作り笑いを心掛けるな。
笑顔が大事だとよく言われる。表情が固いのは良くないことだとよく言われる。いつもニコニコ笑顔でいると幸運を引き寄せますみたいなこともよく言われる。昔飲食店でバイトしていた時、バックヤードに「正しい笑顔の作り方」という貼り紙があった。中央に女性の笑顔の写真があり、口角の上げ方や目尻の下げ方など事細かに注釈されていた。「こんなの地獄の光景だ」とそれを見た私は思った。十年経った今でもその感想は変わらない。「正しい笑顔の作り方」は、地獄に貼られる貼り紙だ。
最近私はショート動画を始めた。最初、少しは愛想良くした方が良いだろうと思って意識的に口角を上げながら撮ったのだが、撮影した動画をチェックして驚いた。画面の中の私が「おばさんの顔」をしていたからだ。笑顔を心掛けているときの私は、胡散臭いスピリチュアルババアの顔をしていた。信じられないくらい気持ち悪かったのでその動画は没にした。口角を上げるのをやめて撮り直したところ、今度は良かった。ちゃんと私だ。良い顔をしている。それ以降、カメラの前で笑顔を心掛けるのはやめた。
私は良い顔をしている人間が好きだ。真摯に何かに取り組むと人は良い顔になる。敬虔な気持ちで生きると人は良い顔になる。そういう人は、話していてちゃんと通じる。一番話が通じないのはへらへら薄ら笑いを浮かべている奴だ。私はそういう奴が嫌いだ。良い顔と笑顔は違う。ましてや作り笑いなどほど遠い。笑顔でいるなと言っているのではない。作り笑いを心掛けるなと言っている。無理矢理作った笑顔は地獄だ。注釈付きの笑顔は地獄だ。やめてくれ。頼むからそんな顔をしないでくれ。心配しなくともちゃんと笑顔は出る。ふとした瞬間に、ごく自然に、当たり前に、コントロールなんかできずに笑顔は溢れ出る。溢れ出た笑顔は大好きだ。目の前の大切な人にはそういう笑顔でいてほしい。おかしくて笑わずにはいられない、楽しくて、嬉しくて、笑わずにはいられないという笑顔でいてほしい。
波動の低い人を避けて波動の高い人と一緒にいましょう、的なことをスピリチュアルババアはよく言う。しかし波動の高い人側にしてみれば、近付いて来たあなたの作り笑いを見て「波動の低い奴が来たな」となることがなぜわからないのだろうか。誰を引き寄せるかよりも結果的に引き寄せた者とどう関わるかの方が大事だということがなぜわからないのだろうか。誰と付き合おうとあなたの波動は変わらない。誰と仲良くしようとあなたの価値は変わらない。あなたの波動はあなたが目の前の人とどう関わるかで決まるんだよ。あなたの価値はあなたが何を選択するかで決まるんだよ。相手の波動が高かろうが低かろうが、あなたの波動はあなたがあなた自身の在り方で、生き様で決めるんだよ。自分の波動が下がることを他人のせいにするな。他人のせいにしているうちはだめだ。それはちゃんとあなたの姿だよ。自分を省みることに蓋をして、何がスピリチュアルだよ。
以前も書いたが、「ちゃんと怒ること」は大切だ。怒ること自体は悪ではない。むしろ怒るべき時に怒らず、勝手に溜め込んで体内で毒素を生成して自滅する方がよっぽど悪だ。人に傷付くことを言われて、本当は喰らっている癖にへらへら笑って冗談めかしてなあなあにするな。ちゃんと噛みつけ。喰らいつけ。「おい」と言え。「こら」と言え。「それは違うんじゃないですか」と言え。大切なものを守りたかったら美しく怒れ。魂を汚したくなかったら正々堂々と怒れ。さあみなさんご一緒に。魂のために美しく怒って魔を祓おう。魔を祓えたら、あとは真顔でOKだ。真顔で真剣に何かをやろう。溢れ出るように笑おう。作り笑いのスピリチュアルババアより、ずっと良い顔で生きようぜ。
私の動画を見てくれた方から「だんだん表情が柔らかくなってきたね」とのご感想を頂いた。カメラの前で話すことに慣れてきたからだろう。私は口角を上げていない。笑顔を心掛けていない。ただ真顔で、真剣に、まっすぐ話している。笑顔を作らず、柔らかに話す。物事に真摯に取り組めば取り組むほど人は自ずと良い顔になる。そういう顔が、私は好きだ。
内なる声に聴いた「家」を、本当に見つけてしまうまでのお話
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