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ウディ・アレンはいつも上出来「サン・セバスチャンへ、ようこそ」

2月×日
TOHOシネマズ日比谷で「サン・セバスチャンへ、ようこそ」(ウディ・アレン監督)

主人公は以前は大学で映画を教えていて、今は小説を書こうとしている初老の男。
神経質なところがあり内向的で、老境に入ろうとしているのに、まだこれから新たに何か大きなことが出来るんじゃないか、と夢想している男・・・、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ、なんか急に心臓のあたりが痛くなってきたぞ・・・・・・・・・・・・、
うん、まあ・・・、ともかくそういう男が主人公で、映画の広報をしている妻に付き合ってその男がサン・セバスチャン映画祭を訪れるのだが、妻が若い映画監督と良い感じになっているのが気になって・・・、みたいな話。

サン・セバスチャンという所はスペインで最も著名な観光地の一つらしい。
映画でも美しい景色や街並みを見ることが出来る。
まずは観光映画としても上出来、といったところだ。

撮影監督はヴィットリオ・ストラーロ。
「暗殺の森」「地獄の黙示録」「ラスト・エンペラー」などで知られる名撮影監督である。
ぼくは映画の撮影技術についての知識などまるでないので、
「いや、さすがヴィットリオ・ストラーロ、光の具合が何とも良いねえ」
などと知ったかぶりをするくらいしか出来ないのだが・・・。
ちなみにヴィットリオ・ストラーロは4作連続でウディ・アレン作品の撮影監督を務めている。
「ヴィットリオ・ストラーロの無駄遣い」なんて意地の悪いことを言う人もいるが、高名な撮影監督なら仕事を選ぶこともできるだろうし、4作も続けてつきあっているのなら、ウッディ・アレンとの仕事を楽しんでいるということなのだろう。

× × × × × ×

ウディ・アレンの映画は、間違いなく面白い。
かなり多作なのだが、常に一定以上の面白さは保証されている、という感じ。
逆に何かとんでもなくスゴイものや変なものが出てくることもない。
ここら辺は、やはり多作だがモノスゴイ傑作も撮れば、なんじゃこりゃ、という作品も撮るクリント・イーストウッドと違うところだ。

一定とは言っても作風がみな同じではなく、コメディもあればシリアスもあり、趣向も様々、というのだから偉い。
今でも充分評価が高い監督ではあるけれども、まだ正当に評価されていないのではないか、という気もする。

ただ、あまりにも一定以上の面白さが保証されていて、しかもとんでもなくスゴイものとか変なモノはない、というのもわかっているので、
「まあ今回は見逃しても次を見ればいいか」
と思ってしまいがちなところもあった。
今回の「サン・セバスチャンへ、ようこそ」も、ああ、ウディ・アレンの新作やってるんだ、と思いつつなんとなく見逃してしまいそうだったのを、そういえばこの人もそろそろ撮らなくなるかもしれないんだな、と思って滑り込みで観た次第。

「サン・セバスチャンへ、ようこそ」は残念ながら近作の中でもかなり小粒。
主役がさえない初老の男なので、ティモシー・シャラメとエル・ファニングが主役だった前作と比べると色気がないのは仕方がないか。
今作のメインの趣向は、主人公が夢/あるいは白昼夢を観て、それが皆モノクロの名作映画・・・「市民ケーン」やら「勝手にしやがれ」やら「突然炎のごとく」やら・・・の世界で、その中に自分(主人公)が登場する、というものなのだが、これが正直言ってそんなに面白くはない。
せいぜい「ようやるわ」と苦笑いするような面白さ。
なのだが、それはウディ・アレンの作品群の中での話で、同時期に公開されているあれやこれやと比べたら、やっぱりかなり上出来なのだ。
常にニヤニヤしながら見ることが出来る楽しい映画だった。

「まあ今回は見逃しても次を見ればいいか」
なんて思って実際見逃している作品もあるのだけれども、ウディ・アレンももう90歳近いのだし、諸事情によりもうアメリカでは映画が撮れないという話もある。
次回作はフランスで撮っていて、もう撮り終わっているらしいが、それが遺作になる可能性もあるわけで、今回は見ておいて良かったな、と思う。

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