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映画「アダマン号に乗って」のこと、

4月×日
新宿武蔵野館で「アダマン号に乗って」(ニコラ・フィリベール監督)
この監督の映画は「音のない世界で」と「ぼくの好きな先生」の2本を観たことがある。
どちらもドキュメンタリー映画で、「音のない世界で」は聾学校の生徒たちを、「ぼくの好きな先生」はとても小さな学校の先生と生徒を題材にしたもの。
どちらも観終わった後に「良いものを観たな」と思わせてくれる映画だった。

「ぼくの好きな先生」が2002年だから、25年ぶりにこの監督の映画を観たことになる。

今回の題材は精神疾患の人達をサポートするデイケアセンター。
セーヌ川に浮かぶ船のような建築物、アダマン号。

精神科医療の世界に押し寄せる“均一化”“非人間化”の波に抵抗して、共感的なメンタルケアを貫くこの場所を、監督は「奇跡」だという。

プログラムより

しかしほとんど説明はなく、そこに出入りする人たちの活動(絵を描いたり歌を歌ったりミーティングしたり)とインタビューが並列的に映し出される。
話の起伏とかドラマチックなところとかは全然なくて、ただただ「人」が記録されている。
それで映画は充分成り立っている。
今回も「良いものを観たな」と思った。

ん?思ったかな?
思った・・・ような気がする。
自分がどういう風に思ったのか、は意外とはっきりしなかったりする。
でも良かったと思うな。

ただ、観終わっての印象は、「音のない世界で」や「ぼくの好きな先生」のような明るいものではなかった。

ああ、つらいなあ、という気持ち。
やっぱりみんな大変そうだから。
そこがどんなに良い場所でも、やっぱり大変そうだ。
・・・ま、こっちも大変だけどな。
いや、もちろんあの人たちの方がずっと大変だし、「俺も大変なんだよ」なんて言うのは馬鹿げたことなのだが・・・。
なんか自分のつらさを何倍にも増幅して見せられているような気がした。

アダマン号が「奇跡のような」場所ならば、他の場所はもっとつらいのだろう、というのはわかる。

でもやっぱりつらい。

「カウンセリングよりも何よりも、薬が大事だ。薬が無いとどうにもならない」
という人がいた。
そうだよな、と思う。
自分もおそらく死ぬまで抗不安剤を飲み続けるんだろうな。

ああ、キツイなあ、と思う。

良い映画だし、意義のある映画でもあるんだろう。
でも、とてもじゃないけど
「みんな違ってみんな良い」
とか
「優しい映画」
とか言う気分にはなれなかった。

5月×日
新宿武蔵野館で「アダマン号に乗って」(2回目)

あらためて良い映画だと思ったし、1回目の時よりは穏やかな気持ちで観ることができた。
でもやっぱりキツイ。

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