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医師の働き方改革と生産性向上に向けたテクノロジー・ICTの活用

こんにちは。Ubie PRチームです。目まぐるしく変化する医療業界の「いま」と「これから」をお届けするマガジン「オープンファクトブック」をスタートしました。医療業界で今起こっていることや、医療業界を知る上で欠かせないキーワードなどを解説していきます。

第1回のテーマは「医師の働き方改革」です。Ubieはこの課題と向き合うべく「ユビーAI問診」を2018年8月にリリースしました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴い、この1年で急速に進んだ「働き方改革」。一般企業ではリモートワークなどニューノーマルな働き方が定着しつつあります。同様に、医療業界でも医師の働き方改革が本格始動しようとしています。

2024年から始まる医師の時間外労働の上限規制

2019年4月施行の改正労働基準法により、一般労働者は時間外労働上限が「年720時間以内(休日労働は含まない)」に規制され、違反した使用者には罰則が科されるようになりました。ただし、医師については上限規制の適用が2024年4月まで猶予されています。

2019年3月、厚生労働省にて「医師の働き方改革の推進に関する検討会」が開催され、医師の時間外労働規制の方針が固まりました。A、B、Cと3つの水準を設けて、それぞれで時間外労働の上限が定められるというものです。

検討会では、すべての医療機関において原則「年間の時間外労働960時間以下」を目指すことが掲げられました。これがいわゆる「A水準」です。「年間960時間」は、脳・心臓疾患の労災認定基準となる「過労死ライン」と呼ばれています。

医療においては
①不確実性(患者の急変等は完全に予見できない)
②公共性
③高度な専門性
④技術革新と水準向上
という特殊性から、「当面、一般労働者よりも長い労働をお願いせざるを得ない」との判断に基づくもので、検討会は「将来、一般労働者と同じ水準を目指す」としています。

ただし、「3次救急病院(高度な救急医療を提供する病院)」や「年間に救急車1,000台以上を受け入れる2次救急病院(24時間体制で救急患者を受け入れる病院)」など地域医療の確保に欠かせない機能を持つ医療機関で、労働時間短縮等に限界がある場合には、2035年までの期限付きで医師の時間外労働を年間1860時間以下までとすることが決まりました。いわゆる「B水準」です。

さらに、研修医など短期間で集中的に症例経験を積む必要がある場合には、時間外労働を年間1860時間以下までとすることも決まりました。こちらがいわゆる「C水準」です。

現在は、B水準に値する医療機関の特定や、ひとつでも多くの医療機関がA水準でいられるような支援策の普及が進められています。前述のとおり、B水準は2035年に廃止予定で、C水準も将来的に縮滅方向で進められます。

4割の医師が上限超え。医師たちの過酷な労働の現状とその理由

はたして、この労働時間上限はどのくらい厳しいものなのでしょうか。

2019年9月に厚生労働省が実施した「医師の勤務実態調査」では、A水準(休日含め年間960時間)を超えた勤務医は37.8%。さらに上位10%は、年間1,824時間を超える時間外勤務であると判明しました。このままでは4割近い医師が罰則の対象となってしまいます。

医師たちはなぜ、それほどまでの時間外労働を強いられているのか。それは日本の医療制度を支えるフリーアクセスの維持を目的とした応召義務(診療行為を求められたときに、正当な理由が無い限りこれを拒んではならないとする医師法・歯科医師法で定められた義務)が大きく影響していると言われています。世界には登録した医療機関を最初に受診しなければならない国もある中、わたしたちは制限を受けずにどこの医療機関でも、どの医師にも自由に診てもらえ、医療サービス(治療)が受けられます。これがフリーアクセスです。

患者にとっては心強い半面、医療従事者にとっては負担が大きいのも事実です。たとえば、救急搬送を含め時間外での診療が必要な患者の対応、所定の勤務時間内に対応しきれない長時間の手術、外来患者数の多さ……医療従事者の献身で成り立っているといっても過言ではありません。

