お品書き通りに「ぼくと家族に危害を加えるやつ」を排除して……ウーーン? 違うなコレ。完全に愉しんでるヤツですねコレ。

学園生活やそれに伴うカーストの逆転現象(ありがち)とかも薄く、ちょっと物足りない。(妖怪パソコン開け閉めは笑った)

ムカつく悪いやつをもっと悪いやつが懲らしめるのがダークヒーローの醍醐味ですが、完全に愉しんでやっているのでブライトバーン太郎に感情移入できる余地がありません。完全に異生物。

◆弾ける低予算アクション

そんなこんなでお決まりの展開で色々あって実家が燃えるのがクライマックスです。舞台は小規模な田舎町に限定されていますが、巻き起こる惨劇は地方予選のそれではありません。

ブライトバーン太郎がうごけば電気が爆発してビームは鉄板を穿つ。自動車を持ち上げる腕力と瞬間移動にしか見えない速度、そして生まれてから血を一滴も流したことのない肉体。

それが、カメラを振ると急にいる、空でぬぼぉーっと突っ立っている、照明がついたり消えたりする、足だけが見えてそれがふわふわ浮いている、等の低予算アクションとしてまんべんなくお見舞いされます。

引きの画でスペクタクル破壊CGドーン!ということはほぼありません。

自分でも撮れそうな、会いに行ける怪物、良い感じに独自の存在感を持っています。

◆そして「バッド ガイ」

そんなわけで色々あって何事もなく事件は終了。

数々の伏線やエモ要素を敢えて無視したドライな作風です。意図的に感動させようとする製作者側の色気すらを除外しようとしている気がします。幕を下ろしたときは「アメ喰えよ!」と思わず劇場で叫びました。

と思ったら、エンドロールでストーリー展開が急加速。おそらく観客がもっとも見たかった場面がドコドコ生えてきます。本編が終わったのでクリスマス商戦が終わったプリキュアみたいなことになっています。ハハ、ファンタスティックな。

そして、世界各地に出現する……という場面が(たぶん)『BvS』のオマージュになっていて爆笑。【妖怪まだ決めてません】をメンバーに加えるんじゃあない!

エンディングテーマはビリーアイリッシュの少年とも少女ともつかない幼いハスキーボイスがキマっている「バッド ガイ」これが本当によくキマってるんだ。

というわけで、改めて完全に終了。

ジャンルとしては、ちょっと画期的だけどそうでもない予定調和の物語がスーと終わり、エンドロール後に急激に話が動き出すという「スカイライン・征服」が近いと思います。主題歌の良さもあり、エンドロール後にいきなり元が取れた不思議な作品でした。

映画の最中より観終わった後のほうがおもしろい奇妙な作品でした。ふしぎ!

ブライトバーン太郎の歌



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