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『LOST ODYSSEY/ロストオデッセイ』(2007年 XBOX360用のRPG)

よく来たなお望月さんだよ。今日は重い腰を上げて積みゲームを崩そうとしたら重量物に押しつぶされた話をする。

『ロストオデッセイ』(2007年 XBOX360用のRPG)

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おまえは五分に一度、重松清にエンカウントするRPG『ロストオデッセイ』を知っているか?

『LOST ODYSSEY/ロストオデッセイ』とは、ファイルファンタジーの坂口博信、植松伸夫、キャラクターデザインにスラムダンクの井上雄彦、作中小説に重松清、主演に"ナイトヘッド"トヨエツという2007年当時では他に望むべくもない座組で提供されたJRPGである。従来型のRPGというのは座組で全てが決まる「作品性」の世界であり、本作はその最高峰の一つとして位置づけられている。

あらすじはこうだ。

隕石衝突で何十万人も死んだ戦場でひとり生き残った不死者カイム(トヨエツ)が首都に戻り戦況を報告して宿屋で休息をとる。

ここまでの実プレイ時間は20分というところだ。この間の戦闘は戦場での数回のみ。設定が近いファイナルファンタジーVIで言えば「ナルシェ炭鉱に魔道アーマーが到着したかどうか」というところだと思う。

襲撃する重松清

オープニングイベントを終え、不死者カイムが新たなる目的へ向かうために宿屋で休息をとることになった。宿屋のカウンターを見たカイムの脳裏に千年の記憶が蘇った──

数百年前、かつてこの宿屋を訪れた時の話だ。不死者(イモータル)カイムとは異なり人類(モータル)の人生はあまりにも儚い。宿屋の娘は幼くして死んだ。カイムは彼女に冒険の旅を"激しいいくさの話はカットして"伝えて楽しませてやり、一度も宿を出たことがない少女に「お前は旅に出る。また会おう」と伝えて看取ってやった。カイムは死ぬことができない。何度も繰り返された嘘だ。カイムの胸に去来するものは

まさに本作品の本質を伝えるような文章にエンカウントした。ゲームとは、RPGとは、物語とは、まさにこういうものだのだろう。インゲーム小説「千年の夢」執筆者はレジェンド小説家の重松清。千年を生きるカイムの半生を小説で振り返りながら物語を進めていく。意欲的な作品だ。そのときはその程度のものだと思っていた。

再襲撃する重松清

ちょっと移動しただけでカイムの脳裏に千年の夢が蘇る。宿から公園までの移動時間は5分に満たないだろう。

200年前、この街を大地震が襲った。街は「それ以前」「それ以降」に分かたれた。今日は年に一度の陽気な「復活祭」の日。それ以前は「震災記念日」その前は「鎮魂の日」それ以前は……とにかく痛ましい事故は薄らぎ忘れ去られようとしていた。不死者はその地震で妻子を失っていた。だが人々は陽気だ。酒場の主人は不死者に警告する。めでたい祭りの日だから許すけど「震災を経験した」とか、あまりホラを吹くなよ。不死者は苦笑しながら酒場を後にして払暁の街を眺める。やがて店を閉めた主人や人々が集い「祈り」を捧げ始めた。時が過ぎ形が変わっても、そこには鎮魂の願いがあり、200年前と変わらぬ花が咲き誇っていた。【了】

凄まじかった。大惨事から数百年、当事者がいなくなり祭事の意味が変わったとしても鎮魂の意思は根底に受け継がれている。重松清氏の作品にも登場する受け継がれる意思や家族のつながり、そのようなエッセンスが十分に含まれている。

公園での濃厚な時間を過ごし、首都のモノレール駅へ移動した。(滞在は小説タイムを除き5分に満たない)そこでベンチに座って談笑する親子連れを見かけたことでカイムの脳裏に千年の夢が蘇る。

数百年前。カイムが八百屋のお兄さんとして働いていたころ、商店街にうそつきの娘がいた。母は病死、父は出稼ぎから帰ってこない。そのような状況で娘と他者を繋ぐものは「ウソ」だけだった。騙されたふりを続けるカイム、分かっていてもウソをつきつづける娘。二人のぎこちない関係にやがて変化が訪れる。

最初の町を歩きイベント進行を進める。次の目的地が定まったタイミングで居酒屋へ向かう不死者カイム。バーカウンターで酒を飲む戦士を見かけたことでカイムの脳裏に千年の夢が蘇る。

不死者カイムが酒場で出会った男。彼は三年間の戦争を生き抜いた勇者だった。家族と会うのが怖い、俺は三年間も人を殺し続けたのだ。そう言って苦い酒を飲む男をカイムは叱咤する。
「帰れる場所があるなら帰れ」
「そうだな、俺は殺した数だけ人を救うよ」
酒場を後にするカイムをチンピラが狙う。酒場でカイムに恥をかかされたことに逆上したチンピラが不死者カイムへ銃口を向ける!そこへ飛び出し代わりに銃弾を受けたのは勇者だった。よりによって不死者の身を守った勇者。
「どうだ俺は人を救ったぞ。これで家族に、娘に……」
カイムは勇者に礼を述べ家族への思いのこもった石をその手に握らせてやった。【了】

泣いた。勇者の人生とは、贖罪の意味とは。千年を生きる不死者にとってその程度の殺人や食材は大河の一滴にも満たない。贖罪がなされたというのは気休めのウソだ。カイムはまたひとつウソをついた。不死者は死ぬまでウソをつき続けなければならない。

ちょっとうろついただけでこの調子だ。おまえは五分に一度、重松清にエンカウントするRPGを知っているか? これがそれだ。

じっくりと腰を据えて向き合うべき作品なので、皆様にもオススメです。

未来へ

ここまでのプレイ時間は2時間30分。実プレイ時間は30分にも満たない。重松清の襲撃に我を忘れて狼狽している。この調整で最後までプレイを続けることはできるのだろうか。また、通行人に話しかけたら千年の夢から目覚めてしまうのではないだろか。恐ろしい、きっと奴は道端の空缶からでも記憶のかけらを拾ってくるぞ……!!

プレイ記録は随時更新予定です。


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