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東京への引っ越しのお知らせと、それにあわせての雑感(たまにはこういう話も)

 ミステリ作家の鵜林伸也です。

 もろもろ決まってきたので、お知らせを。来月、東京に転居することになりました(先日の弾丸東京行きは家探しでした)。
関西に愛着があり、かなり悩んだのですが。決め手の一つは「ネクスト・ギグ」がこのミスでランクインしたことでした。前から検討はしていたのですが「今、ここで勝負すべき」と。
 大阪東京間は交通手段も多くありますし、自分自身、長距離移動は苦にならないタイプです。とはいっても、やはり移動に手間はかかる。打ち合わせや販促、顔つなぎなど、どうしても東京のほうが便利。関西に繋がりは多く、実家も関西にあるので、頻繁に帰るつもりはしていますが、拠点は東京になります。

 この機会に、たまにはちょっと語っておきますね。
 去年一冊出しただけ、しかも東京へ引越しってどうやって稼いでるんだ、と思われるかもしれませんが、実はバイトしてます。近所のファミレスで。じゃあなんでそれをこれまで言わなかったか。
 理由は簡単で、好きじゃないんですよ、貧乏自慢や苦労自慢が(たまに、ということで語っているので、ご勘弁を)。それに、夢がないじゃないですか。小説家やってます!生活費はバイトで稼いでます!って(アルバイトしながら作家をしている方を否定する意図はありません、念のため)
 五年ほど前、兼業作家でやっていくことに限界を覚え(これも気が向けばそのうち詳しく書きますね)、プラネタリウム解説員を辞めたわけですが、小説家としての収入はほぼなく、すぐに貯金は底をつきました。いつ単行本が出るか分からない、お金はない、というあの頃が、精神的には一番きつかったです。
 お金がない惨めさ、って本当にしんどいです(半ばそれを経験するためあえて自分をそっちに追い込んだ面もありますが)。自炊生活を始め、一時期は一月の食費が一万円を切っていました。近所に複数のスーパーがあるんですが、あるところでもやしが39円だったんですよ。ですが歩いて五分のスーパーには29円で売っています。「高いし、もやしだけそっちが買うか」と思った次の瞬間、「うわー、自分病んでるな」と痛感しました。10円をケチって往復10分。その思考が病んでいる。1000円以上の食事や買い物にどれほど躊躇したか(それでも本だけは買っていましたが)。
 貧乏話はまだネタがいくらでもありますが、控えます(貧乏自慢はやめましょう)。とはいえ「ネクスト・ギグ」一冊ではそんな経済状況が劇的に改善されるわけもありません。という中での東京引越しです。かなり家賃の安いところを見つけはしましたが、じゃあそのお金はどこから出てきたのか。
 母方の祖母が存命なのですが、実はこっそり孫名義で預金通帳を作っていたんです。遺産とか相続とかっていうほどの額じゃありませんが。ただ、正直に言うと、それに手をつけるのには躊躇いがありました。小説家という博打な仕事を自分の我がままでさせてもらっているのに、他人のお金に甘えるのか、と。
 言ってしまえば意地のようなものですが、それも捨てました。意地というか人間としての尊厳というか。そういうものは、大事です。しかし僕にとってそれ以上に大事なのは「いい小説を書くこと」であり、そのためには、東京に住むことが不可欠でした。だったら、意地なんてどうでもいいことです。
 念のため補足。東京に住まないといい小説が書けない、という意味ではありません。しっかりとした力のある作家さんなら、地方在住でも素晴らしい作品が書けるでしょう。しかし、自分は力不足だった。東京に住みこまめに面倒を見てもらう必要がある。それだけの話です。

 なにが言いたいのかよく分からなくなってきましたが、結論だけ言うと「頑張ります」ってことなんですけどね。散々愚痴っておいて言うのもどうかと思いますが、お金も意地も、小説を書くことに比べれば些事ですよ。ただ、そのためにも、お金の心配なく小説に打ち込める環境がほしいのはたしか。
 みなさんに楽しんでいただけるような作品を頑張って書きますので、よかったら買ってやってください。いや、2000円が高いというのは(ここまで語ってきたとおり)よく分かります。だから、絶対に買え、とも言いません。買おうか迷っていたなら、買ってほしい。読むかどうか迷っていたなら図書館で構わないので読んでほしい。特に読む気もないなら、固定ツイートをリツイートするだけでも構わない。あなたが「鵜林伸也」というコンテンツにかけるリソースの10%ましぐらいで構わないので、かけてほしい。それがきっと、小説という文化を守り育てることになると思うので。

・こういう話は、「ネクスト・ギグ」での成宮さんの話に通ずるものがありますね(まあ作者自身が思っているからこそ、登場人物が語ったわけですが)
・引っ越しを機にたまにはこういう話も、という語りですので、貧乏話や苦労自慢は今後とも控えます。
・余談ですが、保証人の審査の際、「小説家です」と名乗りました。収入はぺらぺらなので審査が通るか不安があったのですが、向こうで検索をかけたらしく「『ネクスト・ギグ』ですね」と反応がありました。おかげで審査も簡単に通過。単著があるって強い(笑)

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