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『HDD"処刑人"の帰還』

平成三十一年冬。神奈川県で重大インシデントが発生。廃棄HDDの転売により官公庁秘匿情報が闇へ流出したのだ。

あらましはこうだ。官公庁が契約したリース業者から廃棄されたハードディスクがデータを物理破壊されることなくオークションへ転売されそれにデータ復元ソフトを使用することでデータの未抹消が明らかになったのである。

この事件は氷山の一角であると誰もが理解していたが火種を広げることを恐れ口に出すことはなかった。だが、もはや守秘義務を結んだ廃棄業者であっても信用することはできない。データ防衛は冬の時代を迎えた。

帝京都ネオ田無区。港湾ビジネス街にそびえる第三十八田無タワーレジデンス99階。いまやGAFAを脅かす位置まで上り詰めたある企業の若き社長は苦虫を噛み潰したかのような表情で眼下のメガロシティを見下ろしていた。

「IT革命の亡霊め……!」

旧本社、第二田無タワーオフィス棟地下四階社史編纂室の扉が十年ぶりに開く。厚さ60cm鋼鉄製扉がもうもうと埃を巻き上げるとHDDクラッシャーに置換した異形左腕のシルエットが姿を現した。

「まさか、また俺の出番が必要になるとはな」

彼こそが"処刑人"。その本名は社員証にしか刻まれていないという。20年前のIT革命戦争期に数々の処刑を行ったが、10年前の社内クーデターをきっかけに閑職へ追いやられ社史編纂室で埃をかぶっていた偉丈夫だ。

「私がご案内いたします」

長身でスーツ姿の若い女性職員が処刑人を出迎える。

「貴方は48時間限定で禁固を解かれました。社長付特務主任として……」

あくまで冷徹に業務辞令を伝えようとする女性にある面影を見て取った処刑人がそれを遮る。

「お嬢ちゃんか、大きくなったな!」

瞠目して処刑人を見据える女性は絞り出すように説明を続ける。

「我が社の、データ廃棄、は、社会の存亡を」

「説明はいいよ。おじさんに任せな」

「あ……兄を助けてください!」

トレンチコートをひるがえし、左腕を掲げ背中で応える処刑人は懐からマイルドセブンを抜き取り火をつける。

「おじさま!現代は社内禁煙です!」

苦虫を噛み潰したような顔で火を揉み消すと男はエレベータの中へ消えた。

平成三十一年冬。
HDD抹消戦争勃発。
時代遅れの"HDD処刑人"が今再び戦場へ立つ。

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