「驚異の90分ワンショット」には全然感心しなかったけど、レストランの内幕ものとして楽しめた映画「ボイリング・ポイント/沸騰」
8月×日
新宿武蔵野館で「ボイリング・ポイント/沸騰」(フィリップ・バランティーニ監督)
少し前に観たので、もう武蔵野館での上映は終わってしまったが、場所によってはまだやっていると思う。
~クリスマス前の金曜日、ロンドンの人気レストランのスリリングな一夜、
驚異の90分間ワンショットで撮られた人間ドラマ~
というくらいの前情報で観に行ったので、忙しいレストランのドタバタ&てんやわんやが描かれるも、結局はなんとかその一夜も無事に終わり、色々あったけどまあ良かったね、という感じでクリスマスソングでも流れて終わる映画なのかと思っていたら全然違った。
ふつふつと色々なところで問題が煮えたぎっているレストランのシェフが、ついにボイリング・ポイント=沸点を迎えるまでを描いた話で、心温まるようなところはあんまりない。
ちょっとでも飲食店に勤務したことのある人ならかなり胃が痛くなるらしい。
飲食店勤務の経験が無い自分でもけっこうひりひりした。
複数人で「いつまでに終わらせなきゃならない」みたいな仕事をしたことがあるなら誰でも、あー、こういうのあるよな、と思うのではないか。
監督は十年以上飲食業界にいた人、ということなのでそこら辺の「本当っぽさ」は確かなのだろう。
なんにしても内幕もの、というのは面白いものだし、なんといってもこの映画は役者がみな良い。
役者がみな良いのでまあ不満はありつつも観て損はなかったかな、という感想。
× × × × × ×
さて一番の不満はこの映画の売りである「驚異の90分間ワンショット」が大して効果的でも無ければ魅力にもなっていない、ということ。
短い上映時間のわりに今ひとつテンポが悪く感じるのもこれが原因だと思う。
昔、まだ映画のカメラが大きくて重くて、移動するためにはレールを敷いてその上を押して動かすか、クレーンに載せて動かすか、しかなかった時代、そんな制約の中で、カットを割らない「長回し」には(もちろん全部が全部じゃないが)不思議な、時に魔法のような魅力があったと思う。
しかしカメラの小型化軽量化と、手振れ補正技術の進歩によって、やろうと思えば簡単に長回しが出来るようになっていったのと同時に、長回しの魅力は薄れていったように感じる。
この映画でも、映像的に長回しならではの魅力、というのは感じられなかった。
撮るの大変だったろうなあ、とは思うけど。
ただ、映像としての魅力とは別の部分で、役者に緊張感を与え集中力を高める、みたいな効果はあるのかもしれない。
昔、大森一樹監督がなにかのインタビューで、長回しをすると現場がピリッとするんだよね、だからちょっとスタッフがだれてきたなと思ったら長回しをしたりするんだ、みたいなことをちょっと皮肉っぽく言っていた記憶がある(うろ覚え)。
そういう意味で、この映画の役者がみな良く見えたのには、長回しの効果もあるのかもしれない。
でもやっぱり、「計算されつくしたワンカット撮影」ではなく、「計算されつくしたカット割り」で、忙しいレストランのドタバタ&てんやわんやが描かれるも、結局はなんとかその一夜も無事に終わり、色々あったけどまあ良かったね、という感じでクリスマスソングでも流れて終わる映画が観たかったな、と。
まあ、それだともう全然違う映画になってしまうけれども。
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