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次世代医療基盤法の改正案、研究開発へのデータ活用促進に期待

こんにちは、Ubie株式会社でPublic Affairsを担当しているmoeshiと申します。

Ubieでは継続的に社員が発信するアドベントカレンダーを実施中ですが、その一環として現在審議中の法律案の解説記事を書いてみました。事実関係をなるべく簡潔にまとめたので、#オープンファクトブック として公開します。

Public Affairsって何?moeshiって何者?と思う方はぜひここらへんの記事もお読みください。

PAは、平たくいうと公共政策渉外というやつで、その活動の一環として関係しそうな政策や制度の調査なども担っています。
弊社はヘルステックスタートアップなので、やはり医療DX関連の調査を行うことが多いです。

医療DXは今や国の根幹となる大きな政策として動いており、マイナンバーカードの保険証利用など皆さんの生活に直結するところでも様々なことが進んでいます。

今回は、先日3月3日に次世代医療基盤法の改正案が閣議決定されたので、勉強がてらこの改正案について書いてみたいと思います。
医療DXやPA、法律関係の仕事に関心のある方の参考になれば幸いです。

1.次世代医療基盤法って何ぞや?

今回閣議決定されたのは改正案ということで、元となる法律があるわけなので、まずはこちらからご紹介します。

正式名称は「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」といい、その名のとおり研究開発のために匿名加工医療情報を使えるような仕組みを作ろう!という法律の中身になっています。

医療機関や自治体が保有している患者さんの医療情報(※)は、例えば氏名・生年月日等の一般的な個人情報以外にも、既往歴・処方歴・検査結果・診断の情報など、いわゆる「要配慮個人情報」と呼ばれるものが多く含まれています。

(※)この法律上の医療情報の定義では、「特定の個人の病歴その他の当該個人の心身の状態に関する情報であって、(略)」とされており、医療機関内部の情報や医師名等は含まず、患者さんの情報を指しています。

要配慮個人情報は、個人情報保護法において、第三者提供する場合には本人の同意が必須要件となっているので、以前は医療機関や自治体が患者さんの情報を持っていても活用できない状況にありました。

そこで、個人情報保護法の特例として、患者さんの同意がなくても、法律に基づく仕組みに則れば医療情報の活用ができますよ、という趣旨でできたのがこの次世代医療基盤法です。

具体的には、医療情報を匿名加工化した上で研究開発に活用できるようにする、というものですが、この「匿名加工化」というのがポイントとなります。

次世代医療基盤法に定められている「匿名加工医療情報」は、元データが医療情報ではありますが、加工の程度は個人情報保護法にいう「匿名加工情報」と同じで、個人に関する情報等を削除することで加工元となった情報を復元できないようにすることが要件となっています。

匿名加工化されれば、元になった情報の保有者(個人)が絶対わからないので、研究開発目的であればどんどん使って良いでしょう、ということになっているわけですね。

ただ、もちろん医療情報を匿名加工する主体は医療情報(=要配慮個人情報が含まれる情報)を取り扱うことになるので、国の厳しい基準をクリアして認定された主体のみが実施可能とされています。この認定された主体のことを「認定匿名加工医療情報作成事業者」といいます。
長いので便宜上本稿では「匿作事業者」と書きますね(正式な略称ではないのでご注意ください)。

匿作事業者になるための要件は、責任者の配置や中長期計画、審査体制の整備等多岐に及びます。
詳細はガイドラインを見ていただければと思いますが、なかなか一般的な企業が匿作事業者になることはハードルが高いな、という印象です。
実際に、この匿作事業者として認定された主体は一般社団法人又は一般財団法人の3件のみとなっています。この認定された主体が我々患者のデータを安全に加工して利用できるようにしてくれているわけです。

(内閣府健康・医療戦略推進事務局資料(2022年10月公表))

 2. 今回の改正は何のため?

さて、ここまでは現行法のお話をしてきました。
患者のデータが匿名加工されて安全に使えるなら良いじゃん!というお話ではありますが、では今回の改正で何が変わるのでしょうか?

ごく簡単にいうと、これまで匿名加工でしか利用できなかったデータが、仮名加工で利用できるようになります。要は加工要件が緩和されます。

これ、実はかなり画期的なことです!
先に書いたとおり、匿名加工の要件は「加工元となった情報を復元できないようにすること」なので、例えば年齢を年代にまるめたり、エッジケースとなり得るような情報を落としたり、その他何か別の情報と突合した場合に本人の推定につながりうる情報を削除したりなどの対応が必要でした。

他方で、仮名加工情報は「他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように加工した個人に関する情報」であるため、当該データ単体で個人が特定できないかどうかを気にすればよい、ということとなります。
つまり個人は特定できないという面では同じですが、もう少し個別具体の事例データとしての取扱いができるようになり、研究開発のベースとなるデータとしての利用価値がぐっと高まることが期待されています

ちなみに、法律名もこれにあわせて「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報及び仮名加工医療情報に関する法律」に改められる予定です。

ここまで読んで、「え、もしかして自分の医療情報がそのまま流通してしまうんじゃ?」と思ったあなた、ご安心ください。
安全に仮名加工医療情報が活用されるための規定も色々と追加されています。

ひとつは、匿作事業者と同様、仮名加工医療情報を作成する事業者は厳しい国の基準による認定を受けることが必要となります(認定仮名加工医療情報作成事業者といいます)。

また、仮名加工医療情報は、匿名加工に比べて加工要件が緩和されていることから、匿名加工医療情報を取り扱う事業者に特段の制限がないことと異なり、これを利用する事業者も国の認定が必要とされています。この認定を受けた事業者のことを「認定利用事業者」といいます。

認定利用事業者の要件については省令で定めることとされているため詳細はまだ出されていませんが、安全にデータを活用するために、①再識別の禁止や②不正利用に対する罰則等が適用される予定です。

なお、個人情報保護法上の仮名加工情報は企業内での分析・開発での利用を想定しているため第三者提供が禁止されていますが、次世代医療基盤法における仮名加工医療情報については、この特例として、認定仮名加工医療情報作成事業者から認定利用者への提供に限り認められることとなっています。

(内閣府健康・医療戦略推進事務局資料(2022年10月公表))

 おわりに

今回は次世代医療基盤法について調べてみましたが、このほかにも政府は医療データの集約・活用に向けた取組を様々進めています。

医療DXはまさにこれから大きな展開を迎える局面にあり、伸びしろ満載の業界です。
こうした制度や市場環境の波に乗りながら、いかに効果的に人々の健康に貢献していけるかということを日々考えて仕事をしていくのは本当に刺激的で楽しい環境だなと実感しています。

これからもUbieでは医療業界や医療DX関連の色々なトピックを調査・公開していければと思います。

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