また、カルテ記載などの事務作業の多さも時間外労働に影響しています。アメリカの医師らの研究によると、外来診察が1時間増えると、電子カルテ入力やデスクワークといった事務作業が2時間増えることが判明(「参考・出典」参照)。国内でも、厚生労働省の調査によると、半数以上の医師が時間外労働の主要因は「カルテ作成(事務作業)」であると回答しています。

医師の労働環境改善に向けて

こうした背景を受けて、検討会は医療機関に対し、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」として「労務管理の徹底」「労働時間の短縮」等を進めるよう求めています。具体的には以下の6点です。

1.医師の労働時間管理の適正化
2.36協定等の自己点検
3.既存の産業保健の仕組みの活用
4.タスク・シフティングの推進(医師が「医師でなければ実施できない業務」に特化できるよう、「医師免許を保有していなくとも実施可能な業務」を看護師等の他職種に移管すること)
5.女性医師等に対する支援
6.医師の労働時間短縮に向けた取組

このうち、ユビーAI問診は「タスク・シフティングの推進」を目的に導入いただくケースがあります。実際にも厚生労働省が進める令和1、2年度「タスク・シフティング等医療勤務環境改善推進事業」における補助金の対象にもなっています。

21年4月時点で全国350施設以上の医療機関での導入実績があるユビーAI問診ですが、業務効率化やタスク・シフティングでは以下のような事例があります。

【事例1】
京都府の武田総合病院では、およそ30%の診察時間効率化を実現

導入直前1週間と、導入直後1週間での平均診療時間を比較すると、導入前1週間における平均の診察時間は12分18秒、導入直後1週間における平均診察時間は8分41秒と、平均して患者一人あたり3分37秒(29.4%の診察時間)の診療時間を削減。1日10~15件ほどの初診患者=AI問診の対象患者がおり、1日分を合計すると約40分の削減、5日で約200分の診療時間が削減できています。総合診療科・内分泌科の中前 恵一郎 先生によると、外来看護師の業務負荷も軽減されているとのこと。

【事例2】
岡山県の岡山旭東病院では、業務効率化により患者の滞在時間を20分以上削減

問診が必要な初診患者について、導入前と導入後で比較した時に、受付~診察までの待ち時間は3.5分(53.4分→49.9分)、受付〜会計までの滞在時間は21分(189分→168分)削減されました。土井 英之 副院長によると、受付時の対応改善、医師の診察時間短縮、看護師の業務負担軽減、医師事務作業補助者による記載業務など、複数の面での改善が見られているようです。

まとめ

いよいよ3年後に迫った医師の時間外労働の上限規制。医療現場ではコロナ対応と並行して労働環境改善が求められています。

他業種ではテクノロジー、とりわけICTを活用した業務効率化が進んでいます。たとえば、名刺管理でSansan、労務管理でSmartHR、営業管理でSalesForceなどのツールを導入している企業は増加の一途をたどっています。医療業界でも、医療従事者の生産性向上・労働環境の改善にテクノロジー・ICTの活用が一役買うことが期待されています。

次回は、医療業界を知るうえで欠かせない「医療機関の定義と機能」をご紹介します。ご興味ある方はマガジンをフォローしてくださいね。

参考・出典

『医師の働き方改革に関する検討会 報告書』 
厚生労働省 医師の働き方改革の推進に関する検討会(2019年3月)

『医師の働き方改革の推進に関する検討会 中間とりまとめ』
厚生労働省 医師の働き方改革の推進に関する検討会(2020年12月)

『日本の医療保険制度の優れた特徴』
日本医師会ホームページ

『Allocation of Physician Time in Ambulatory Practice: A Time and Motion Study in 4 Specialties』
Annals of Internal Medicine(2016年9月)

『医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組』
厚生労働省 医師の働き方改革の推進に関する検討会 (2018年2月)

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