詩太(ウータ)
もしもの詩展。|オンライン個展
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もしもの詩展。|オンライン個展

詩太(ウータ)



◾️まえがき◾️

世界中を旅するタウ爺(たうじい)という一人の画家がいる。マントにトンガリ帽子が彼のトレードマークだ。

タウ爺が旅での出来事を書き留めた旅日記の中に興味深い内容を見つけた。ある日を境に物の声が聞こえるようになったというのだ。

タウ爺が体験したその不思議な出来事を一緒に覗いてみよう。

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もしもの詩展(してん)。


20××年 4月7日 「不思議な夢」

昨夜、不思議な夢を見た。大きな一本の樹から話しかけられる夢。「きみはひとりぼっちで生きてるつもりかい?それなら、一年間だけ物の声が聴こえるようにしてやろう。」そんなことを言われた気がする。なんともおかしな夢だった。

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20××年 4月8日 「木漏れ日」

朝、気持ちのいい木漏れ日で目を覚ます。誰もいないはずの窓際から声が聞こえる。まるで木漏れ日が話しかけているようだ。昨夜の夢を思い出した。

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追記、結果的にこの日から不思議な一年が始まることになる。


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20××年 4月10日 「信号とベンチ」

やはり聴こえる。物から声がする。なんだこれは。歩道橋を渡っていると信号の声が聴こえてきた。公園では腰掛けたベンチが話しかけてきた。

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まさか、数日前に見た夢、あれは本当なのか。私は物の声に耳を澄ますことにした。


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20××年 4月25日 「ネモフィラ」

今年もネモフィラの花が満開だ。ネモフィラの声は小さくて可愛い。一緒に咲くのはチームの強さを知っているからだと言っていた。たしかに。でも、私は一輪の美しさがあるからこそのチームの強さだと思う。

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20××年 5月8日 「赤鉛筆」

小学校の先生に出会った。その先生は「赤鉛筆はこどもを褒めるために使う」と言っていた。素敵だな。きっと赤鉛筆も同じことを思ってるだろう。小さな声が聞こえてきたが、この先生には伝える必要はないだろう。

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20××年 5月21日 「筆」

今日は一日中絵を描いた。筆が「手をつなごう」と言ってきた。ただの道具でしかなかった筆がかけがえのないものになった気がした。これから先もずっと手をつなごう。よろしく。

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20××年 6月1日 「傘と雫」

今朝は雨が降っていた。傘をさして出かけた。雨の日は苦手だ。そんな私の気持ちとは裏腹に傘は楽しそうに歌っていた。そうか、傘は雨の日の楽器なのか。そう思うと、雨の日も好きになれる気がした。

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傘についた雫を覗き込むと向こうの景色がひっくり返って見えた。その綺麗な雫が放った言葉が力強くて、背中を押された気がした。

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20××年 7月2日「アイス」

アイスが美味しい季節になってきた。パルムを買おうと思ったら隣の生意気そうなアイスが話しかけてきた。うん、たしかにおゴリまっせは美味しいね。しっとるケも好きだけど。

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20××年 7月24日 「カメラ」

カメラを持った青年がいた。私から見たらなんでもない場所ばかりを写真に撮っている。なぜそんなに写真を撮るのかたずねると「風景と感情はセットだから、風景だけは記録に残しておきたいんです。」と青年は言った。なるほど、カメラから聴こえた声はそういうことか。

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20××年 8月8日 「電球」

物の声が聴こえはじめてから4ヶ月が経った。世界が少しだけ優しくなった気がする。いや、今まで気付かなかっただけなのかもしれない。ひとりぼっちなんかじゃないんだな。

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20××年 9月20日 「風」

まだ暑い日が続いているが、今朝は少し秋の匂いがした。風の声の意味がわからなかったが、風について調べて腑に落ちた。風には約2000種類もの名前があるらしい。昔の日本人の感性は尊い。

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20××年 10月5日 「影」

大きな失敗をした。下を向いて歩いていたら影が話しかけてきた。まさか自分の影に励まされるなんて思ってもみなかった。生まれた時から私のことをずっと見てきた君の声が聴けてよかった。

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20××年 10月11日 「階段」

失敗を取り戻そうと、気持ちは焦り不安は募る。こんなに馬鹿で視野の狭くなった私にさえも、屋上へ続く階段は優しく語りかけてくれた。うん、なんだか頑張れそうな気がするよ。ありがとう。

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20××年 11月1日 「焼き芋」

旅の途中、笑顔の素敵な二人が営む焼き芋屋さんに立ち寄った。そこで食べた焼き芋の味が忘れられない。本当に美味しかった。かわいい焼き芋の声が聴こえてきたが、たしかに焼き芋ほど見た目と味のギャップが大きな食べ物ってあまりないよな。

