『永遠の昨日』榎田 尤利

隣に歩いていた大切な人が事故に遭い、死体になる。
何事もなかったように起き上がり動いて喋っているが、心臓は動いていない。

けっこうとんでも設定だなと思いながら読み始めたが、
徐々に徐々にこの状況を理解できるようになる。

浩一がクラスの人から認識されなくなるあたりから、心をぐぐぐっと持っていかれて、すっかり感情移入してしまった。

クールでポーカーフェイスなみっちゃんのめくるめく心理描写。
この大量のモノローグが、読者の心を掴む。
次第に周囲に忘れられていく浩一を自分のことのように悲しみ、事故にあわせたことへの怒り、やがてすぐやってきてしまう別れへのやりきれない想い。
変わらない昨日を望んでいただけなのに。

想いが強い故に引き止めてしまう。離れたくなくて留まってしまう。
急に事故に遭ってしまったら、お別れも言えない。
死者側へ引っ張っていってしまうような話や亡くなった人が蘇って会いに来る話はあるけど、こういう描き方もあるんだなと思った。

強く惹かれ合う二人。互いを想い合う気持ちが美しくて切実で、永遠に続いて欲しいと思った。

受け止めきれない現実も、身を引き裂くような悲しみもやがて形を変える。
本作は何度か加筆されているらしく、未来のお話が追加されたことによってなんとか胸の苦しさに折り合いをつけることができた。


浩一はいつも俺の左側を歩く。
自分の利き手を俺の近くに置き、急な事態に備えるためだと説明する。
どこからか野球のボールが飛んできたり、無鉄砲な走りの自転車が突っ込んで来た時、俺の盾になるそうだ。

『永遠の昨日』より

浩一の目的は達成され、みっちゃんを守ることができた。
無邪気すぎる願望もドキッとするような台詞も彼らしいと思えるキャラクター描写が見事だなと思う。


実写化された作品は現在MBSにて放送中。
もともとBLは好きだが、
近年映像化される作品が多く、最近はよく原作を読んでいる。
BL作品はファンタジーの世界へ連れていってくれる。
素敵な作品との出会いがあった。



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