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映画「あのこと」、余談。

12月×日
新宿ピカデリーで「あのこと」(オードレイ・ディヴァン監督)

主人公の動きに合わせてカメラが動き回るようなタイプの映画は好きじゃない。
寄りの画(バストショット~クローズアップ)が多い映画も好みじゃない。
しかし「そんなことはどうでもいいからこれを見ろ」って感じで襟首をつかまれて引きずり回されるような力のある映画だった。
ニュースでワクチン接種の映像を見るだけで「イタタタタ」となる人間にとってはちょっと、というかかなりキツイところもあったが、観て良かったと思う。

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内容については「まあ観てくださいよ」という感じで、あまり書く気にならないので後は余談である。

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ちょっと驚いたのが、60年代のフランスで堕胎がこれほどタブー視されていたということ。
違法だったということ自体は別に意外ではないが、違法にもいろいろある。
違法なので大っぴらに話すことはできないけれども、まあやってる人はやっているよね、というような「違法」もあるだろう。
しかしこの映画の中では「堕胎」という言葉が、口にするのもはばかれるようなものとして描かれている。
直接その言葉を口にせずにほのめかすだけでも、それを耳にした側はビクッとしてあたりを見回し、誰かに聞かれていないか気にする、というような描き方がされており、そこまで強い禁忌だったのか、というのが意外だった。
なんとなくぼんやりとフランスはそういう点で進歩的だと思っていたので。
宗教的なこととか、色々あるんだろうな。

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それに関連して思い出したのが、昔観た「主婦マリーがしたこと」と言う映画。
監督はクロード・シャブロル。
ヌーベルバーグの監督、というとジャン・リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、ジャック・リヴェット、エリック・ロメールの次あたりに名前が出てくる監督だ。
「Yahoo映画」のあらすじをそのまま引用すると、

ナチ占領下のフランスで、生活のため、にわか堕胎医となった女(I.ユペール)。彼女が夫の密告により逮捕され、ギロチンにかけられるまでを、巧みなる緊迫感の醸成により、つとめてクールに描いた作品。

フランスが舞台で、実話をもとにした作品、というところは「あのこと」と同じである。
「主婦マリーがしたこと」はたしか1943年頃の話。
堕胎罪で死刑、しかもギロチン、というのはなかなかすごい。
まあ、何人処置したのかとか、命をおとした患者がいたのか、とかによるのかもしれないが。
「あのこと」はだいたいその20年後。
戦中と戦後、という違いはあるが、さて20年は長いのか短いのか。

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「主婦マリーがしたこと」はもう一度観てみたいな。
たしか新宿のシネマスクエアとうきゅうで観た。
原題は「女たちの物語」という感じらしいが、「主婦マリーがしたこと」という邦題はなかなか悪くない。
そういえば「あのこと」の中で、主人公のアンヌは妊娠のことを「主婦になる病気」と言っていたっけ。
字幕だから実際のニュアンスはよくわからないが、「主婦になる病気」という言い方が印象的だった。

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