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『全ての冒険者よ、殺人者(エンターテイナー)であれ!』

俺は今、日本の湖水地方である裏磐梯で新築の英国式キャッスルを見上げて呆けている。SO30周年記念パーティの招待状を読んだ時にも薄々勘付いていたが、黒蔦男爵(バロン・ブラックストラングル)は完全にいかれちまったらしい。

城内に入ると甲高い声に呼び止められた。「よおケンゾー!」腹の突き出た小男である。「ミストラルか!」「”黒髪の剣士”がハゲたな」「お前こそ美形エルフの腹かよ」「ガハハ!」

「あんた達、相変わらず私を放りっぱなしなのね」「姫!相変わらず社長に貢がせてるのか?」「アイツとは離婚してやったわよ!」SOのサービス開始時からプレイしている美魔女が胸を張る。

「ん〜?また俺の噂話か〜?」気だるげな長身の男が輪に加わる。「社長!毎日Twitter見てるぜ!俺にも百万円くれよ」「知ってるか?愛と友情は金じゃ買えないんだぜ」拳での挨拶、ピシガシグッグッ。「爺様は?」「先に入ってるってさ」

10年間の隔たりが溶けるように消える特別な間柄。俺達はサービス開始30年を迎えた老舗オンラインゲーム『SUPREME ONLINE』のギルドメンバーである。

エントランスに二つの扉がある。赤か青か。後から来た若手ギルドは青い扉に吸い込まれていく。「爺様なら」「当然赤だろう」SOでの赤は殺人世界の色だが俺たちはぬるい世界には生きていない。世界最強のギルドだからだ。

壁に刀槍が掛けられ松明が灯る赤絨毯の謁見の間には歴戦の顔ぶれが並んでいた。あの有名MMOのプロデューサーもいる。壇上で製作者の黒蔦男爵が宣言をする「君達こそが我が理想の体現者(アバター)だ。この場で30年間のお礼をしたい」周囲を見回し「全ての冒険者よ、殺人者であれ!」と決まり文句を叫ぶ。

直後、プレイヤー側から松明が足元に投げ込まれ黒蔦男爵が直立炎上した。まるでサービス開始1年目の【焼殺事件】の再来だ。

「じゃPK開始ね」

壁の短刀を手に社長が呟いた。

《つづく》

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