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読書感想「戦をせんとや生まれけむ」

読み終わりました。(発売日に買ったのに今ごろ?)

感想書きますが、内容にはあまり触れないので「この本読もうかな?」と思っている人がこれを読んでもたぶんネタバレとかはないです。

では。

圧倒的「平家物語」感

という微妙な感想から始まってしまいますが、これは自分が大学時代に中世文学専攻で平家物語を読んでたからですね。

気軽に平家物語の重要シーンを再生できて楽しい!と感じてしまいました。すみません、こういう楽しみ方ではないのかも。

ちなみに平家物語は学生時代に何度も読みましたが、今となってはもはや記憶が定かではないです。かつ、源平盛衰記や関連する作品も読んでいてどのエピソードがどのテキストかちゃんと記憶してないので色々適当です。逆にそれが、今回「戦をせんとや…」で記憶に燃料を入れられて面白かったのかもしれないです。

軍記物の良さ

さらに脱線します。まずは平家物語について。

自分としては、無念を覚えながらも昔を思いきっと空を仰ぎながら散っていく義仲と、無常観のある平家一門の散り様が好きで。

歴史の「どうにもならない」感覚、これが体現されている。きっと、源平合戦の後に出家した熊谷次郎直実のような武士達とその後の顛末を見て聞かされた誰かによって、連綿と無常が紡がれているのだろうな、と考えてしまう。

あとはこの時代の軍記物ならではの殺伐とした空気と、命を賭する主従の関係性。実際現実の主従関係などは美しくなんてなかったのだろうが、主従の関係を美しく描いてそれが陳腐なファンタジーにならず、時代による脚色を許容して読めるのは武骨な中世文学の軍記くらいだと思うのです。

なので、単にまずは好きな時代です。いいよね!軍記物。

軍記×若木作品の交差

と、散々語ったけれど「平家物語を感じる」という話がしたいわけではないのです。

なぜなら自分は、何度も読んだ平家物語よりもさらに、若木未生先生作品を何度も読んでいるから。

平家物語の原文を感じさせる語りと、著者特有の描写の織り交ぜ方が絶妙なんです(早口)。

この本では、特に戦場(×せんじょう、〇いくさば)での描写はほぼ平家物語なので、そこから唐突に主人公の梶原景時の主観に流れる瞬間が、痺れる。

知性と教養と仏への信仰心と、坂東武者の生来の獰猛さを併せ持つが故に孤独な景時、という現代からでないと投影できないイメージが文章に溶け込んでいて平家物語の中で焼かれている。改行の途上に篝火が群れとなり揺れている。ごうごうと。

自分の知っている軍記物に、さらに創作の異物が入り込む感覚。

冒頭からひたすらにつむがれる景時と、そして頼朝。繊細な苦悩と孤独。

あぁこれが歴史創作だなぁと、しみじみしながらページをめくる。展開は分かっているから、あとはどこで誰にどういう感情を宿らせるのか。その描き方と、時折入り込む戦の描写で平家物語に引き戻され、そしてまた景時の心情に同調する。滅びを悟りながら貴人への敬と信条を捨てられない。なんてめんどうくさい。

これが史実を調理する調味料なのだろうな、と強火で踊らされる登場人物と、きっと苦悩した著者を思いつつ、読み終えました。

おそらく、深めに平家物語の研修をしている方やこの時代・分野に詳しい人には、この作品はちょい物足りないんだろうなぁと感じますが、自分はこういう読み方をして面白かったですという話です。

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