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読書記録『角野栄子の毎日いろいろ』角野栄子

以前は憧れの女性といえば、同年代か少し年上の人に憧れたものだが、ここ数年、自分より2~30歳も年上の人に憧れを抱くようになった。
『魔女の宅急便』で知られる作家の角野栄子さんもその一人。
80代の今も好きなモノや色に囲まれて一人暮らしをされている、その場所が鎌倉であるというところも強く惹かれる理由かもしれない。
「鎌倉」という、私にとっては憧れ以外なにものでもない街を気ままに散歩しながら、お気に入りの服を着て、ヴィヴモン・ディモンシュでコーヒーを飲み、スワニーで生地を選んで服を仕立てるという・・・これはまさに理想。
もちろん、超一流の作家さんであるからこその現在の暮らしであろうし、誰彼真似できるものではないだろうけれど。

自分が40代に乗っかった頃は、その年齢に対するイメージや肉体的な変化のきざしが嫌で嫌で仕方がなかった。
それから10年とちょい、今も、いやそのころ以上に、老いていくことへの不安はある。
それでも最近は、ただただ抗うだけでなく、少しづつでも老いに向き合う気持ちが自分のなかに芽吹き始めたような、予感のような何かを感じる。
80代の女性に素直に憧れを抱けるようになった心境の変化もそのひとつかもしれない。自分の心がなにかこう“進化”しているような気もして、その変化がちょっと嬉しかったりする。

『角野栄子の毎日いろいろ』角野栄子 角川書店

2017年に発売されたこの本。角野さんの暮らしの一部を垣間見られて、文章を読むことはもちろん暮らしを彩るカラフルな写真の数々も見ていて楽しい一冊なのだが、最後に特別収録されている掌編小説「おいとちゃん」がとても素敵だ。

“確か八十と五つ”のおばあちゃん・・・「おいとちゃん」は毎日編み物をしていて、昔のことを思い出しながら“せがれ”にだぶだぶのセーターを編んでいる。

あ!・・・・と、以前、母親が編んでくれた白いベストを思い出した。ちょっとばかりだぶだぶで、当時の私には正直受け入れがたいデザインだったことから、ずうっと冬物の衣装ケースの底に置き去りにしていた。
「おいとちゃん」は、まだ“坊や”だったころのせがれを思い出しながら「セーターはだぶだぶがいいね」と編み物をする。そんな物語を読んでいたら、どうにもこうにも涙腺がゆるゆるとしてきて、この“置き去りのベスト”を引っ張りださずにいられなくなった。
そうして引っ張り出してみたら、これが意外にも悪くない。
当時は着る気になれなかったデザインも、今なら余裕で着こなせそうな気がしてくるから不思議だ。
丁寧に洗いをかけて、今年の秋はこれを着てみようと思う。

角野栄子さんの魔法の威力にちょっと驚く。
今年もニットを着る季節がもうすぐ来る。日々の暮らしが少し楽しくなりそうな予感にワクワクしている。


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