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グローバルアジェンダとの接続

※この記事は、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコースの授業「クリエイティブリーダーシップ特論」の課題エッセイです。授業では、クリエイティブとビジネスを活用して社会で活躍されているゲストを毎回お招きしてお話を伺います。

2021年10月11日(月) クリエイティブリーダーシップ特論 第14回 ゲスト
佐々木康裕さん / Takram ディレクター・ビジネスデザイナー

佐々木さんは超有名人なのでご存知の方も多いと思う。Takram でビジネスデザイナーを務めているが、そのほかにもスローメディア Lobsterr を共同創業されたり、地方の伝統工芸品中心のビジョナリーブランディングを行う PARADE の取締役、ベンチャーキャピタル Miraise の投資家メンター、グロービス経営大学院の客員講師も務めている。

著書/共著には『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略 』(NewsPicksパブリッシング)や最近では『パーパス 「意義化」する経済とその先』(同上)がある。パーパスの本はムサビ CL 教員の岩嵜先生との共著となる。

今回の講義では、佐々木さんのキャリアとこれからのビジネスについてお話いただいた。


佐々木さんのキャリア/IIT ID への留学

佐々木さんのキャリアの転機となったのは、イリノイ工科大デザインスクール(Institute of Design, 以下 ID)への留学だ。元々、伊藤忠商事で働かれていたが、ダニエルピンクの「ハイ・コンセプト」に影響を受けたのと、新規事業をつくる方法論を学びたかったため、ID に留学を決めた。

ID のカリキュラムを見せていただいたが、一見 MBA のカリキュラムかと思う授業が多かった。ビジネスとデザインの接近みたいなものがカリュキュラムからも感じられる。佐々木さんも職業訓練校に近いとお話されていた。

興味深かったのは、佐々木さんが留学されていた ID の当時の学長であったPatrick Whitney の話。「パズルでなくミステリーを解こう」と学生に話されていたらしい。

パズルというのは、論理思考型で資源投入で解決可能、答えがあるものである。一方、ミステリーは気候変動や新型コロナウイルスなど答えがないもの。ミステリーを解く上で重要なのがシステム思考・デザイン思考でプロトタイピングをつくることだ。


グローバルアジェンダとの接続

現在のビジネスにおけるプロダクトやサービスの構成要素が「Hardware +Electronics +Software +Network +Service +Data +AI」と、いわば総合格闘技化する中で「グローバルアジェンダ」との接続化が重要となる、と佐々木さんは話されていた。この単語について、別日に岩嵜先生と簡単にだが意見交換する機会をいただいた。それらの話を踏まえて、自分なりに整理すると「グローバルアジェンダ」には大きく二つの意味がある。

一つ目が「未来の兆し」の意味だ。ビジョンや事業戦略を考える際、現状の視点で未来を考えてしまうことが多い。いわゆるフォアキャスティングと呼ばれるアプローチだ。だが、あくまでも視点が現状なので、これから進むべき道を見誤ってしまうことがある。昭和のようにどの方向に行けば良いかなんとなく分かっていた時代に比べ、変化の激しい現代ではなおさら進む道を考えることは難しい。

そのために、一度視点を未来に切り替える必要がある。仕掛けとして有効なのが「未来の兆し」を議論に参加している人で持ち寄ることだ。「未来の兆し」を持ち寄ることで、この先こっちの方向行った方が良いんじゃないか、みたいなものがおぼろげながら見えてくる。(自分の書いた記事「ともにめせんをつくるデザイン」のビジョンづくり3番目に書いた「未来に対する洞察」と同じである。)

二つ目が「世界の共通認識」という意味だ。文字通りと言えば文字通りだが、日本とのギャップが大きいと佐々木さん、岩嵜先生ともに話されていた。

講義中、例として挙げられていたのは Right to repair(修理する権利)について。Right to repair とは、パソコンなどの製品をメーカーを通さず消費者自身が修理できるようにすることを意味するが、ヨーロッパではサーキュラーエコノミーへの移行に関連してこの議論が活発だ。一方で、日本ではこの話題はあまり耳にしない。

書いている途中で思ったが、世界かどうかは疑問に思ってきた。ヨーロッパやアメリカ中心の議論のように思える。ただ、それらの国の潮流が世界をリードしているのも事実であろう。

佐々木さんが「パーパス」を書くのも、スローメディア Lobsterr を手がけるのも、日本とこのグローバルアジェンダの接続の甘さに危機感のようなものを覚えているからと推察される。

VUCA の時代と呼ばれる現代において、進むべき道を間違わないように、グローバルアジェンダに触れる仕組みづくりを意識しなければならないと思う。


今年度の「クリエイティブリーダーシップ特論」講義は今回が最終回です。他の講義やムサビでの学びをゆっくりとしたペースで書いていきたいなと思います。

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