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20××年 12月20日 「めがねと鏡」

こどものめがねを集めたお店を見つけた。そこで素敵な瞬間に立ちあった。初めてめがねをかけた女の子は鏡の前で「奥まで見える!」と嬉しそうに笑っていた。この表現と笑顔に感動した。めがねの声か鏡の声なのかは分からなかったが、とても優しい言葉も聴こえた。

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その時、女の子が「ありがとう。めがねさん と かがみさん。」と鏡に向かって言った。私は驚いて、君もこの声が聴こえるのかい?と尋ねた。「もちろん きこえるよ!おとなに なると きこえなくなっちゃうの?」と女の子。返答に戸惑ったが、きっとずっと聴こえるよ、君が耳を澄ますことを忘れなければね。そう答えて店を後にした。


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20××年 12月21日 「白線と黒電話とランドセル」

昨日の女の子の言葉が頭から離れない。ちいさなこども達はみんな物の声が聴こえているのだろうか。自分のこどもの頃の記憶を辿ってみた。すると、記憶の中に残るいくつかの声を見つけた。

道を歩くときも、電話をかけるときも、学校に通うときも、そこにはたしかに声があったんだ。どんな時だって決してひとりじゃなかったんだ。

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あぁ、ずっと世界は優しかったんだ。耳を澄ますのを忘れてしまったのは私たち大人じゃないか。物や自然の声に耳も貸さずに壊しているのは大人じゃないか。


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20××年 1月19日 「靴下」

もうどれだけ歩いてきただろう。ずいぶん遠くまで来た。靴下には大きな穴があいた。穴のあいた靴下でさえこんなにも優しく語りかけてくる。

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20××年 2月20日 「マスク」

ある静かな町に来た。人があまり歩いていない。マスクをした村人がいたので事情を聞いてみると、なにやら未知の感染症が流行っているらしい。みんな見えない恐怖に神経をすり減らしながらも一生懸命に過ごしているそうだ。

小さな村なので、マスクがなかなか手に入らなくて困っているとのこと。この状況はマスクにとっても本望じゃないだろうな。なにかできることはないだろうか。

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20××年 2月29日 「ウイルス」

ウイルスの研究所に来た。顕微鏡で初めてウイルスを見た。なんとも言えない気持ちになった。

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20××年 3月21日 「卒業式」

感染症の影響で卒業式ができなかったこども達がいるらしい。お別れしたかっただろうな。卒業式ができないなんて思ってもなかっただろうな。やり場のない悔しさがあるだろうな。

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20××年 4月7日 「空と海」

あの不思議な夢を見てから今日でちょうど1年。明日になったら、物や自然たちの声は聴こえなくなるのだろうか。

最後に海を眺めにきた。今日の空と海の言葉を私は忘れないだろう。

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20××年 4月8日 「靴」

やはり声は聴こえなくなった。昨日までの日々が幻のようで寂しい気持ちもあるが、この一年は私の目に映る世界を豊かにしてくれた。身近な世界の優しさに気付かせてくれた。

もう声は聴こえないけれど、この靴たちは寂しそうな私にきっとこんなことを言ってるだろう。うん、私はもういつだってひとりじゃない。

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物の声が聴こえなくなった今、〝もしも物事に心があったら…”という視点を持つことの大切さを感じている。

私は、それを「もしもの視点」と呼ぶことにした。


もしもの詩展。完


◼️あとがき◼️

この度はオンライン個展「もしもの詩展」を最後までご覧いただきありがとうございました。

もしも、物や出来事に心があったらどんな気持ちだろう?ぼくたち人間にどんなことを語りかけたいだろう?目に見えない、あるかさえ分からない、そんな部分に心を澄ませて詩を書きました。

タウ爺のように〝もしもの視点“を持って過ごすことができれば、ありきたりな日常が少しだけ豊かになるんじゃないかなと思っています。

皆さんのこれからの日々が、豊かで幸せ溢れるものでありますように。願いを込めて。

2020年5月22日 詩太(うーた)


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最後まで読んでくださったあなたへおまけの作品です^ ^

「もしもの視点で見たマグカップ」

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ありがとうございます! もっともっともっともっと頑張ります!!!

詩太(ウータ)
■詩太(ウータ)/キムラシンゴ |詩人・画家|福岡県北九州市出身|1987年生まれ|「穏やかな時間」をテーマに、詩や絵や言葉の創作をおこなっています。| ■著書:「うたうずかんシリーズ 」「傘」「タウ爺の旅日記」◾️https://poet-uta.com